第119話 事情が事情
神楽坂の上着が引き裂かれ現れたのは男らしい筋肉質な肌ではなく、華奢で決して筋肉質ではない白く透き通った肌と胸を押しつぶしていたであろう左右半分に割れた黒いインナーであった。インナーで押しつぶされていた胸はその本来の膨らみを取り戻している。神楽坂は焦りと羞恥が入り混じった顔で、避けた上着の上から胸を腕を押さえ、ガロウの方を見ていた。
一方のガロウも、焦りと驚きと緊張で口が半開きの状態となったまま体が硬直しその場に立ち尽くす。それもそのはずである。女子が苦手なガロウにとって、ショックであると同時に、目の前で女子の露な体の一部を見てしまったのだ。そして、その普段はそんな姿は見せないやつの恥じらう姿のギャップは、ガロウに多大なる衝撃を与えた。
ショックのあまりに力の抜けた手から魔剣が地面へと滑り落ちる。魔剣も同様の印象を受けたのか、空気を読んだのか、はたまたガロウが放心状態へと移行したことによる戦闘意志の欠如からか地面へと滑り落ちて以降動きを見せずにいる。
そしてその場に居た水晶正義を除く全員もガロウ以上ではないにしろ、衝撃に頭が追い付かず口が半開きの状態である。そして数十秒の沈黙が流れた後、ガロウが意識を取り戻し、皆が思っていることであろうことを代弁するがごとく、驚愕の声を上げた。
「なっ……!?神楽坂、お前……女だったのか!?!?」
神楽坂は、一呼吸置いた後に胸に手を当て言った。
「そうだ。僕は女だ。」
「で、でもお前のにおいとか……明らかに男の……」
「ああ、男物の香水を付けてたんだよ。それに普段は胸をこれで押し潰してたんだ。」
神楽坂がそう答えると、ガロウは再び意識を手放した。そして、蓬の超回復で回復を終えたキリエ、キリコがぶっ倒れたガロウの元へと駆け寄り、キリエは神楽坂へと詰め寄る。
「ねえ、あんた女だったの!?」
「近寄って開口一番にそれかい?もっと聞くことがあるんじゃないのかい?それよりも、彼そうしちゃったの?急に倒れちゃたけど?」
「あいつ、女子が苦手なのよ。刺激が強すぎたんでしょ。松本とも接してるとこ見たことあるから大丈夫かと思ってたけど、こればっかりはあんたが悪いわよ。」
「質問:ガロウさんはショックにより気絶。この場合まだ決着が付かずにいる状態ですが、戦闘は続行するおつもりですか?」
「いや、戦闘は止めだ。不本意だけどね。」
「つまり、旗はどうすんのよ。」
「もちろん返さない。だって負けても勝ってもないからね。」
「は?それって……」
「牙狼君は気絶、ここまで公に僕が女だとバレた以上。僕はここに長居もしたくない。だから、ここは引き分けってことにしない?僕だって、こう見えて結構限界なんだ。」
その言葉にキリエとキリコは戦闘態勢を取る。その行動を見た神楽坂は静かに言った。
「不意打ちなんて考えないでくれよ。確かに僕は限界に近いけど、MAX12秒の勝利ト断罪ノ刻が一回使える分の余力はある。その間に君たちに致命傷を与えるなんて造作もないことだよ……」
神楽坂は一瞬考え込むと再び話し始める。
「いや、それだと君たちには何もメリットは無い。ここまで僕を追い詰めた報酬といて君たちに何かできること……そうだな、君たちに一つ情報を流す。それならどうかな?これなら不公平じゃないだろ?」
「その情報って何よ?私たちの旗とタメ張れる情報でもあるっていうの?」
「南高の拠点の場所についての情報……ならどうだい?」
「え?」
「君たちは、旗を全て手に入れる完全勝利を目指していると無線で聞いた。南高拠点の位置情報は、南高の旗を手に入れるチャンスに繋がるとは思わないかい?」
神楽坂の提案にキリコは少し考えた後、キリエに意見を求める。
「キリコさん、どうしますか?南高拠点の位置情報は、まだ私たち掴めていない情報です。」
「……わかった。それでいいわ。今回は見逃す。でも、次に戦闘になったら、あんたの体を引き裂いてやるわ。」
「それじゃ、取引成立だね。」
神楽坂は、スマホを取り出しキリコへとURLを送り、開かせるとそこには南高拠点の位置情報と拠点考察のレポートが映し出されてた。レポートの作成者は蜘蛛空花、協力者の名前には佐藤静香の名前も記載されている。神楽坂はそのレポートを踏まえてキリエたちへと説明する。
「南高の拠点は、先生たちが待機している大府駅から徒歩10分の距離に位置する、大府高校にある。蜘蛛空さんと佐藤さんが協力し、潜伏と尾行を駆使して見つけ出した。拠点内部までは侵入していないが、南高生徒が10人以上の出入りが確認できたからまず間違いないよ。」
「嘘はついてないわよね?」
「随分と慎重だね?確認してみるかい?それとも、その方法がそっちにはあるのかな?」
キリエは網玉を連れて、神楽坂を触らせて南高の拠点の場所を尋ねる。
「改めて質問するわ。南高の拠点は大府高校にある?」
「それで間違いない。」
「(噓はついてない。本当のことを言ってる。)」
「どうだったかな?」
「嘘はついてないみたいね。もう帰っていいわよ。」
「なら、帰らせてもらうよ。天童君、転送よろしく。」
神楽坂は天童を呼ぶと、天童は自分の体を触りサッと瞬間移動し神楽坂の隣に立つ。そして、転送しようとする前に物腰を低くして神楽坂に至極真っ当な問いをする。
「あ、あの神楽坂さん……その恰好ですと……」
そう聞こうとすると微笑みながら神楽坂は天童に言った。
「速く転送してくれないかい?次は無いよ?」
天童は直感で怒ってると理解し、即座に神楽坂の肩に触れて神楽坂を瞬間移動させた。そして、狩高に残っている他のメンバーを拠点へと送り、自分も狩北の拠点へと帰って行った。
狩北の拠点へと帰った神楽坂は、自室で服を着替えていると部屋にノックがあった。ノックの主は水晶正義だった。
「俺様だ。入ってもいいか?」
「少し待ってくれ……どうぞ。」
神楽坂は、手早く服を整えて正義を部屋へと招き入れる。神楽坂は、テラスの椅子に腰かけ、狩高の方を見ている。正義は、そんな神楽坂の邪魔をしないような場所に立ち、神楽坂へと話しかける。
「音色、約7年の男装がバレたわけだが、お前は次にやつらと会う時も今のように男装を続けるつもりか?それとも、男装を止めてありのままのお前を曝け出して相対するつもりか?」
神楽坂は狩高の方を見ながら答える。
「君はその7年間、人生の半分とも言える時間を貫いた意志を易々と手放すような人間に、僕は見えているのかい?僕が男装をしていた理由は君もわかっているはずだと思うのだけど。」
「俺様は、お前のその意志を貫く姿勢に人として惚れ、お前の下に就いた。今の返答次第で、それも辞めにしようと思っていたのだがな。バレる程度ではお前の意思はやはり動かんか。一途な頑固さというよりも、執念、呪いの域だな。」
「僕が好きな相手は彼だけだ。後にも先にも彼しかいない。それ以外の存在なんて興味を持ちたくもないし、惹かれたくもない。だから、僕は男装を続ける。例え、もう女だとバレても続けることに意味が、意志があるからね。」
最強vs最強の戦いの終幕が7年間続けた男装がバレ、女が苦手な片方が気絶して決着とかいう葉分クオリティ




