第30話 共闘と投擲
大きなスライムにぶつかると、ニジはスライムの中に取り込まれてしまった。
「ああ、ニジ!」
やっぱり大きさが違いすぎる。僕がニジを助けようとすると。
「待って、ルウト!」
パメラに肩を掴まれ、止められた。
「よく見て」
「え?」
見ると大きなスライムは、体が溶けていき消えてしまった。後に残ったのはキラキラと光る、ニジだけだ。
「やっぱり、ニジはスライムに対して優位性を持ってるのよ! このままデカスライムを駆除して行きましょう」
ニジが別のスライムに飛びつき、どんどん捕食してゆく。その間にパメラも氷の魔法を使い、橋の上のスライムを凍らせていった。
僕も手伝おうと――
「行くよ、コロ!」
「プーーッ!」
ガラスの板を出し、画像の左下にある【火F】を右上に移動させる。コロがスライムに向かって炎を吐き出した。
スライムは炎を嫌い、橋から川へ飛び込んでいく。
アルも「俺も手伝うぜ!」と前に出てきたが、パメラに「邪魔だから下がってて!」と言われ、肩を落としていた。
橋からスライムがいなくなったのを確認してから、みんなで橋を渡ることにした。大人の人からは――
「ありがとう、助かったよ」
「そのペット、スゲーな。魔獣か?」
など、感謝と驚きの言葉をもらった。母さんからは、「すごいわね、ルウト。でも無茶はしないでね」と言われ、僕は「うん」と頷く。
ふと振り返ると、さっきまでそこにいたコロがいなくなっている。「あれ?」と思い周りを見回すと、ニジに向かってトコトコ歩いていた。
「あ!」
僕が気づいた時には、ニジの目の前にいてダラダラと涎を垂らしている。「ダメ―!」と叫んで止めようとするけど――
コロはパックっと、ニジを食べてしまった。
「ああ! 何てことするんだ、コロ」
僕はコロを持ち上げ、ボフボフと体を叩く。コロは「プー」と不機嫌そうに鳴き声を上げて反抗するが、何か様子がおかしい。
顔が青くなっていき、小刻みに震えている。次の瞬間――
ダーーッっとキラキラした液体を大量に吐き出した。
「わーーーっ!!」
僕はビックリして、手を離すとコロは地面にバウンドし、コロコロ転がりながら悶絶している。
流れ出た液体は一ヶ所に集まり、虹色に輝くスライム“ニジ”が復活した。
「ニジ! 良かった。無事だったんだね」
ニジもプルプルと体を震わせ、ご機嫌に見える。コロでも食べることが出来ない動物がいたんだ。
僕とニジが喜んでいる横で、コロは恨めしそうに苦しんでいた。
みんなで学院を目指し、しばらく走っていると市街地に入る直前、開けた林道でアルが急に立ち止まる。
「ちょっ!? どうしたのよ」
「アル?」
「……何か……気配がするぞ」
何のことか分からなかったけど、前を走っていた人たちから急に悲鳴が聞こえてきた。僕たちはすぐに声の聞こえた方へ向かってみる。
暗がりで見えづらいが、大人の人達が手を振って何かを追い払おうとしていた。何かに襲われているのは分かったが、その何かが分からない。
「光よ、夜の帳を切り裂け!」
パメラが杖を取り出し、呪文を唱えた。辺りは明るくなり、飛び回っているものの姿が闇から引きずり出される。それは――
「鬼クワガタだ!」
アルの叫んだ名前に、聞き覚えがあった。
「鬼クワガタは魔獣じゃないが、ブレイド・ヘラクレスと同じで、かなり危ない昆虫だ。気を付けろよ!」
昆虫に詳しいアルが言うなら間違いない。鬼クワガタはブレイド・ヘラクレスより二回りほど小さいが、それでも結構な大きさだ。
光に集まるようで、パメラの方へ向かってくる。
襲われていた人たちは、この隙に逃げることが出来たようだ。周りに人がいない方が、パメラやコロも能力が使いやすい。
「母さんも、今のうちに避難して!」
僕は母さんに先に行ってもらおうとしたが……。
「何言ってるの! 子供を置いていく親がどこにいますか!」
「おばさん! 私が魔法で引き付けておくから先に行って下さい!」
「ダメです。何かあったら、あなたの親御さんに何て言うんですか! 避難所まで責任を持って連れていきます!!」
母さんは頑として譲ろうとしなかった。だけど――
「おばさん! パメラとルウトは俺が責任を持って連れて行く。無茶しそうになったら止めるから、先に行って!!」
「でも……」
「おばさんがいるとパメラやコロが能力を使いにくいんだ。反って危なくなる。それよりも学院に行って先生を連れて来て、お願い!」
「うぅ……アル君がそう言うなら……」
母さんはアルに絶大な信頼を置いている。僕が言うよりアルが言った方が効果的なのは間違いない。
「分かったわ、みんな無理しちゃダメよ! 危なくなったらすぐ逃げてね」
そう言って母さんは学院の方へと駆けて行った。後は、他の人たちが遠くへ逃げるまで、鬼クワガタを引きつければいい。
「アル、あんたも行って良かったのよ」
「バカ言え! 昆虫と言えば俺だろう! 俺が昆虫の扱い方を教えてやるぜ」
三匹の鬼クワガタは、パメラの光に向かって一斉に飛んでくる。
「氷の精霊よ、我が前にその力を示せ!」
パメラが光っている杖を振って魔法を放つ。二つの魔法を同時に使うなんて凄い。だけど鬼クワガタは素早く避けて、魔法が当たらない。
とても速い昆虫なんだと思い、僕はコロの能力を追加する。
【速F】の能力を、コロの画像の右上に移動させた。コロの後ろ脚が少し伸び、飛び跳ねて向かってくる鬼クワガタに火を放つ。
だけど、これも避けられた。コロより速いのか……。
「くっ! ダメね、当たらないわ」
「どうしたら……」
僕とパメラが考えあぐねていると、後ろから……。
「全然ダメだな、昆虫のことが分かっちゃいない」
「何よ、偉そうに! あんたは分かってるって言うの!?」
「当然だろ! 鬼クワガタは高い飛行能力があって、直角に曲がることが出来るんだ。それを計算に入れれば……」
アルはそう言って近くにある石を拾い、パメラに向かってくる鬼クワガタに投げつけた。
鬼クワガタは複雑な軌道で飛んでいたが、その軌道を読んだアルの石は見事に命中し、鬼クワガタは僅かによろめく。
パメラはその一瞬に杖を掲げた。
「氷塊よ、彼の敵を貫け!」
空中で生まれたいくつもの氷の礫が、鬼クワガタにぶつかっていく。クワガタは堪らず飛ぶ方向を変え、一目散に逃げていった。
鋭利なアゴを広げ、コロに襲い掛かろうとしていたクワガタにも、アルは落ちている棒っきれを投げつける。
鬼クワガタは、アゴの間に棒が挟まり大きくバランスを崩す。
その隙を突いて、コロが飛び上がり火を噴くと、体が燃えた鬼クワガタは東の空に向かって逃げていった。
あと一体――




