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70年前の痕跡-1

 アレクシオスが帝都から離れた辺鄙な町を歩いている。当時の魔人が闇ギルドの任務でこの町を訪れたとガロから聞いて、何か手がかりが無いかの調査をしに来たのだ。アストライアは別の調査のために帝都へ残っている。アレクシオスは町の役場に向かった。

 

「70年前の記録ですか。残っていますかね、少々お待ちください」

 そう言って役人の男が役場の奥に向かって行った。アレクシオスは来客用の椅子に腰かけながら役場を見渡す。こじんまりした町の規模を反映するように、こじんまりとした建物だ。

(こんなところに黒魔法使いが居たのか。何をしていたんだろうか?)

 奥から戻って来た役人が、アレクシオスの前にあるテーブルの上にドサリと台帳を置いた。役人がその分厚いページをなれた様子でめくっていく。そして該当のページを見つけると、そのページをアレクシオスの目の前で開いて見せた。


 帝暦129年12月24日

 アルガス・グレイム 邸炎上事件


 担当:フィリップ・ノートン

 場所:カルナクリンストリート4-11 アルガス・グレイム邸

 時刻:11:24

 被害者:アルガス・グレイム、シグルド・オズロ、ロルフ・オズロ

 概要:

 当日午前にアルガス邸で出火があったことが住民からの報告で伝えられる。既に現場にいた消防団が消火活動に当たっていた。現場は火の勢いが強く消し止めることが困難だと判断された。消防団による延焼を防ぐための建物の取り壊しと、井戸からのバケツリレーによって二次被害は免れた。

 完全に消火した後で現場検証を行い、前述した三名の遺体を発見した。

 屋敷の主人であるアルガス氏は一階の奥の部屋で倒れており、遺体は酷く損傷していた。遺体に嵌められていた指輪から辛うじて本人と判断出来たほどである。

 シグルド、ロルフ両氏は入り口付近で倒れていた。彼らの遺体もまた損傷が激しく、残された武具から辛うじて冒険者ギルドの関係者だと判断出来た。彼らの身元を確認するために、帝都の冒険者ギルドに連絡を入れた。その後の冒険者ギルドから来た者たちによって、彼らがオズロ兄弟と呼ばれる高名な戦士であったことが分かった。

 三人に共通していたのは、火事によって死亡した痕跡が見られないことである。医者が口腔内を確認したところ、煙を吸った形跡が見当たらないとのことだった。このことから、何者かが彼らを殺害し、その痕跡を消すために屋敷へ火を放ったのではないかと推測される。

 アルガス氏とシグルド、ロルフ氏との関係は不明。


 報告書を読み終わったアレクシオスが、その目を役人に向けて尋ねる。

「この事件の犯人は捕まっていないのですか?」

 役人が別のページをめくりながら答える。

「そのようですね。アルガスの関係者とオズロ兄弟の関係者がいざこざを起こして一触即発の様相を呈していたので、当時の担当もあまり関わりたくなかったようです。あまり熱心に調査されることも無かったようですね」

 それを聞いたアレクシオスが役人にお願いをする。

「魔人調査の一環で、この事件の調査をしています。これらの一連の事件の資料の写しを頂けないでしょうか?それと当時のことで何か分かれば、我々に連絡を頂きたい」

 アレクシオスの頼みに、役人が嬉しそうに答える。

「ええ!分かりました。写しを作るのに少々お時間を頂きますね。また明日にいらしてください!」

 そう言うと役人は嬉しそうに台帳を持って、小走りで裏に向かっていった。この小さな町の役所に高名な白魔法使いがやって来て、しかも重要事件に関しての調査の協力をお願いされたのだ。彼は張り切っていた。

 アレクシオスはそんな役人を微笑みながら見送ると、その席を立って役場を後にした。


 アレクシオスが当時の事件現場にその足を向ける。その場所は既に新しい家が建てられており、その家の庭では子供達が遊んでいた。凄惨な事件の跡はどこにもない。その家の反対側にある建物の庭では、屋外のテーブルで向かい合った二人の老人がボードゲームに興じていた。アレクシオスが庭の外から二人のボードゲームの様子をじっと見つめる。

 禿げ頭の老人が駒を動かすと、目の前の白髪の老人に勝ち誇る。

「これでオイラの勝ちだな!」

 白髪の老人は悔しさで無言になり、その顔を赤くしている。

 アレクシオスが庭の外から声をかける。

「お見事です!でもその前に相手の方が月影の駒を2-11に動かしていると、勝敗は変わっていましたね」

 それを聞いた白髪の老人が覗き込むようにして、駒を動かした。そして感心したように呟く。

「なるほど、こうすれば良かったのか!こうなればワシの勝ちだったな」

 禿げ頭の老人も感心したように盤からアレクシオスに目を向けて言う。

「兄ちゃんやるね!この辺じゃ見ないイケメンだけど……白魔法使いかい?」

 老人はアレクシオスのローブを見て白魔法使いと判断したようだ。だが彼が高名な白魔法使いとまでは分からない。とはいえ、アレクシオスはわざわざそんなことを伝えるようなことはしない。微笑みながら老人に声をかける。

「ええ、昔の事件について調査をしています。もしよろしければ、お話を伺ってもよろしいでしょうか?」

 

「70年前の火事ね。あったね、そんな事!」

 禿げ頭の老人が懐かしそうに言う。白髪の老人も相槌を打ちながら言う。

「ワシらがガキの頃の話だな。幽霊屋敷で火事が起きて中から人の死体が出て来たんだ。辺鄙な町の大事件だったから覚えている」

 それを聞いたアレクシオスが口を挟む。

「幽霊屋敷だったんですか?」

 禿げ頭の老人が答える。

「ああ。あの家から時々うめき声が聞こえてきたり、変な臭いがしたりしていたからみんなそう呼んでいたんだ。住んでいた男も胡散臭いおっさんだったから、親からは近づくなって言われていたよ」

 白髪の老人が突っ込む。

「とは言え、そう言われたら行きたくなるヤツがいるんだよな。お前とかさ」

 アレクシオスが驚いた顔をして禿げ頭の老人を見つめて質問する。

「その屋敷で何かを見たんですか?」

 禿げ頭の老人が頭をペチペチと叩きながら、その時の記憶を思い出しながら答える。

「俺はドアの隙間とか窓から中を覗いただけだったけどな。確か屋敷の男と、もう一人の男がいたような気がする。印象に残らない、冴えない男だったな。奴隷、と言うか実験体みたいに扱われていたような気がする。それで怖くなって逃げたんだ」

 アレクシオスが懐から魔人の似顔絵を出して、禿げ頭の老人に見せた。老人たちがその似顔絵を覗き込むように顔を近づける。禿げ頭の老人が思い出したように叫んだ。

「そうそう、こんな顔をしたやつだった。冴えなさ加減がそっくりだ!」

 

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