70年前の痕跡-2
アレクシオスが帝都に戻り、宮殿の資料室でアストライアと落ち合った。
「例の町で魔人と思しき者の過去が分かった。酷い目にあっていたようだ……」
椅子に座って報告書の写しを鞄から取り出しながら、アレクシオスが真剣な目で呟くように言った。それを聞いたアストライアが机に近づき、机の上の写しを手に取りながら言う。
「私の方でも70年前の冒険者ギルドの調査が終わったわ。オズロ兄弟は腕のいい戦士として名が通っていたけど、裏では禁呪物の取引をしていた疑いがある。貴方のこの情報と合わせて考えると、オズロ兄弟はアルガスを経由して禁呪物を流すルートを開拓していたみたいね」
それを聞いたアレクシオスが顎に手を当てながら呟く。
「オズロ兄弟は魔人との面識があったのだろうか?」
アストライアが報告書をテーブルの上に置きながら答える。
「アルガスの屋敷を燃やしたのが魔人の仕業だったなら、そうなのかもね。恨みがあったのか、目撃者を消す目的だったのかは分からないけど」
魔人のルーツを垣間見た二人は、暫くの間無言になった。
アレクシオスとアストライアが再びカフェを訪れた。奥の部屋でガロと向かい合っている。探知魔道具について進捗があったという連絡があったので、口頭で話を聞くために、再びガロに会いに来たのだ。
「そうか、アイツにそんな過去があったのか……」
アレクシオスから魔人の話を聞いたガロが呟くように言った。
「死なない被検体。黒魔法使いにとっては都合のいい存在でしょうね」
アストライアが椅子のひじ掛けで頬杖をつきながら、ガロを見つめて呟くように言った。ガロが表情を変えずに答える。
「でしょうな。それは否定しませんよ」
黒魔法には何かと生贄を伴う。それゆえに黒魔法使いたちは生贄となるモノをかき集めるために、闇ギルドを含めた様々なルートへ手を出す。それを踏み倒せる不死者は都合がよい存在だろう。
闇ギルドが出自に関わらず人を集めるのも、どのような人であっても活用できるからだ。
アレクシオスが話を切り替える。
「それで、探知魔道具の件はどうなったのですか?」
それを聞いたガロがテーブルの呼び鈴を押した。呼び鈴の音を聞いたルーデルがドアをノックして入って来た。手には何も持っていない。
ガロがアレクシオスの方を向いて答える。
「本拠地とは話がつきました。直すためには壊れた探知魔道具を持ってこいという話です。新しいのを送ってくれとは言ったんですが、それは却下されてしまった。それでルーデルに探知魔道具の運搬を頼もうと思っています。で……」
ガロがアレクシオスの青い目を見つめて続ける。
「誰かにルーデルの護衛を頼めませんか?」
それを聞いたアストライアが眉間にシワを寄せながら割って入る。
「なんで我々が?貴方たちのギルドならいくらでも人手があるでしょ?」
ガロが不敵な笑みを浮かべながら答える。
「ルーデルには探知魔道具を運ぶ以外にも仕事があるからです。その仕事先へ行くには、貴方がたのような白魔法使いに面倒を見てもらった方が捗るんですよ」
アストライアがガロを睨みつける。ガロはテーブルに置かれたティーカップを手に取って、その香りをかぎ始めた。
アレクシオスはガロを見つめながら表情を変えずに聞く。
「それはどこです?そもそも本拠地とはどこにあるのですか?」
ガロがティーカップを見つめながら、その問いに答える。
「70年前に貴方たちが倒して属国にしたグレンフォート王国ですよ。本拠地は王国のどこかにあるんです」
アレクシオスがそれを聞いて疑問を口にする。
「どこか?貴方は本拠地の場所を知らないのですか?帝都の重鎮の貴方が?」
ガロがティーカップをテーブルの上に戻し、目を逸らしながら答える。
「帝都の経済規模は大きいが、闇ギルドにとっては二線級の扱いです。だから向こうは私たちの情報を知っているが、私たちは向こうの情報を知らない。そりゃそうでしょう。この都市は白魔法使いの本拠地なんだから!」
アストライアが冷たい目でガロを見つめる。アレクシオスが目を閉じて答える。
「状況は分かりました。で、貴方はそれでもよろしいのですか?」
闇ギルドの本拠地を筆頭の白魔法使いに漏らす。これは明確な裏切り行為だろう。ガロが鼻で笑ってから答える。
「別に。そもそもグレンフォート王国が負けてから連中の力は落ちてきている。私たちはアイツら無しでもやっていける。これ以上、連中にアゴで使われなきゃいけない理由はないと思いませんか?」
表の世界の闘争によって生み出された国力差は、時間をおいて裏の世界にも影響を与えていたようだ。ガロが続ける。
「そう言う訳だから、出来れば少数精鋭で護衛してもらいたいんですよ。あからさまに堂々とやられると流石に困りますからな。これぐらい構わないでしょう?私たちだって貴方らのために働いているんですから」
アストライアが何か言いたげな顔をし始めたが、アレクシオスがテーブルの下でローブをそっと引っ張ってそれを嗜める。アレクシオスが答える。
「分かりました。それで構いません。ただそれによって何が起きるかは、それなりに覚悟をしておいて下さい」
アレクシオスとしても属国にある闇ギルドの本拠地を知って、そのまま放置するつもりはない。彼は帝国の筆頭白魔法使いなのだ。
ガロがテーブルのティーカップを手に取った。それを一気にあおってから、テーブルにティーカップをコトリと置いてから答える。
「では、交渉成立ですな」




