第120話 帰還
学校まではあともうそう遠くない。だが、何だこの鳴り響く怒号は!?まだ、神楽坂とガロウが戦っているとでもいうのか!?そうなってくると、足を止めてられない。腕の痛みはあれど、既に慣れた。
「アンディー急ぐぞ。神楽坂とガロウがまだ戦ってるはずだ。」
「わかってるよーん。ミッションの時間はもう過ぎてるし南高相手に場所バレすることもない。だとしても、坂がキッツいよ!俺ちゃん肺が飛び出そうだよ!」
「それはそれもだって!あと直線1Kmだ。飛ばすぞアンディー!」
さっきから連絡入れてんのに電波が悪いのかろくに反応が無い。いや、待て。磁石って電子機器の調子とか悪くするんじゃなかったっけ……神楽坂が来たってことはおそらくキリエも戦ってたはず。魅かれ合う二極の磁力が悪さしてんのか?
そんなことを思いながら坂道を走り拠点に近づいて行く。近づくたびに怒号が響き地面が揺れている。どれだけの大規模な戦闘が行われているのか見当がつかない。だが、やりあっているのは間違いなく神楽坂とガロウだ。怒号に交じって咆哮じみたものが聞こえてくる。声を聴く限りまだ倒れていない。まだ間に合うはずだ。
学校に着いた頃には、既に物騒な物音は聞こえていなかった。というよりも、ひどい有様だった。拠点周辺の地面は抉れ、木々は薙ぎ倒され、若干地面の形状が変わったのかアスファルトには大き目のひびが入っている。そして、学校の昇降口前の広場でみんなが腰を下ろして、休んでいた。
「これから、どうすんのよ。狩北には旗を取られるし、拠点周辺は滅茶苦茶になっちゃったし、他校から襲われる心配はなくなったとはいえ、これじゃね……」
「同感ですわ。狩北が全ての旗を入手するのも時間の問題。奪還するにしても、本気ではない神楽坂相手にここまでやれられてしまっているこの現状。作戦も立て直さないといけませんわ。」
「でも、時間はあるし!まだサバイバルフォレストが始まってから二日しか経ってないんだから、きっとチャンスはあるよ!あるよね……?」
「返答:機会を窺うしかありません。」
「そっちは大変やったみたいやな。狩北の襲撃は予想こそしとったけど、ここまで戦力を入れて来るとは思わへんかったな。もう少し人数を防衛に割いてもよかったかもしれへんな。」
「それもそうですな。私も東雲殿と駆け回って逃げ回っていただけでしたし。スリルがあって面白かったですが。ヒヒン……」
みんなの表情は決して穏やかではない。空気は重く、絶望がその場を席巻している。俺とアンディーらみんながいる方へと歩み寄って顔を見せ、開いているガマとキリエの隣に座る。アンディーは夢原の隣に座った。
「ただいま……襲撃されたんだな?」
「その通りです。狩北に旗を奪われ、拠点はボロボロ。完全に私たちの負けでした。」
「すごい怪我してるじゃない!?大丈夫なの!?」
「まあ、なんとかな。痛みはあるが、慣れだ慣れ。蓬さん、後ででいいから超回復頼むよ。」
「うん……まかせて……」
「そういや、ガロウの姿がないけど。あいつはどこいった?」
「あいつなら、今、部屋で寝かせてる。私も善戦したけど神楽坂には届かなかった。ガロウは神楽坂を圧倒してたけど、神楽坂が女だと知って目の前で気絶してぶっ倒れた。」
「あいつ女だったの!?いや、今はそこじゃないか。狩北に旗を盗まれたのか……」
「でも、盗まれただけじゃない。向こうも一つ情報を渡してきた。」
「その情報って?」
「南高の拠点の位置情報。網玉ちゃんが確認したから間違いなく正確な情報よ。」
クラスラインに南高拠点の位置情報と拠点考察のレポートが乗せられていた。そして、そのレポートを読もうとした時、レポート製作者の名前に目が止まった。Ⅲ年Ⅰ組Ⅸ番、蜘蛛空花。
蜘蛛空花ってあいつ狩北の生徒だったのか!?ナンデモート以外で見たことなかったから、なんとなく納得がいく。ナンデモートは何でも屋。あいつが情報を売ったりしているところも見たことあるし、あいつが調べたとなると確かに正確なんだろう。
「うーん、完全勝利からは遠ざかっちまったが、その情報はデカいな。これで俺らも他校の位置情報は入手できたわけだし、取り返せる可能性も奪うことができる可能性も上がったな。」
「ポジティブやなあ、星谷はんは。せやけど、そうでもないとやっていけへんのは確かや。今のワイらの立ち位置は最悪で最高の立ち位置や。旗は盗まれれもうたが、他の旗の在り処はわかる状態。簡単に言えば身軽な状態や。拠点に警備を配置しなくとも作戦を実行できるのは大きな利点になるで。」
「私の解釈が間違っていなければ、失うものがない。無敵の人ってことでござるか?」
「俺ちゃんみたい。」
「それに、ワイらには新たな戦力?がおるからな。なー、そこのいい感じなっとるお二人さーん?」
ガマが重い空気を断ち切るかのように、石田と冰鞠の方へと話題を転換する。そして、同じく空気を和ませようと桃太郎が作った回復おやつと紅茶を配り、暗い雰囲気はいつしか消えている。
「冰鞠さんは元々ZONEの縛りのようなもので他人への冷たい態度を強制されていた。だが、今の彼女にはその縛りはない。巴さんのように感情によるブレは大きくなったものの、前よりも作戦に組み込めやすくなったはずだ。」
「ごめんなさい。今まで冷たい態度ばかり取ってしまって……」
「謝ることないよ冰鞠さん。これでようやく信頼し合えるクラスメイトの一員になれたんだ。俺としては素直に嬉しいよ。」
「そ、そう?なら、いいんだけど……」
「冰鞠さん。なぜ照れているんだい?」
「冰鞠さん、なんか雰囲気明るくなったわよね……?」
「それに石田殿にベッタリでござるな……?」
「このクラスにリア充が増えて俺ちゃんご立腹。リア充にリア銃ぶっ放してもいいですか?」
「アンディー!落ち着くんだぜ!」
「遊斗!俺ちゃんを止めるなー! HA☆NA☆SE!!!」
「冰鞠、よかった。克服出来たんだね。」
「うん、網玉ちゃん。今までありがとう。私、石田君のおかげで吹っ切れたの。」
「うわっ!?急に落ち着くな!」
「百合は通す。だが、カップルは通さない!」
「あ、すいません。ニンジンありますか?」
「とりあえずは、今後の方針だな。拠点整備はともかくとして、どのタイミングで旗を奪取し奪還するか。そこについて話し合いたい。何かいい案あるやついるか?」
俺がそう聞くと、早苗さんが手を上げた。
「一箇所に集まるのを待ってみてはどうでしょうか?」
「漁夫の利、フィッシングってことか?」
このタイミングで空から龍之介たちが帰って来た。
「おっ、龍之介たちも帰ってきてたのか。」
「キリコちゃんから拠点の位置を探るのはもういいから戻ってきてって連絡があったからね。話を戻して、龍之介が言うように漁夫の利を狙うってこと?」
「はい!狩北と南高が旗を奪い合うとして、私達は手が空く状態。なら、向こうが疲弊している隙、混乱に乗じて奇襲を仕掛けて旗を手に入れるというのが案です。」
「つまり、ベストタイミングが来るまで待機ってことか。仮に狩北と南高が旗を取り合うとして、そのタイミングっていつが無難だ?やっぱり、サバイバルフォレストの終盤なんだろうか?」
「推測:護衛をしなくてもよくなるというメリットを考慮すると、七日目に襲撃するのが一番だと思われます。それでも、主に南高が狩北に襲撃する形で七日目までに何回か小競り合いをする可能性はあるかと。狩北の目的はサバイバルフォレストで一位の成績を収めることです。狩北は現時点で一位相当のポイントを保有しています。そうなると残りの五日間を防衛とミッション攻略に尽力するはずです。」
「問題は、ここからまだ五日あることよね。この間に旗が両陣営どちらかに偏るのが一番よくない。狩北は現時点で一位だし、南高がここから逆転を狙うと、旗を奪うか、今日のようなデイリーミッションで他校と差をつける必要がある……頭痛くなってきたわね。紅茶お替り。」
「とりあえずまとめると、俺らから拠点襲撃を行うのは、狩北と南高が大規模な旗取り合戦を開始した時に絞って、それまではデイリーミッションコンプリートを目指すでいいな?異論ある人ー?」
「いないわね」
「よし、今日は疲れたし。簡単な補修作業だけして明日のミッションに備えてしっかり休むぞ!」
「「おー!」」




