第118話 魔狼の剣
闇が語りかけてくることがある。
まるで、親父のように俺へと語りかけてくる。
腹が減った、食いたい、食いたい、食らいたい。
渇き、餓え、そして欲する。
何を欲する?その体は何を求めてきた?
力だ。
そうだ、もっと求め、喰らいつけ。
その声は、荒々しくて、どこか懐かしい。俺の血肉に染みついた、忘れられない響きだ。俺の体は、闇に満ちている。黒条家の血統がそうさせるのか、それとも俺自身の業か。わからない。でも、闇は俺の一部だ。俺を駆り立て、俺を強くする。だが、時には俺を飲み込もうとする。制御できないほどの渇望を、俺の心に植え付けてくる。
「お前は俺の息子なんだ。お前も、これくらいできるようにならねえとな。」
闇が語りかけてくる度に、親父の背中を思い出す。
豪快で嫌なやつ。一言で表すならそんな性格だったことを覚えている。食べること生きがいにするようなハングリー精神。腹が減れば息子の飯でも容赦なく奪ってくる。だから俺も飯を奪ったりすると親父は決まって笑っていた。
「ははっ、似てきたじゃねえか」
それ以外にもよく揶揄われた。家事はろくにできないし、勉強もあまり得意な方じゃない。正直、親父と呼べるような親しい父の姿とは最初は到底思えなかった。だが、時折見せる笑顔が、俺の記憶に焼きついている。あの笑顔は、俺が強くなった時だけ向けられるものだった。
それでも、そんな親父でも、俺は好きだった。特に好きだったのは親父の武勇伝だった。親父も戦いの話を縋れると意気揚々と語ってくれたりした。だが、聞けるタイミングは少なかった。
両親がハンターとして働いていたから、俺達兄弟は、両親の帰りを待つのが日課だった。両親が帰ってくると、俺は親父に縋んで土産話を聞かせてもらっていた。
その話の中で親父はいつも剣を持って戦っていた。その名はレーヴァテイン。親父はその赤く炎を滾らせた真紅の魔剣を持って、敵を薙ぎ払い、強くなるためにたくさん喰らったと。自慢げに語りながらその魔剣を庭でよく俺に振って見せてくれた。
7年以上前の数少ない親父との思い出。親ながらに愛してはいるものの、愛情表現を理解してても実行できる勇気が無い。子供ながらに親父はあまりにも不器用なやつだと思った。
「おれ、おやじみたいに強くなりたい!」
「そうか!強くなりたいか!なら、この魔剣が持てるようにデカくならねえとな!」
「おやじみたいにデッカくなったら、おれもおやじの魔剣使えるようになるかな?」
「ああ、もちろんだ!だがな、お前が掴むのは俺の魔剣じゃねえ。お前自身の魔剣だ。カッコよくて、強いお前だけの魔剣だ!」
親父が言ったお前だけの魔剣。一度は考えた。何度も何度も作ってみようとしたが、作れることはなく。いつしか想像することも、作ろうとすることもやめてしまった。苦手意識は残り続けた。拳しか持たない俺には魔剣は必要ないと、そう言い聞かせていた。
だが、今は違う。
拳だけじゃ届かない。
拳だけじゃ喰らえない。
――やるしかない。
神楽坂に引き寄せられる体を、地面に足を踏ん張って耐える。そして、握り拳を開きそしてそこに剣があるかの如くに握りしめる。親父の姿と自分を重ね、親父の持つ魔剣を自分なりの形へと変えていく。そうするとその拳の狭間に闇が集まり立ち昇った。
「黒条流・四式「精製」!」
餓え、欲望、夢、抑え込んできた衝動が闇という姿を持って形を作り始める。
直線ではない。牙のように歪み、嚙み砕くためだけの描く刃。光をも飲み込まんとする漆黒の刀身。その内部を、溶岩の亀裂のようなと赤い紋様が血が滴る肉のように脈動する。鍔はなく、柄本には剝きだした牙と深紅に灯る双眸を持つ魔狼の頭部が象られている。
――見られている。
この魔剣に。
この闇に。
恐怖はある。それでも、俺はその魔剣を掴む。柄に触れた途端、全身を駆け巡る衝動があった。腹の底から湧き上がるようなどうしようもない餓え。
喰らえ、強者を。
喰らえ、世界を。
餓えが俺の意識を支配し始め、眼前の神楽坂を喰らおうとその刃を向けている。俺は直感した。こいつを解き放つのはマズい。EDEN財団の輩に奇妙な装置をつけられた時のような制御不能の魔狼を解き放てば、どうなるかわかったもんじゃない。俺はその餓えを、抑え込むように魔剣を強く握りしめる。
「はぁ……神楽坂、忠告だ。今すぐ逃げろ!」
俺の声は低く、抑えきれない闇の影響で震えていた。魔剣の柄が熱く、俺の掌を焼くように感じる。神楽坂は俺の言葉を聞いて、わずかに目を細めたが、すぐに笑みを浮かべた。
「誰が逃げると思う。僕は君を捻じ伏せると決めた。その君が今生み出したその魔剣からは強烈なプレッシャーを感じる。それをも超えて僕は勝利を掴み取る。」
「面白い男だぜ。そうかよ……どうなるか知らねえぞ神楽坂ァ!」
腕が動く。いや、魔剣が動いた。餓えた獣が解き放たれ眼前の獲物を捕らえようと俺の体全体を引っ張るように神楽坂の下へと運ぶ。神楽坂は近づけさせまいと鎖を放ち、迎え撃つ。だが、魔剣は臆することなくその鎖の1本を叩き斬った。
「っ……!」
「精々喰われるなよ神楽坂。こいつがどんだけ強いのか俺にもわかんねえ。こいつは俺の闇、俺の餓えそのものなんだならなあ!」
魔剣は独りでに動き、神楽坂へと斬りかかる。闇の刃が空気を切り裂き、黒い軌跡を残す。神楽坂は再び鎖を束ねて剣にし斬撃を受け止める。衝突の瞬間、闇と鎖がぶつかり合い、火花が散る。神楽坂の鎖がわずかに軋む音が聞こえた。
「面白い……!」
神楽坂は剣を振るい、俺を押し返す。魔剣は己を振り回し、鎖を切り裂こうとするが、神楽坂の動きは素早い。鎖が鞭のようにしなり、俺の体を狙ってくる。そうすると魔剣は自ら鎖を弾き、反撃に転じる。闇の刃が神楽坂の肩をかすめ、血が飛び散る。
「ぐっ……!」
神楽坂の顔がわずかに歪む。だが、すぐに鎖を再生させ、俺を包囲するように配置する。鎖が一斉に襲いかかり、魔剣は俺を軸に回転し全方位からの攻撃を弾き返すと同時に闇の渦が鎖を飲み込み、砕く。だが、神楽坂は止まらなかった。鎖を再生し剣に変え、俺に斬りかかる。
魔剣は振、神楽坂の剣と激突する。衝撃が腕から足に伝わり、地面が陥没する。俺の餓えが魔剣を通じて増幅され、力が溢れ出す。神楽坂の剣がひび割れ、闇が侵食する。
「これは……!」
神楽坂の目が見開かれる。魔剣はさらに追撃を加え、横薙ぎに振るう。神楽坂は鎖を盾に変え、防御するが、闇の刃が盾を切り裂く。神楽坂の体に傷がつき、血が流れる。
「まだ……終わりじゃない!」
神楽坂は鎖を伸ばし、俺の足を絡め取る。魔剣は鎖を切り、反撃する。戦いは激しさを増し、運動場が荒れ果てる。運動場に侵食してきた木々が折れ、地面が抉れる。俺の体は傷だらけだが、闇の力が俺を支える。神楽坂も同様だ傷だらけで息が上がり、鎖の動きが鈍くなっている。
このまま押し切れれば、恐らく、いや確実に勝てるだろう。だが、ここで勝つということは魔剣が完全に神楽坂を喰らうことを意味する。俺としては、神楽坂に死んでほしくない。少なからず、やつに対して情が湧いている。本気でやり合えたライバルとも呼べる存在を失うのは、嫌だ。
「神楽坂、もういいだろ!」
「止めるのかい!」
「神楽坂、俺はお前に死んでほしくねえ。お前みたいな男、いやライバルと戦うのは楽しかった。餓えとプレッシャーに塗れた俺の学園生活の中で、お前と戦う時だけは純粋に楽しめた。だから、もういいだろ!降参しろ……こいつがお前を喰らう前に降参しろ!」
「はぁ……はぁ……君は本当に強いね。でも、男に二言は無いよ。僕は負けない!僕は君に勝つ!」
そう神楽坂が再び動き出そうとした瞬間。
「あっ……!?」
損傷し摩耗した神楽坂の上着が真っ二つに裂けた。
レーヴァテインは、言うならばファミリーネームです。あと特殊なルビ振りとか設定があるのですが、物語の根本にかかわるようなやつなのでね?
メイが仮に四式「精製」を使うと菌で魔剣を作ることになります。
初期段階で入手できる最強武器的な立ち位置です。ff6の崩壊前に手に入るアルテマウエポン、ff10の強化前の七曜の武器みたいな感じ




