第122話 めんどくさい鎧亜の精霊
三日目の朝、俺は早起きをし鎧亜アーマー・イェーガーに着替えて運動場に出ていた。いつまでも穴ぼこ状態では、朝の準備運動とかで使う時に不便だろうしな。スコップ片手に穴を埋めるため行ったり来たり、掬っては投げ入れ踏み固め。単純な反復作業だが、イェーガーの試運転も兼ねた一石二鳥の朝トレだ。
「ホバー移動は、サポートモードとはいえ繰り返しやってみたらだいぶ慣れてきたな。少し滑るが。」
『それは君の鍛錬不足だ。それと、その尻尾による姿勢制御は、データの参考にはならない。尻尾を使わずに姿勢制御をすることを要求する。』
「うるせえな。自転車だってまずは補助輪付けて漕ぐだろうが。最初から全て完璧こなせる人間なんかいねえっつの。それに慣れたらもちろん尻尾無しで使うつもりだ。この尻尾の存在は、まだ他校は気付いてない。俺にとっての切り札だからな。そう安々と見せるようなもんじゃない。」
ホバー移動の速度はまだ走る程度の速さしか出してないが、スペック上は軽く100キロを超える速度が出せる。昨日の事故の時がおそらく全開なんだろうが、ブースターもすぐに最高速に達するわけじゃない。あの速度をものにできるのは一体いつのなるんだろうか。
「朝方から鍛錬たぁ精が出るなぁ。星谷。」
背後から声が聞こえた。振り返って見てみると、そこにはラップに包まれた握り飯と緑茶のボトルを持つ桃太郎の姿があった。
「お前もう起きてたのか!?今朝の5時だぞ!?」
「料理人たるもの下拵えは大事な作業だ。朝一に仕込んでその後の負担を減らす。そして、下準備をしておけばさらに美味くなるってんだから、やらねぇ他ねぇだろ。」
「まさかとは思うが毎日こんな生活してんのか?」
「あたぼうよ。俺としちゃあ、美味い美味いと搔っ食らって、そいつの活力になればそれだけで十分にリターンが取れてんだ。んじゃ、頑張れよ。」
そう言って桃太郎は握り飯とお茶を投げ渡して家庭科室の方へと歩いて行った。
「これ食って頑張るか!」
『エネルギー補給が済んだら、作業に戻れ。』
「エネルギー補給ってお前なあ……そんな機械じみた冷たいもんじゃねぇっての。」
『昨日も話したが、私には温かみという感情理解するプログラムなどは無い。早く食べろ。』
口の中におにぎりを頬り込み、咀嚼しながらサポートAIへと話しかける。
「へいへい、わかりましたよ。作業に戻るはいいとしてだ、もう少し速度を上げてみたい。今って大体40キロくらいだろ?倍の80キロくらい出して操縦できるか試してみたい……おっ鮭味。」
『無茶だ。新顔。今までのデータを基に算出した君のスペックでは、現状の倍の速度での操縦は不可能だ。君の言う切り札無しでは、私によるサポートがあっても転倒する始末。人間の感情で言う失望というのが君に対しての私からの評価だ。』
俺は緑茶と一緒に飲み込み
「んだと!?いいか、俺を舐めんのも大概に……」
そう言おうとした次の瞬間だった。校門のほうから人間の子供ほどの大きさのクリーチャーがこちらを覗いているのが見えた。つぶらな瞳を持ち、体毛は苔と樹皮が混ざったような緑褐色、四肢が異様に長く、脇腹から太腿にかけて膜状の皮膚があり、尻尾が三又に分かれたまるでリスとムササビが合わさったような見た目のクリーチャーだった。
クリーチャーは、こちらを一瞥すると即座に瞳を返した。いや、正確に言えば逃げたというより、用は済んだという動きだった。
『対象「スカイラン・スクワール」、交戦行動を確認できず。偵察行動の可能性が高い。』
「偵察……」
いや、言われてみて納得した。そうだよな、元々ここは殺取の縄張り。それがここ最近になって人間が出入りするようになったとなると、ここ周辺のクリーチャーは少なからず興味を持つだろうな。
そして、クリーチャーの生態について、授業で学んだことがある。クリーチャーは従来の生態系通りに動くが、そこに人間がいる場合、どの種も争わず優先的に人間を襲おうとする習性がある。つまり、こいつは偵察に来たんだ、どんな人間がどれほどの数ここに滞在しているのかを仲間や他のクリーチャーへと知らせるために。
「だろうな。あの動き……完全に見に来ただけだ。だが、あそこで逃すと後々が面倒なことになる。追跡するぞ!」
俺はリス野郎を追って校門の方へと駆けだす。
『追跡は推奨しない。スカイラン・スクワールは木々の間を助走付けて走り、滑空するようにして飛翔する姿からそう名付けられている。その時速約100キロ。君では追いつけない。』
「そうかよ。システムコール:操縦方法をサポートモードからマニュアルモードへと移行。」
『何をするつもりだ。』
「高性能AIであるお前に学習せてやる。この星谷世一という人間の一個体が、どれほどのものかをな。だから、ごちゃごちゃ言わずに黙って見てやがれ!」
樹海の中を突き進み、奥へ奥へと入って行く。やつの速度は尾けられていることに気付くのが遅かったのか、距離はそこまで離れていない。だが、気づいてからのスピードが凄まじい。あの時のサル以上の速度で木々の間を滑空を交えて爆走するリス野郎の三又の尻尾が段々と遠くなっていく。
従来の俺なら追いつけないだろう。だが、今の俺なら!
「オーバーゾーン!」
瞳が赤く染り、視界が冴える。辺りがまるでゆっくりになったかのように頭がよく回る。今ならイェーガーの性能を引き出せる。感覚が研ぎ澄まされたこの状態なら、ブースターも手に取るように操れるはず。両手足と背中のブースターを頭の中で想像し動かす。動かすイメージとしては、図書館で見たロボットアニメだ。
メイン出力となる背中のイオンブースターの出力を上げ、両手足のブースターを使って微妙に調節しながらホバー移動する。そうして木々の間をぶつからないように滑走すると、遠ざかっていたスカイラン・スクワールの後姿が見え始める。
『出力が上昇。時速50キロに到達、60……70……80……100に到達……』
サポートAIはお節介に口を挿むことなく淡々と加速する俺の速度を通達している。実にお利口さんだ。それに、このイェーガーの特徴がなんとなくだが掴めてきた。こいつは高速戦闘特化の鎧亜アーマー。背中のブースターは意外にも可動域が広い。急な旋回もホバー移動によるスリップを考慮に入れながらではあるが可能。そして、こいつの最高時速。スペックとしては通常運転での最高時速は200キロ。燃料を大幅に使用したイオンブースターの加速を加えると最大300キロ出せる。
だが、俺が時速300キロで動くのは正直難しい。このオーバーゾーン状態でも今はまだ150キロ。通常運転の最高速にも追いつけていない。練習あるのみではあるが、城ヶ崎はこのスピードをマスターし攻撃を仕掛けていることを考えると、ちょっとした尊敬さえしてくる。そうなると、今俺から逃げているこいつも尊敬の対象になるのだが、それもここまでだ。
さらに速度を上げて、リス野郎の尻尾が目の前まで来ている。俺は右手を伸ばし、やつの尻尾を掴む。
「キッ……!?」
「取ったぁぁぁ!!!!!」
両手足を前へと押し出し進行方向の逆向きへと変え噴射、背中のブースターを弱めてブレーキをかける。ブレーキを完全に効かせず、掴んだ尻尾を離さないままリス野郎の背中に足を置き野郎の腹をクッション代わりに使い、地面を滑って着地する。死体確認のために一度降り、足元の体重の二倍あろう俺に押しつぶされたリス野郎は、口から白い泡と血を吐き出し、白目を向いてピクリとも動かない。
「うわぁ……着地した場所から停車地点まで血を引いてやがる。グロっ……」
そうだ。もうリスは死体になったし、自称サポートAI君を起こしてあげよう。
「システムコール:サポートAIをオン。さあ、感想はどうかな?俺は尻尾も使わず、己の能力だけでイェーガーを使いこなしたが。」
『君のスペックは集中状態に入ると、一時的にパフォーマンスが向上する。これは私の想定を超えた。私は君を過少評価していたようだ。だが、それはあくまで君が言うオーバーゾーンという状態に関するデータが少ないことに起因する。今後、イェーガーを使う時は尻尾を使わず、そのオーバーゾーンを使うことを推奨する。』
「冷てぇな。心を開く前の冰鞠でも「ふーん、よくやったじゃない」ってほんの少しの称賛の声があったんだが。」
『君は良い評価を求める、つまり褒めて欲しいのか?』
「褒められて嫌な気持ちにはならないからな。まあ。一部の頭EDENの連中に言われるのは嫌だが、高性能AI君のお墨付きを貰えるのなら誇らしいと思うけどな。」
『私からの評価は依然として失望だ。』
「はぁ!?そりゃどういうことだよ?負け惜しみか?」
『君は明確に提示しないと理解できないのか。敵性対象複数確認。君は包囲されている。』
知ってるか?この作品のコメントが100を突破したことを。そしてそのコメの大半が狂信者君によるものだということを




