第32話 窮地と打開
コロは「ウーーッ!」と唸り始め、その姿はどんどん変化していった。体は一回り大きくなり毛並みが灰褐色に、剣のような角が生え、足も少し長くなる。
下アゴの横からは鬼クワガタのハサミが伸び、鎧を思わせる甲殻が全身を覆う。見るからに強そうなコロが、魔獣たちを睨みつけた。
「プーーッ!」
「すげーかっこいい! ブレード・ヘラクレスと鬼クワガタが合体したみたいな姿だ。まさに昆虫の王様、“キング・ヘラクレス”モードって名付けようぜ。なっ、ルウト!」
アルが興奮気味に言っているけど、今はそれどころじゃない。
様子を伺っていた三匹のダイアウルフが一気に襲い掛かってくる。コロの能力は今ある中で最強の組み合わせだ。
絶対、魔獣にも通用するはず!
「お願い、コロ!」
「プゥッ!」
コロが飛び出すと、物凄い速さでダイアウルフの前まで一瞬で詰める。相手も驚き、急に止まろうとするが、もう遅い。
コロの角で突かれ、そのまま跳ね飛ばされた。地面に叩きつけられたダイアウルフは、フラフラと立ち上がり、どこかへ逃げて行く。
他二体のダイアウルフも角で薙ぎ払うと、コロの力に臆したのかガイアの森の方へと逃げて行った。
「いいぞ、コロ!」
上空から襲って来たガーゴイルの爪も軽やかに躱し、コロは背中の甲殻をカパッと広げた。鎧のような甲殻の中にある昆虫の羽がある。
四枚の羽を振動させ飛び上がると、直角に移動しながらガーゴイルに向かって行く。今までは飛べなかったヘラクレス・モードだけど、鬼クワガタの能力を取り込んだことで完成形になった感じだ。
アルが興奮するのも仕方ないか……。
コロの飛行スピードに驚いたガーゴイルは、角の斬撃をまともに受けて落下していった。
コロはクルクル回転して着地し、凛々しく雄叫びを上げる。
やっぱりブレイド・ヘラクレスと鬼クワガタ、同じ昆虫だから相性がいいんだ。パメラも集団で襲ってくる一角ウサギに氷の魔法を掛け、何匹もの動きを止める。
「これ、行けるかもしれないぞ!」
アルが嬉々として「俺もやるぞ~」と、大きめの木の枝を振り回していたが、パメラに枝を蹴り飛ばされ悲鳴を上げていた。
「パメラ、まずいよ!」
「ええ、数がどんどん増えていくわ!」
僕たちの周りには、数十匹の魔獣が牙を剥いている。
空中から次々と襲ってくるガーゴイル。コロが空中戦を挑むが、意表を突いたさっきとは違い、ガーゴイルを簡単には倒せない。
速さや飛行能力は、コロと同じくらいだ。
一番強そうな赤黒い色の熊が突進してきた。僕とパメラが咄嗟に躱すと、後ろの木に激しくぶつかる。
木はメリメリと音を立て、後方へと倒れていく。
「あれは、洒落にならないわよ……」
熊は血走った赤い目をこちらに向けてくる。僕は自分の全身から、血の気が引いていくのを感じていた。
あの熊は僕たちが到底勝てる相手じゃない。
そんな魔獣が、まだまだ沢山いる。明るかったアルも言葉を失っていた。一匹、また一匹と距離を詰めて来る。
もうダメだと思った。その時――
「純然たる神の怒りよ、天地をつなぐ光となれ!」
辺りが光り輝く、それは稲妻だった。
数多の雷光が魔獣に直撃し、悲鳴のような鳴き声が夜の空に響いていく。ガーゴイルが地に落ち、ダイアウルフは痙攣して動かない。
赤黒い熊でさえ、大ダメージを受けてるようだ。
何が起きたか全然分からなかった。パメラやアルも呆気に取られ、コロに至ってはビックリしすぎて震えあがっていた。
「全員、無事かのう?」
落ち着いた声。振り返ると、大きな魔獣が二体いて、その上に人が乗っている。あれは――
「学院長!!」
「フォフォフォ、もう大丈夫じゃ、心配いらん」
学院長は大きな魔獣に乗ったまま、のっそのっそと僕たちの前に出て来た。雷を受けたとはいえ、目をギラつかせる熊が僕たちを睨んでくる。
学院長は杖を構え、闇夜を切り裂くような稲妻を次々に熊に落としていく。雷撃を受けた熊は黒焦げとなり、プスプスと煙を上げ倒れていった。
「すごい……雷は、魔法の中でも高等技術って言われてるのに、あんなに易々と使いこなすなんて……」
パメラが感心している。やっぱり凄い魔導士なんだ。学院長は……。
「おい、でも……アレ!」
アルが恐怖の混じった声を出して指をさす。見ると何十匹もの魔獣がワラワラと姿を現し、学院長を取り囲んでいく。
「いくら何でも、こんな数……」
「アモンズ! 子供たちを連れて学院へ行け!」
「分がったど先生、おめえ達こっちに来い!」
学院長と共に来た大柄の男性、確か生物学のアモンズ先生だ。魔獣に乗ったまま僕らの元へ近づいてきた。
手を差し出して「乗れ!」と言ってくるが、あんなに沢山の魔獣、いくら学園長でも勝てる訳ない。
「学園長を助けないと――」
「いいがら乗るど!」
僕たち三人は引っ張り上げられ、全員魔獣の上に乗せられた。アモンズ先生は学院に向かおうとするが、そこにも魔獣がいて通れない。
「こった時のだめに、こいづ連れで来で良がった」
アモンズ先生はそう言うと、空に向かって指笛を鳴らす。すると上空から風が吹き荒れ、何かが降りて来る。
「何、アレ!?」
パメラが驚きの表情を浮かべる。現れたのは、強靭な顎と牙、長い首に巨大な翼を広げる竜の一種“ワイバーン”だ。
「オラが学院がら連れで来だんだ。すげえ、かっこいだろ?」
ワイバーンは翼を羽ばたかせ、進路を妨害している魔獣たちの前に降り立つ。
「やっぢまえ!!」
ワイバーンが口をがばっと開き、灼熱の炎を吐き出す。道なりにいた魔獣たちは炎に巻かれ、阿鼻叫喚の中逃げ惑う。
「今だ、突っ切るど、掴まってろ!!」
僕らを乗せた大型魔獣は、開けた道を走り出した。魔獣に囲まれた学院長を残して――
「待って下さい、学院長が……助けないと!」
「そうよ! あんな強いワイバーンがいるじゃない。一緒に戦えば魔獣だって倒せるわ!!」
僕とパメラが必死でアモンズ先生を説得した。先生は険しい顔のまま、走っている魔獣を止めようとはしない。
「ワイバーンは“フレイム・ドラゴン”とは違う! 何発もの炎ブレスは放でね、学院長の力にはなれねんだ」
アモンズが歯を食いしばり、握っている手綱に力が入る。
先生も本当は学院長を助けたいんだ……。それでも出来ない、僕はどうしていいか分からず唇を噛み締める。
そんな時、僕たちを乗せて走っている魔獣の横を、飛行しながら付いてくるコロが目に入った。
「そうだ……!」
僕はコロが持っていた謎の能力の事を思い出す。
具体的にどんな効果があるのか分からないし、入手経路が不明だったから使いたくなかったけど、今はそんなこと言ってる場合じゃない。
僕はガラスの板を出現させた。




