第132話 このゲームには必勝法が存在するッ!
無機質なカウントダウンが、やけに耳に刺さる。思わず素っ頓狂な声が漏れた。問題とは聞いていたが、よりにもよって思考問題。それも10分の時間制限付きと来たか。単なる知恵比べじゃない。時間と精神を削るタイプのやつだ。どうすっかなあ。いや、考えてる暇はない。こういうのは手を動かした方が早い。えーっと、何か適当な石とかあれば……
俺は何か使えそうなものを探そうと自分のポッケとかを見てみると、BDCの数枚のカードが出てきた。そう言えば、ガロウに連れられてから遊斗に返すことをすっかり忘れていた。これと手持ちの飴玉と機械剣とマンティスガントレットとビームライフルで……ちょうど21個!簡易石セット完成。
「まず一個づつ取ってった場合をやってみるか」
そのとき、体育館の扉が勢いよく開く。振り向くとガロウ達が駆け込んでくる。息は乱れていないが、明らかに急いで来た様子だ。
「星谷!」
「一般人見つけた。だが問題付きだ。詳しく説明してる暇がないから、パネル見ろ。」
そう言って俺がパネルの方を顎で示すと、全員の視線が表示に集中する。その横でガロウが手に闇を纏い始めた。ガロウのその行動にその場の空気が変わったのを察する。
「くだらねえ。壊せばいいだろ。」
「おい待てステイだガロウ!問題を解かずにそこを開けると警報が鳴る仕組みらしい。」
「カウザー先生の妨害ならいくら俺達とはいえ、振り切ることはできるだろ。そこのサンドバックを囮に使うとかな。」
「えっ!?俺ちゃんサンドバックにされちゃうの!?」
アンディーが全力で後退する。
『残り時間:8分10秒』
「警報が鳴るってことは他校にも嗅ぎつけられるってことだ。お前さっき南高に盗み聞きしたんだろ。時間的にやつらもそう遠くには行っていないはずだ。ここは問題を解くのが最善策だ。」
俺は飴玉達を動かしながら説得する。ガロウは舌打ちするが闇を解き、拳を下げた。とりあえず、一回づつだと先手が勝つな……これはただの総取り合戦だな。次は先手一つ後手二つを試すか……この場合だと後手か。次は先手一つ後手三つを試そう。
「お前らも問題読んだら手伝え。おっ、先手有利か。とにかく試行回数が欲しい。ガイアに聞くのもダメらしいし、紙でもなんでもいいから、勝った時のパターンから必勝法を探す。」
「わかりました。手伝いましょう。」
「ガロウさんの案もいいですけど、やるならちょっとだけ足掻いてからやりましょうよ!」
「もしかしたら、楽に一人目を救助できるかもしれないですからな。ヒヒン。」
「えー、じゃあ、俺ちゃんも手伝うか。」
天野が冷静に頷き、馬場と早苗も事務室から鉛筆類を持ってきて床に並べ、アンディーやガロウも渋々参加する。全員で検証を重ねるが、時間は残酷に削れていく。試行を重ねるほどに時間が削られていくのが気にかかり、焦りが胸を刺したまま解答が出ずに難航する。
『残り時間:1分30秒』
ガロウが苛立ちを露わにする。
「時間がねえぞ。」
その時。アンディーが急に立ち上がった。
「俺ちゃんっ気付いちゃった……!」
「アンディー!お前分かったのか!?」
「このゲームには必勝法が存在するッ!」
「必勝法を探せって言われてんだからあるに決まってんだろ!あーもう、残り時間が1分切りやがった!これもう無理なんじゃないのか!?」
「……あれ?」
早苗が静かに呟いた。
「16って、なんか変じゃないですか?」
全員の手が止まる。
「16?」
「ここから始まると、何を取っても後手が最後取れませんよね?」
その言葉で全員の手が止まり、場が窒息するほどの静けさが訪れた、誰もが瞬時に数の並びを逆算し始め、俺も手元の飴玉を動かすと、何となく違和感があった。
「16から始まると、後手は何個取っても最後を取れない。いや、後手で4の倍数を押し付けられると絶対に勝てない!」
『残り時間:00分30秒』
「先手が一個取って、あとは合計で四つになるように返せば絶対に勝てるはずです!」
「わかった、入力する!」
俺は、パネルに手を伸ばす。だがパネルの入力直前、表示は赤く点滅し始め、鋭利な電子音とともに『時間切れ:試験失敗』の文字が一瞬画面を覆い、次の瞬間に甲高い警報音が体育館、いやエリア内全体に鳴り響いた。
『体育館にて脱獄の形跡アリ。繰り返します……』
「うおっ、くそっ時間切れか!」
警報の嚮きに続いて、外部に通知が飛んでいく音が電子的に聞こえたのが恐ろしかった、ガロウはその瞬間に顔を引き締め、もう何も言わずにダッシュで器具庫へと駆け寄った。
「そこにいるやつ下がってろ!黒条流・一式「破壊」!!」
ガロウは拳を握り、黒条流・一式「破壊」を体重を乗せて器具庫の扉に叩き込む、金属と木材のきしむ音が一瞬で体育館に響くと、扉は内側から粉砕されて開き、そこに閉じ込められていた一般人役がようやく自由の空気を吸い込むようにばたんと扉の内側から飛び出してきた。まあ、仮面は付けていたが。
「急げ、猶予は数十秒もないぞ!」
一般人役の仮面に表示される絵文字は喜んでいた。緊張感ねえなおい。それにおっさんっぽい私服かよ。
「馬場、一般人を抱えてくれ。それ以外は馬場を囲むように移動する!」
馬場は手早く一般人役を抱え上げると、そのまま階段へと駆け出す、俺や他の者たちも続いて階段を駆け上がり、建物の出口へと走り抜けた。
そして俺達が最後の一歩を踏み出した瞬間、世界の歪みのようなものが前方の空間を引き裂き、まるで巨大な扉が割れるかのように空間が二つに割れた。そして、そこから紳士然としたDr.カウザーと二体の千の貌持つ化身が、まるで舞台装置のように静かに現れた。
Dr.カウザーは、迎え入れるかのように両手を広げ、俺達へと話しかけた。
「やあ、みなさん。こんにちは。私の名はDr.カウザー、このエリアの支配者です。時間切れの警報が鳴ったので様子を見に来たのですが、10分では難しすぎましたかね?」
「問題自体は解けたが、時間が足りなかった。」
「そうでしたか。概ね予想通りの難易度でこちらとしては少し安心しました。では二人とも、自己紹介をお願いします。」
「よっ!俺の名は駆動械時。カイジって呼んでくれな!んで、隣にいるコイツは」
「はじめましーて。私の名前ーは獣胴埃及。よろしーく。」
「彼らは千の貌持つ化身の中でハンターとしても活動をしてくれている戦闘員です。並みのハンターでは彼らには太刀打ちできない強さ。狩人階級としてはA-くらいの実力です。因みに彼らを殺してしまっても構いませんよ。貴方達が、それができるほど実力差があればの話ですがね。」
「殺すってこっちはそれくらいの気概で挑んでんだ。テメエらがどれだけ強かろうが、俺達は一般人をここから脱出させる!」
「素晴らしい心構えです。将来が楽しみですねえ……では、お喋りはここまでにしましょうか。さあ、二人とも。彼らの相手をしてあげてください……殺さない程度の本気でね。」
そうDr.カウザーは言い、姿を消した。命令を受けた二人は構えて戦闘モードに入る。そして、カイジの隣にいた千の貌持つ化身の獣胴埃及が仮面を外した。
「了解でーす。」
仮面の下にはそいつの顔は無かった。あるのはまるで深淵でも覗いているかのような真っ黒いのっぺらぼう。そして外したその直後に体の変化が起きている。体は膨れ上がり、体の構造が変わっていく。まるでそれはライオンの体のような姿とり、背中には翼、無数の尻尾は蛇を思わせる。黒い皮膚の上にエジプトのファラオのような金と青の装飾が異様に栄える。一言で表すのなら顔のない真っ黒なスフィンクスだ。
「そこの二人はーカイジさんに任せまーす。」
「あいよ!さあ、狩りの時間だ……星谷君ッ!」
カイジは両腰から剣を引き抜き、次の瞬間には俺の目の前にいた。俺は咄嗟にマンティスガントレットで防御するが、がら空きの横腹を蹴られて、そのまま芝生の坂道を転がり広場へと飛ばされた。
「星谷!」
「あなたもーお仲間のところへと送ってあげまーす。」
「ぐっ……重っ!?」
顔のないスフィンクスは、星谷が飛ばされた方向へとガロウを前脚を使って猫パンチのように殴り飛ばす。それを見た四人は戦慄する。
「腕っぷしが一番いいガロウ殿が、抵抗できずに飛ばされた!?」
「さあ、私が相手でーす。簡単にやられないでーね?」
お前ら無貌の神を見たからSANチェック:1D3/1D20
問題の解説
まず先手を取って1つだけ石を取ります。その後相手が取った数に応じて相手の番で残りの石が4の倍数になるように石を取ります。そして4の倍数になるように返し続けると最後に残る石の数が必ず1〜3になります。よって勝ちになる。
先手必勝のクソゲーです




