第135話 頭のネジは柔らかく
俺達は作戦会議を終えて再び体育館へと足を踏み入れた。体育館の警備は以前と変わった点はなかった。ただ一点、変わったところがあるとするなら、体育館からボールが弾むような音が聞こえる点だった。
「よし、行くぞ。」
俺達は互いに頷き合い、決意を固めて体育館の扉を開ける。軋む音と共に開いた扉の向こう、木々に遮られた太陽光がわずかに差し込む薄暗い体育館の中では、カイジと仮面を付けたシシドウが時間潰しにバスケで一対一の勝負をしていた。そして、牢屋もとい器具庫の方を見ると扉は修繕され、前に見た時よりも頑丈そうな扉が備え付けられていた。
そして、扉が開いた音で気付いたのだろう。スリーポイントラインの外側に立っていたカイジは、こちらを一瞥すると、そのまま滑らかな動作でボールを放ちながら言った。
「おっ、随分と速い再戦だな。時間にして、10分程度か。」
高く弧を描いたシュートはリングを綺麗に通り抜け、ネットを揺らして決まり、入って落ちたボールが床に弾む音が静かに体育館内を木霊した。
「あれから南高の生徒二人が来たんだが、お前らよりも骨が無かった。まあ、覚悟のレベルは向こうの方が上だったな。お前らと違って決死って感じだったぜ?ありゃ、ハンターに向いてる覚悟の決まり方だ。お前たちよりもずっとな。」
シシドウが落ちたボールを拾い上げ、カイジにパスを出す。カイジは、手持ち無沙汰にその場でドリブルし、話を続ける。
「見たところ、最初にあった時よりメンバーが減っている。それも、天野校長さんところの娘さんだ。天野校長のような大規模なZONEの行使ができず、器用貧乏といった具合だったと思うが。戦力外だからって置いて来た……って面してはねえな?お前ら何を企んでやがる。それとも、怯えて逃げ出しちゃったのかな?」
「はっ!簡単に教えるか。それに他校のことなんざ知るかよ。俺達は俺達なりの全力を尽くしてこのサバイバルフォレストを勝ちに来てんだ。テメエにどうこう言われたところで、俺達には響かねえ!」
「口先だけーは、一人前だーね。その心を今一度折ってあげよーうか?」
「私達は、折れたとて立ち上がります!ヒヒン!」
「その通りです!」
「もう折れる骨はねえ!というか折れる気がしねえ!」
「こいつらの言う通りだ!俺達は敗れても立ち上がる!例え、折れようが、倒れようが決して諦めない!それがハンターを目指すやつの心掛けってやつだ!」
俺達の言葉を聞いたカイジは、一瞬きょとんとした顔を見せた、いや正確にはそんな仕草を見せたかと思うと、次の瞬間には腹の底から楽しそうに高笑いを上げた。
「ヒヒハハハッ!!!あー!反骨精神極まってんなあ!威勢は結構、大いに結構!なら、千の貌持つ化身を超えて、その精神を――」
カイジはドリブルを止め、ボールを胸の前で挟み込むように両手を合わせる。サイボーグの握力に耐えきれなかったボールは、ぐしゃりと歪んだかと思うと、次の瞬間には圧迫から解放されるように大きな破裂音と共に弾け飛んだ。
「――押し通してみやがれ!」
そして、それが戦いの合図と言わんばかりにカイジは両腰から剣を引き抜くと、迷いなく床を蹴って俺達の方へと一直線に走り出す。同時に、シシドウは自らの仮面を外し、その体をゆっくりと変質させ、顔のない巨大なスフィンクスへと姿を変えた。
「ガロウ、頼む!」
「おう!テメエの相手は俺だぁ!!!ウォーーーーーン!!!!」
ガロウは雄叫びを上げると同時にフェンリルへと変身し、一直線に突っ込んできたカイジへと飛びかかる。そして、その鋭い両顎でカイジの体をがっちりと捕らえた。
「その程度で俺を拘束したつもりか!すぐに抜け出してやる!」
「わかってねえな。これで終わりなんだよ!」
その瞬間、ガロウの足元から白い雲が湧き上がり、体育館の床を覆うように広がっていく。雲はまるで流砂のように渦を巻き、ガロウの体をゆっくりと飲み込んでいった。
「な、これは雲!?」
「場所を変えさせてもらうぜ!」
そして次の瞬間、ガロウの体が完全に雲へと沈み込むと同時に、カイジの姿も巻き込まれるように消え去った。体育館の床に残ったのは、二人がいた場所に漂う薄い雲だけだった。その光景を見ていたシシドウは、二人が消えた場所をじっと見つめながら、ゆっくりと呟いた。
「カイジが連れていかーれ、分断されたわけか。」
「その通りだ。これで少しはやりやすくなった……お前ら!狩りの時間だ!」
俺達はそれぞれ武器を構え、巨大なスフィンクスの姿となったシシドウへと一斉に視線を向ける。
「面白いことをするーな。さーて、問題だ。奪えば増え、与えれば減る。持つ者ほど、見えないように努力をする。これなーんだ?1分で答えよ!」
シシドウはなぞなぞを言い、それを戦いの合図とするように背中の両翼を羽ばたかせ、俺達の方に突撃してくる。俺達はシシドウを囲い込むように四方に攻撃を回避した。
「さあ、俺ちゃんが相手してやるよーん!お尻ぺんぺーん!」
アンディーがシシドウの正面に回り込んで挑発する。シシドウはそれを見て一度は興味を引かれるが、アンディーを右前脚で押しつぶして馬場の方へと狙いを変えた。馬場は体育館の中を時計回りに走りながらシシドウの体に弓を射っていた。放たれた矢は弾かれはするがシシドウの注意を引くのに十分だった。
「さあ、こちらですぞ!ブルフッヒン!」
「俺ちゃんはまだピンピンしてんよー!」
俺と早苗は二人がシシドウの注意を引いている間に、体育館の入り口から階段を駆け上がり、一階の体育館が見下ろせる窓から状況を見つつ、ちょくちょくレーザーライフルで攻撃しながらなぞなぞの回答に集中する。
「ガイア、解析結果は出たか?」
ここに来る前に三問くらいガイアになぞなぞを答えてもらったんだが、ガイアは高性能AIとはいえ、なぞなぞのような問題の回答率は低かった。おそらく豊富な知識と論理的思考が原因なんだろう。だから、その豊富な知識と論理的思考から解析をしてもらい参考程度に俺達にその解析結果を共有してもらうことにした。
『奪えば増えて、与えれば減る。そして見えないように努力する。つまりは、共有自体は可能ではあるが、それを行おうとすることを避ける傾向がある。』
「情報とかかですかね?」
「確かに奪えば増えるし、与えれば減る。だが、それだと範囲が広すぎる気がするんだよなあ。見えないようにするってことは隠すってことだろ?だとしたらどんな理由で隠すんだ?」
「単純に知られたくないことなんじゃないですか?体重とか個人的に恥ずかしいもの、コンプレックスとか!」
「コンプレックスは確かにそうだけど奪うことはできないだろ。奪うってことは盗み聞いたり見たりすることができるやつだ。」
「盗んだりできて共有ができるけどしない……閃きました!答えは秘密です!」
『秘密か。確かに聞いたりすればその者の持つ秘密の数は増え、聞かせた者の秘密の数は減る。それを他者と共有するのは自分次第。いや、むしろ共有を憚られ隠そうとする。概ね答えは秘密で合ってるはずだ。』
「言いたいこと全部言われたな……シシドウ!答えは秘密だ!」
俺がそうシシドウに向かって答えると、シシドウの動きがピタリと止まった。




