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闇ギルドのガロ-3

 暫くの間、ガロは無言で震えていた。アレクシオスとアストライアがガロを見つめ続けている。震えの止まったガロは、ぽつりぽつりと70年前に起きたことを語り始めた。


 ドナルドと名乗る男との出会い。

 闇ギルドへの勧誘。

 闇ギルドの魔術師アルガスの訪問と冒険者ギルドとの衝突。

 そこからの別行動。

 そして、フローレンス邸事件。


「……俺が知っているのはこれぐらいだ。だからアイツの事は殆ど知らない。その後、ダズの兄貴が責任を取る形で探知魔道具を手にしてアイツを追いかけた。後はアンタらも知る通りだ」

 喋り終わったガロは、疲れたと言わんばかりにティーカップの中身を一気飲みした。

 話を聞いていたアストライアが、腕組みをしながら呟くように言う。

「今の流れが本当だとして、エメリア殺害の動機が全然分からない。一体何があったのかしら?」

 アレクシオスも考えながら呟く。

「帝都に来る前は何をしていたんだろうか?話を聞く限りでは来た時点でランク12の黒魔法使いだったようだけど」

 ガロが空になったティーカップをテーブルに置いて言う。

「アイツの事は俺も良く分からん。覚えているのは、冴えない男だったという事と……」

 ガロが当時を思い出しながら続ける。

「殺すのに躊躇が無いところだ。だからモリガンを殺したのも別に不思議じゃない。あの女の性格の悪さを考えると、ドナルドならキレてやりかねないからな……」


 暫しの沈黙の後、アレクシオスはテーブルの上にある探知魔道具を一つだけ手に取って話を変える。

「探知魔道具の修理の話に戻ります。本拠地で作っているなら本拠地で修理できると思うのですが、それを頼むことは出来ないのですか?」

 それを聞いたガロが苦い顔をしながら答える。

「出来るかもしれない。だがそれを頼むにはドナルドの件を蒸し返さなきゃいかん。裏切り者の粛清が有耶無耶になっているのに、わざわざ自分で問題にしたくないんだ。俺はアイツには関わりたくない」

 アレクシオスが無言の圧でガロを見つめる。ガロは目を逸らした。アレクシオスが口を開く。

「そうは言われましても、魔人は既に国際的な問題になっています。私としても、そうですかと言って引き下がることは出来ません。帝国に生きる帝国市民として、ご協力頂けないでしょうか?」

 そう言ってアレクシオスが頭を下げた。隣のアストライアも合わせて頭を下げる。

 ガロは困った。


 ガロは帝国の光の生み出す影で生きる闇ギルドの者だ。権勢を誇っているように見えるが、自分が影者であることを重々承知している。

 その彼の目の前にいる男は、帝国でも名高い男だ。英雄の祖父母を持ち、彼自身も巨人と共に竜と戦い、高名な黒魔法使いを打ち破った現代の英雄だ。光そのものと言って良いだろう。

 この男を完全に敵に回したら、ガロは帝国で生きていく事など出来ない。どれだけ去勢を張って取り繕っても、ガロはこの男に勝てないことは分かっている。分かっているからこそ、この帝都の闇ギルドの頂点に立つことが出来ているのだ。


(お願い、を断る?無理だな……)

 ガロは潮時を悟った。

「分かりました、協力しましょう。裏切り者の粛清は義務でもありますから、修理の要望は恐らく通るでしょう」

 そう言うと、ガロはテーブルにある呼び鈴を押した。チリンという音を聞いて、一人の男がドアを開けて入って来た。

 ずんぐりした小男で、顔が縮れた赤い髪と髭で埋まっている。ガロがその男に声をかけた。

「ルーデル。この探知魔道具の修理依頼を本部に出せ!」

 それを聞いたルーデルがテーブルの近くにやって来た。テーブルの近くに来たルーデルを見たアストライアが口を開く。

「待って!その男には何か魔法が掛かっている。さっきの魔力探知で魔力の痕跡を確認した」

 それを聞いてガロが驚いた。

(部屋の外にいたルーデルも調査対象に入っていたのか。そうかこの女、アストライアか!)

 ガロが狼狽えているルーデルを見てから、アストライアに目を向けて言う。

「確かにルーデルには私が魔法を掛けている。だがそれは必要な魔法だ」

 それを聞いてもアストライアは不信を隠さない。ガロがため息をついてアストライアに言う。

「不信に思うなら解呪でも掛けて下さい。そうすれば分かるでしょう」

 それを聞いたアストライアが躊躇なくルーデルに解呪を放った。その後で再び魔力探知を使って首をかしげる。

「魔力の反応は消えた。でも変わりはないわね」

 だがルーデルは慌てふためいて、何やら訳の分からない言葉を呟き始めた。そのルーデルに向かってガロが何かの魔法を放った。

 その魔法を受けたルーデルが、あっとした顔をしてガロに言う。

「あ、わかります。喋れます」

 それを聞いたアレクシオスは気がついた。

「意思疎通の魔法か。彼はこの大陸の者ではないのか?」

 ガロがルーデルを見ながら答える。

「ええ、彼は海を越えてこちらに来た異邦人です。なので言葉が分からない。私が意思疎通を使って会話が出来るようにしています」

 そう言うとアストライアに目を向けて言う。

「これで満足ですか?」

 アストライアは一瞬だけ気まずそうな顔をしたが、すぐに気を取り直して答える。

「ええ、大変失礼いたしました。ご協力頂きありがとうございました」

 そう言うとガロとルーデルに非礼を詫びるように頭を下げた。

 ルーデルはアストライアから目を背けながら、テーブルの上の壊れた探知魔道具を手に取る。アレクシオスは自分の手に持った探知魔道具を鞄にしまった。

(念のために、一つは手元に残しておこう)

 万が一どちらも失うと、以後の追跡が不可能になるからだ。

 探知魔道具を持ったルーデルが足早に部屋から出て行った。

 ルーデルが出て行ったことを確認してから、ガロがアレクシオスに目を向けて言う。

「本拠地から連絡が来るまでに暫く時間が掛かるでしょう。進捗があったら連絡を入れます。これでよろしいでしょうか?」

 それを聞いたアレクシオスが笑顔になった。

「ご協力頂き誠に感謝いたします!」

 そう言うと、握手のためにその手をガロに向けて差し出した。ガロは少し躊躇しながらも、その手を握り返した。


 ガロが店から出て行く二人を見送る。見送ったガロは深いため息をついた。

 そんなガロに、先ほど外のテーブルで対応していたウェイトレスが近づいて声をかけて来た。

「オーナー、大丈夫ですか?先ほどの方って白魔法使いですよね?もしかして、何か悪いこととかしたんですか?」

 ウェイトレスは普通の従業員なのでガロの正体は知らない。ただのカフェのオーナーだと思っている。

(悪いこと?滅茶苦茶しているな……)

 ガロはそんなことを内心で呟きながら、笑顔でウェイトレスに答える。

「ちょっとした人探しの調査の依頼を受けていたんだよ。ただ働きだから嫌だったんだが、断り切れなかったんだ。私も帰るから気にせず仕事に励んでくれたまえ!」

 そう言ってガロも店を後にする。

 日が暮れ始め、影の差し始めた街道を歩きながらガロは考える。


 最初は闇ギルドでの動きを隠す目的で始めた商売だったが、思った以上に上手くいってしまった。こうして表と裏を行き来していると、自分が何者なのか分からなくなる……

 ドナルド……その後で色々と名前を変えて、今では魔人か。アイツは今、何者なんだろうな?


 夕日を浴びた大きな建物が作り出す大きな影に向かって、ガロはその歩みを進めていった。

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