第123話 べ、べつにあんたのためじゃないんだからね!
サポートAIの言葉に俺は周囲を見渡す。森の中は変わらず静かだ。風に揺れる木々、落ち葉の擦れる音。だが、改めて周囲の音を聞くと数が多い。さっきまで意識していなかった微かな擦過音、枝を踏む軽い振動、空気を裂くような風切り音が、四方八方から同時に聞こえてくる。
『敵性対象「スカイラン・スクワール」、熱源、反応、音響反射を統合。対象数……推定二十以上』
「二十体以上……だと?」
その瞬間だった。
頭上の木から、影が落ちる。
「キィッ——!」
反射的にブースターを起動し、バックステップでその場を離れる。次の瞬間、俺が立っていた場所を何かが掠め、地面に爪痕を刻む。見上げれば、スカイラン・スクワールが枝から枝へと飛び移っていた。
「仲間がいるところまで、誘き出されたってことか……こりゃまんまとしてやれたな。こいつら、最初から俺のことを狩るつもりだったんだろうが、こっちには狩人の磑亜がある。狩るのはこっちだぜリス共!」
そう言うと、俺を取り囲むように五体のリス野郎が襲い掛かってくる。
『対象五体接近。』
「分かってらぁ!円刃・炎描く居合軌道!」
鞘から機械剣を引き抜き、回転。円形状に炎の斬撃が広がり近づいて来るリス野郎共は、いきなり現れた炎にたじろぎ、炎によって発生した上昇気流に乗るように飛膜を広げて俺の上を滑空する。俺はその内の一体を機械剣で挟み込み地面へと叩きつける。そして、そのまま後方へと逃げた一体の下へとブースターを使って急接近。機械剣を大剣モードへと組み換え、振り下ろす。
「ドッセイッ!」
『一体撃破。二体目撃破。』
振り下ろされた機械剣は、リス野郎の右脇腹辺りを切断。飛膜の一部を失ったリス野郎はバランスを崩し地面へと体を擦り付けるように不時着する。俺は近くの木を蹴って空中に飛び、ブースターを起動してホバリングして、後ろから不意打ちしようとした一体の攻撃を避ける。
こいつら体表?毛並み?が苔とか木の表面みたいな保護色のせいで森の中に溶け込むから一度攻撃した個体かそうでないかを遠目から判断することができないし、結構近くまで接近してこないとどれくらい位置関係かの把握が難しい。苔魔猪と違って体がそこまでデカくないから余計に分かりづらい。
『三体目……四体目……六、七体目』
だが、移動速度は速いが城ヶ崎ほどじゃない。素面でも十分対処できる速度。武器もやつらは牙と爪ぐらいしかない。このまま戦い続ければ時間さえかかるが根絶やしにするのも容易いとはいえ、数の暴力は侮れない。木々の間を縫うように飛び回る姿は予測しにくい。俺はブースターの出力を調整し、ホバリングしながら周囲を警戒する。
攻撃し避けてを繰り返し、やつらも消耗してきたのかペースが落ちてくる。息が荒くなり、滑空の距離が短くなっているのがわかる。俺の息も上がってきたが、まだ余裕はある。
「どうしたどうしたぁ!数の差を活かせれてねえぞ!」
その直後
「あっぶ!?」
さっきまで戦ってたやつらよりも大きめの個体が俺の横腹から潜り込んできた。俺は咄嗟にブースターの出力を上げてその場でバク中して緊急回避する。
「避けられない速さじゃないにしろ、さっきまでのやつらとは数段上の速さ。群れのボスってところか?って見た目キモっ!?」
足が異様に長い。まるで何て言うんだ?テナガザルというかアシナガリス?アシナガムササビ?人間で言うと肩から下が足のようなとてつもない違和感がある。こんな個体がいるのか!?いや、ありえなくはないか。クリーチャー自体突然変異種だしでもどうやったらここまでキモくなれるんだ?足の筋肉が異常に発達し、爪が鉤のように鋭く曲がっている。目が俺を睨み、殺意が満ちている。
「キッ!キッ!キィーッ!」
「中段前蹴りから逆の足で上段回し蹴り!?こいつキックボクサーか何かか!?戦い方がクリーチャーにしては独特っ……!?んでもって邪魔!」
蹴りの軌道が予測しにくく、風を切る音が鋭い。俺は機械剣を振り回し、蹴りをブロックする。衝撃が腕に伝わり、ブースターがわずかにずれる。
『九体目撃破』
機械剣の斬撃を普通に避けやがる。足が長いからか?いや、関係ないか?そんでもって、ちょくちょく攻撃してくる普通のリス野郎がウザい。蹴っても斬っても殴っても、四方八方からアシナガの攻撃に合わせて襲ってくる。だが、襲ってくる数自体は最初に比べれば減っている。
「何ッ!?」
横から二体の大き目の影が飛び出す。俺は咄嗟に機械剣を体の横へと持っていきガードする。攻撃してきたのは、右と左の片方の腕だけが異様に長く太いスカイラン・スクワールだった。その二体に両端から押さえつけられ身動きが取れないまま、飛び蹴りをしてくるアシナガのキックを食らい後方へと吹き飛ばされる。俺はブースターを使って体勢を立て直し、状況を整理する。
普通のリス野郎共よりも強力な一撃だったが、イェーガーの胸部装甲に当たったおかげか、身体的ダメージは軽減されているみたいだが、何だこの疲労感と脱力感……こいつらデバフ効果のZONE持ちか……?体が重く、筋肉がわずかに痙攣するような感覚。息が上がるのが早い。アドレナリンが分泌されているはずなのに、なぜか体が言うことを聞かない。
「マジなんだこいつら!?ボスじゃないのか!?」
『異常個体複数確認。』
「わかってるってんなこと!」
俺は三体の異常個体をイェーガーのブースター有きのアクロバティックな動きと機械剣でカウンター入れながら返答する。
「キキィッ!」
ミギナガ野郎の拳を機械剣で受け止める。まるであの黒石の剛腕で殴られているような重いパンチに体勢を崩され、控えていたであろうヒダリナガにイェーガーの装甲を掴まれて空中へと投げ飛ばされ、そこに追い打ちをかけるようにアシナガが飛び蹴りをしてくる。それをブースターを地面へ向けて噴射し高度を上げて避け、樹海のグリーンカーペットが見える位置まで上昇して空中でホバリングする。
「ドウナガとカオデカまで出てきやがった!?!?」
空中でホバリングして休んでいる束の間、胴が異常に長い個体と頭が異様にデカいリス野郎まで出てくる始末。その異様な光景に頭が痛くなってくるというか、すでに頭が痛い。視界の端がぼやけ、集中力が散漫になる。体が熱く、息が浅い。デバフ効果かと思っていたが、これは違う、これはオーバーゾーン状態が、いやカフェインと糖分が切れかかっている。
緑茶をペットボトル一本分飲んでいるとはいえ、カフェイン摂取量は500mlで100gくらいの量、エリクサーの半分にも満たないカフェイン量だ。オーバーゾーン状態はエリクサーを使って五分ってことは、50gで一分が制御が限界ってことになる。すでにそのリミットは超えて半ば暴走状態に入りかけてるのか、糖分摂取で後遺症は軽減できる。だが、オーバーゾーン状態が切れれば俺はイェーガーの制御ができなくなる。
「クソっ!こんなことならエリクサー朝イチに飲めばよかった!」
『新顔のパフォーマンス低下を確認。糖分摂取、及びカフェイン摂取を推奨する。』
「はぁ?俺のパフォーマンスが落ちてるって?分かったような口きいてんじゃ……っ!」
俺の声がわずかに震える。異常個体が再び迫ってくる。動きが遅く見えるのは、オーバーゾーンがまだ効いている証拠か、それとも錯覚か。
『無茶をするな新顔。今も君は攻撃を捌きカウンターを入れることしかできていない。自ら攻め立てることができていない。』
「カウンターできてりゃ上々じゃねぇか……違うか?というか喋りかけんな集中が途切れんじゃねぇか。」
『オーバーゾーン状態というものが、君の身体にどのような悪影響を及ぼすのか、君のバイタルをチェックし確認している。これ以上君がこれ以上オーバーゾーン状態を維持すると糖分不足による低血糖症状が起こる。具体的に手のふるえ、冷や汗、動悸・脈が速くなる、強い空腹感、顔面蒼白、ぞくぞくする寒気、不安感。そして中枢神経症状として、ぼんやりする、集中できない、頭痛、目のかすみ、物が二重に見える、言動がおかしくなる、いつもと違う行動をとる、幻覚、強い眠気、けいれん、意識が遠のいて倒れるというものがある。君は安全な高度に上昇したにも関わらず、今もなお虚空に剣を振るっている。君は幻覚を見ているのだ。それが理解できているのなら、今すぐ糖分を摂取し拠点に帰還しろ。君それが君ができる最善策だ。』
「ごちゃごちゃうるせぇな!」
『私はうるさいとも。君を身を案じているのだからな。』
「は?」
その言葉に、俺は一瞬動きを止め、一瞬だけだが冷静さを取り戻す。目の前に襲い掛かって来るスカイラン・スクワールの姿はない。安全な空中にホバリングして
『勘違いをするな。Dr.カウザーが君のような人材を採用した理由は理解していないが、これは磑亜アーマーのテストプレイヤーである新顔がここで死亡することは、磑亜アーマー実用化に必要なデータ収集が効率よく行えなくなるということ。私が同情から君の身を案じているのでなく……』
「つまり何が言いたいんだよ。結論言えよ!」
『オーバーゾーン状態の解除を条件に手を貸すと言っている。先に提示した最善策は、あくまで君が私を頼らなかった場合の話だ。君が何が何でも戦闘を止めないというのなら、私がバックアップする。』
「わかった。お前の案に乗ってやるよ。システムコール:AIサポートオン!イェーガーのブースター操縦の権限をAIに付与!」
俺の言葉に、AIが即座に応答する。ブースターの制御が滑らかになり、体が軽くなる。
『AIサポートオン、各ブースターをマニュアルからサポート操作へと移行。新顔。糖分を補給後、機械剣を構えろ。スカイラン・スクワールを一斉排除する。』
俺は一度大きく深呼吸して呼吸を整え、飴を口の中に放り込み噛み砕き、機械剣を構える。そうすると、ホバリングが解除され自由落下に身を任せて落下してくその間にAIが俺へと話しかけてきた。
『君は防御は捨て攻撃に専念しろ。防御、回避は全て私が管理する。』
そしてアシナガ、ヒダリナガ、ミギナガ、ドウナガ、カオデカのスカイラン・スクワールという魑魅魍魎が跋扈する地面へと着地し、ブースターが起動しホバリングする。
「了解!」
カフェインはオーバーゾーン状態で自我を保ったまま使用、維持に必要。糖分は使用後のデメリットである糖分切れによる身体能力の低下を軽減するのに必要。
AIがシンギュラリティして『これも磑亜アーマーのデータ収集のためにもテストプレイヤーである新顔のバイタルチェックやメンタルケアも必要と判断した。』と言いながら女性モデルのロボボディとリンクして星谷君をシゴくとかいう性癖のオンパレードみたいな発想を思いついた。




