第138話 次の戦場は何処
シシドウに水をぶっかけてゾンビ化を解き、今度こそ俺たちは一般人を救出してエリアの外へと歩いて行く。早苗に幽霊で索敵を行ってもらっているが、現状近くに他校の生徒は現れない。派手に戦闘をしたが、他にも戦闘音はしていた。割ける人員が少ないからか、そっちの方に逸れていったか、なんにせよ無事にエリアの端まで一般人を送り届けることができた。
「みなさんの戦闘を近くで見ていて実にユニークで面白かった。これを機に前向きに運動することにするよ。一般人救出おめでとう。」
そう言って、一般人役の千の貌持つ化身は、目の前に扉のような空間の裂け目を出現させ、その中へと入って行くと、その扉は消えていった。
「ふう……ようやくひと段落着きそうですね!」
「ですが、これをあと最低でも一回は行わないといけないと思うと荷が重いですな。補給班のところでにんじん食べたい」
「星谷くんよお、これちょっと労力の割に合わないんじゃなぁーい?あの一般人役を救出したとて2ポイントじゃん?」
軽口混じりの不満が飛ぶが、言いたいことは分かる。実際このミッションはリスクに対して報酬が低い。これだけ派手にやって他校との接敵が今のところないのも、このミッションよりも、旗取り合戦に他校が注力しているからだろう。
「割に合わないと言えばそうなるが、最低でも5人救出がノルマだ。前回の色旗合戦は、俺たちが赤旗、南高が青旗、狩北が黄色でそれぞれ5ポイント獲得したことになる。ミッションの差異がない前提だが、俺たちにポイント差はない。」
「星谷殿、私たちの旗を取られていること忘れてませんか?」
「いいや、俺たちが目指すのは全ての旗を回収して完全な一位を目指すことだ。だが、奪還だけ成功した場合でも一位を取るための保険として、このミッションで半数以上のポイントは稼がないといけない。」
「一位になるメリットってあるんか?俺ちゃん分かんない。」
「実は私、幽霊さん経由で一位の特典を知ってるんですよ……いや、正確には知っちゃったんですけど。」
「やっぱり特典あるの!?」
「にんじんとか!?」
「俺ちゃんたちの戦いがアニメ化するとか!?」
「ひみつです!」
「「イジワル!!!」」
緊張が抜けたことで空気が一気に緩む、その軽さに救われる一方で、どこか嫌な予感が消えない、そのとき、樹海の奥から地面を蹴る重い音が近づいてくる。現れたのは一匹のフェンリル正確に言えばガロウが変身した黒いフェンリルとその背に乗るの天野だった。獣の姿のまま一直線にこちらへ駆け寄ってきたかと思うと、手前で減速し、天野が軽やかに飛び降りると同時にガロウも人の姿へと戻る。
「元気そうだな、お前ら。」
「天野、ガロウ!そっちも軽傷みたいだな。」
「まあな、天野のZONEのおかげだ。」
「褒めても何も出ませんよ。」
天野は少し照れくさそうに視線を逸らす。いつもならもっと素っ気ない返しをするところだが、さっきまでの戦闘をくぐり抜けてきたせいか、ほんの少しだけ声音が柔らかい。
「そっちも上手くいったみたいだな。シシドウの方はどうだった?」
「問題を解いて、あいつをゾンビ化させて、その上で降参まで持っていった。やたら面倒な相手だったが、あれで一応は片付いた。」
「それは何よりだ。こっちも、カイジの野郎を降参まで追い詰めた。天野の落雷を数十発入れてなお体がぶっ壊れてなかったのが驚きだったが。」
「今のところ、こちら側の収穫は一般人役の救出成功といったところですかね?」
「収穫はそれだけじゃねえぜ。カイジの野郎が最後に有益な情報を残していきやがった。」
「それは……?」
「Dr.カウザーが最後の一般人役を守っているらしい。」
空気が変わる、ほんの一瞬前までの緩さが嘘みたいに消え、全員の視線が一点に収束する。
「カウザー先生本人が出るのですか……火野先生殿と肩を並べる実力者と戦える機会が与えられると考えれば、武人としては是非手合わせをしてみたいですが、今回は強いて言うのであれば悪者役……望み薄ですヒヒン。」
「火野先生時みたいな対特級呪物戦法をやろうと思っても、情報少ないし、諦めモードでいいんじゃない?それまでの八人のうちで四人救出しちゃえばいいんだしー。」
「それだとなおさら急がないとですね!」
「そうだな、他班と合流を早めて救出ペースを上げるか。どれだけの人数が救出されてるかの確認も取りたいし、一度補給班のところに戻って体力回復と作戦会議だな。」
「おい星谷君。作戦会議ばかりする小説は面白くないぞ。」
「ナニ目線の話だよ。」
「俺ちゃんの作者からの加護による第四の壁の破壊による読者目線のものだよ。」
「じゃあどうしろってんだよ。」
「俺ちゃんに質問をするな。でも、他班はどんな千の貌持つ化身と戦ってるのかは気になるところではあると、俺ちゃんは思うね。だって、俺ちゃんたちが戦ったシシドウとカイジって千の貌持つ化身の戦闘員の一人な訳で、他にも戦闘員はたくさんいるんでしょん?千の貌持つ化身そのものに対抗できるかもしれないヒントがあるかもだし。」
「じゃあ、他班と合流するのが一番か。」
「いぇす・きりすと。読者ちゃんも見たいでしょ?ガマたちがバチバチに戦ったり、女子生徒の服が開けたりとかさあ?」
「だから、お前はどこ目線で話してんだよ。とりま補給班のところに寄りつつ、他班と合流するってことで。」
ワイら二班は星谷はんの指示に従い、星谷はんらのいるこどもの森方面のさらに奥のあいち健康プラザちゅうガラス張りの建物まで移動した。星谷はんは、既存の建物などを利用して一般人を捕らえとるはずと言っとた。せやから、市役所並みのデカさのこの建物内に一般人と捕らえとる可能性は高い。
「ええか、この建物内に絶対一般人がおるはずや。それは他校とて分かっとること。接敵したら即潰すスタンスで一般人の救出を行うで。それにワイらは他校と比べ手数も多いやけん確実に他校を潰すために三人一組で行動したいんやが、異論あるやつおるかいな?」
「異論無いでござるよ。ガマ殿。」
「某も右に同じでござる。」
「はーい!泡美もそれでいいよー!」
「私もそれでいい。」
「俺もそれでいいぜ。」
「ほな、これで決定やな。次に三人一組になってもらうで。」
話し合いの結果、ワイと泡美と霧島、佐々木と東雲と戻に決定した。そして、ワイと泡美と霧島の三人はあいち健康プラザにある建物のうちの一つ開発館の方へ一般人役を探しに行くことにした。
「中は意外と綺麗だな。」
「お化けとか出てきそ―!」
「早苗はんの死者との契約ちゅうZONEもあるんやしホンマにいるんとちゃうか?」
と軽口を叩いた次の瞬間。目の前を急速で通り過ぎる仮面の男とそれを追う狩北生徒をワイらは目撃した。




