第33話 闇夜と閃光
画面の右上にある【力E】の能力を解除する。代わりに【聖S】【樹B】の能力を指で押し、動かそうとした。
ランクSなんて能力、コロにどんな影響があるか分からない………だけど、もうコロに頼るしかない。
「コロ、頼んだよ!」
「プー!」
僕は【聖S】【樹B】の文字を画面の右上に移動させる。コロはピクッと反応して、羽ばたくのをやめてしまう。
「え?」
徐々に高度を落とし、地面に着地した。そのまま動こうとしない、後ろからは僕たちを追って来た魔獣が迫ってくる。
「コロッ!!」
僕のせいだ。僕が余計なことをしたから、このままじゃコロまで死んでしまう。僕が乗っていた魔獣から飛び降りようとすると、全員に止められた。
「ダメよ、ルウト!」
「何やってんだ!」
「離して……コロが!」
その時、一瞬だけコロが光ったように見えた。そして――
「きゃっ!」「何だ!!」パメラとアルが絶叫する。
夜の闇を掻き消すような、爆発的な光が辺りを埋め尽くす。僕たちを乗せて走っていた魔獣も光を浴びて、ガクッと膝から崩れ落ちる。
みんな前方に投げ出された。アモンズ先生は僕たち三人を抱きかかえ、守るような体勢で地面に激しく叩きつけられる。
地面に仰向けに倒れて上空を見ると、ワイバーンも落ちて来た。
ワイバーンは雑木林に突っ込んで木に激突し、動かなくなってしまう。何が起きたのか、僕には分からなかった。
◇◇◇
スノウは数多の魔獣を前に、思慮を巡らせる。
「さすがに、この歳でこの数を相手にするのは、ちとキツイのう」
子供たちが安全な場所まで逃げることが出来れば、自分も撤退するつもりだったが、この状況ではそれも難しいとスノウは考えていた。
そんな時、子供たちが逃げた方向から何かが聞こえてくる。
「プゥ~~~~~~~~~~~~~!」
鳴声のような音が聞こえ、直後、目も眩むほどの光が辺りを覆う。
「何じゃ!? この光は」
目が霞む中、視界に入ったのはバタバタと倒れていく魔獣たちだった。
自分が乗っている魔獣もガクンと体勢を崩す。スノウは魔獣が倒れる前に飛び降り、動かなくなった魔獣の様子を確認した。
死んではいないようだが、全ての魔獣が痙攣して動けなくなっている。スノウはこの機会を見逃さなかった。
雷の魔法を何度も撃ち込み、魔獣たちを絶命させていく。
光が収まり始めると、辺りには大量の“魔石”が散らばっていた。
「何とか倒せたか……それにしても、さっきの光は……」
◇◇◇
トリーヤは苦戦を強いられていた。
すでに戦線は崩壊し、乱戦に突入していたからだ。屈強な騎士たちが何人も魔獣の前に倒れ、後方支援していた者にも魔獣は襲い掛かった。
それでも何とか戦いを維持できたのは、ライカを始め騎士団の練度の高さによるものだ。トリーヤは指揮官としての自分の未熟さを感じていた。
「トリーヤ様! アレを」
ライカが街の方を指さす。トリーヤが振り返ると、街の中から巨大な光の柱が立ち上っている。
「何だ、あの光は!?」
光はその範囲を広げ街全体へ、更に街の外であるトリーヤたちの所にまで、闇を打ち払うように伸びて来た。
そして明らかな変化が起こる。
押されていた騎士団が徐々に勢力を盛り返し始めた。俊敏にこちらを翻弄していたダイアウルフは動きが鈍り、上空から襲い掛かってきたガーゴイルは力無く地に落ちた。
何度斬りつけても向かってきた“血舐め熊”も、力尽き倒れていく。
弱体化……それが最も適切な表現だとトリーヤは感じていた。
「どうなってるんだ、ライカ!?」
「分かりません……しかし、このまま押し返せば崩壊した戦線を再び構築できそうです!」
騎士団が優勢になっているのは間違いなかった。
「よし! ならば一気に攻勢に出るぞ!!」
「ハッ!」
聖十字騎士団は弱体化した魔獣たちを薙ぎ払い、ガイアの森にまで撤退させることに成功した。
そしてトリーヤが感じていた悍ましい気配も、森の奥へと消えていく。
◇◇◇
「大丈夫か? ルウト」
「うん、ありがとう。アル」
僕は倒れていた場所から、アルの手を借りて立ち上がる。パメラとアモンズ先生は倒れた魔獣の前にいた。
僕たちを乗せて走っていた恐竜のような魔獣がぐったりしている。二人は会話しながら、傷が無いかなど調べているようだった。
「死んではいませんね、どうして急に倒れたんでしょう?」
「大丈夫が? カボック、かわいそうに……やっぱり、あの光のせいがな」
「カボックって、この魔獣の名前ですか?」
「そだ、こいづがカボックで落ぢで来だワイバーンはクルル、学院長乗ってあったのがルーランだ」
先生がカボックと呼んだ魔獣は意識を取り戻し、ゆっくりと立ち上がる。
「よがっだ、よがっだ」
そう言うと先生は、木にもたれ掛かっているワイバーンの方へ向かった。それを見てパメラが怪訝な顔をしている。
「どうしたの、パメラ?」
僕がそう聞くと、パメラは難しい顔をしたまま近づいて来て小声で話す。
「ひょっとしてアモンズ先生って“従魔師”なんじゃない?」
「ええ!?」
「従魔師って、もうほとんどいないって聞いたよ!?」
「私もそう聞いてるけど、まったくいないって訳じゃないわ。事実、学院の地下には強力な魔獣が飼育されてるって噂は前からあったし」
「じゃあ、あれが本物の……」
僕は“従魔師”として武闘祭に参加したけど、それはガラスの板の能力とコロがいたから出来たことで、本当の従魔師とはとても言えない。
数少ないと言われている従魔師に、こんな所で会えるなんて……。
「プーー!」
「コロ!」
コロが向こうから走って来た。無事だったんだ……良かった。コロは元の姿に戻っている……まだ変化が解ける時間じゃないはずだけど。
それに【聖S】の能力は使ったばかりだ、結局どうなったんだろう?
「プー!」
「ごめんね、コロ。怖い思いをさせて」
胸に飛び込んで来たコロを抱きしめ、よしよしと撫でた。アモンズ先生が見に行ったワイバーンも起き上がり、飛ぶことが出来るようだ。
僕たちはアモンズ先生の判断で学院に行くことになったが……。
「ねえ、見て!」
パメラの声で振り返ると、魔獣たちがフラフラしながらこちらに向かってくる。やっぱり倒れただけで死んだわけじゃないんだ。
パメラは杖を構え、アモンズ先生は僕たちの前に立ちはだかる。
戦闘になるかと思ったが―― 無数の稲妻が魔獣たちを蹂躙していく。魔獣はことごとく黒い煙となり“魔石”となって転がった。
「「「学院長!」」」
「フォフォフォ、粗方片付いたかの。もう大丈夫じゃ」




