第26話 教会と謎の能力
「何だ、貴様は!」
採決の邪魔をされたゴドリックは激怒する。ここは議員でなければ入っていい場所ではない。修道服を着ているが、街では見ない男だとゴドリックは思った。
「トリーヤ様!」
行政長のアントンが、椅子から跳ねるように立ち上がる。
「お着きでしたか、知っておりましたら迎えを出しましたのに」
「アントン、この男を知っているのか?」
ゴドリックは不機嫌そうにアントンに尋ねた。
「知っているも何も、視察に来られた“司教”のトリーヤ・バルドウ様です」
「な……し、司教だと!?」
この国にある聖十字教会は極めて強い権威を持っていて、教皇は王に次ぐ実力者と言われていた。
司教とは教会において、教皇の次の地位であり世界に六人しかいない。
権限は“公爵”に匹敵するものだ。その司教に暴言を吐いたことに、ゴドリックは青ざめていた。(まさか、こんな若造が司教などと……)
「た、大変失礼いたしました。現在、審議会が終わる直前でして……議論が盛り上がっていたため、私も熱くなっておりました」
「そうですか、それは邪魔して申し訳ありません」
澄ました顔で謝罪するトリーヤに、ゴドリックは何をしに来たんだ? と心の中で憤慨する。
「実は今回行われている審議会の内容を聞きまして、是非私もお話をお伺いしたいと思い、失礼は承知の上こちらに参りました」
「そうでしたか……ただ残念ながら、議論は終わり採決を取ったところです。結論が出ましたので――」
「どのような結論ですか?」
前のめりに聞いてくるトリーヤに、ゴドリックはこめかみの血管がピクピクと動くのを感じていた。だが司教に不遜な態度を取る訳にもいかない。
「ええ、危険な魔獣は殺処分すべきとの判断になりました」
「そうでしたか……今回の審議会について、意見があったのですが……終わってしまいましたか」
ゴドリックはトリーヤの言葉に、眉を寄せる。
「お言葉ですが、トリーヤ様。州の自治は州の議会が決めると法律で決められております。いかに司教様とはいえ、それに口を挟むのはいかがかと……」
「もちろん存じております。ただ聞けば、とても珍しい獣だと……間違いありませんか?」
「そ、それは確かに……」
「ご存じだと思いますが、教会は絶滅が危惧される動物や、聖獣などの保護を行っております。これもまた“法”で決められたもの」
「そうですが、今処分が決まったのは“魔獣”の話です。教会の保護対象ではありません!」
「それは何という魔獣ですか?」
「え?」
「知られている魔獣であれば種族名があるはずです。もし新種ならば、それが魔獣であるかどうか見分けるのは、経験豊富な教会の修道士でも難しい。それをあなたは出来るのでしょうか?」
「それは……」
言葉に詰まるゴドリックを見て、トリーヤはニッコリと微笑む。
「では、その動物。教会預かりということで宜しいですね?」
うぐぐ、とゴドリックは言葉に詰まり、結局認めるしかなかった。
◇◇◇
「フォフォフォ、いやー助かったぞ、トリーヤ。ワシだけではゴドリック達の決議は覆せなかったからの~」
会議室から州の議会議員が出て行った後、スノウは入口の前に立っているトリーヤに話しかけた。
「いえ、とんでもありません。スノウ先生が審議会を申請したと聞いて、何事かと……調べた所、かなりの理不尽が横行しているようですね」
「先生はやめんか、先生は。今はお主の方が立場が上じゃろう」
「私にとってスノウ先生は永遠に師です。その技術も、その生き方も」
スノウは困ったように長い顎髭を撫でる。
「仕方ないのう、それでゴドリックの所にいる動物はいつ頃戻ってこれそうかのう? 早く生徒に返してやりたいが……」
「今、私に同行していたピオ司祭が、護衛を連れてゴドリック邸に向かいました。今日中にはなんとかなるかと」
「そうか……それなら良かった」
「ところで、その動物は本当に珍しいのですか?」
「うむ、ワシでも見たことが無かった動物じゃ、魔獣ではない気がするがのう」
「スノウ先生でも見たことが無い動物ですか……それは面白そうですね」
興味深そうに笑うトリーヤを見て、スノウも「変わらんのう」と苦笑した。
◇◇◇
僕はベッドに上で寝転がっていた。審議会はどうなっただろう? もし、これでダメならコロとは二度と会えないかもしれない。
不安と期待が、胸を締め付ける。
枕に顔を埋めていたが、コロのことが心配になり、ガラスの板を開いた。これを見ても何か分かる訳ではないけど……。
そう思って見てみたが、明らかな変化があった。
「え? 何これ」
コロの画像の下に、見たことの無い文字がある。コロが連れて行かれる前には無かったものだ。
ゴドリック邸でコロを助けようとした時は、慌ててたんで気づかなかった。僕は詳細のタブを開き、詳しい情報を確認する。
そこには新しい画像があった。“樹”のような画像だ。
「なんだろう……アグリ……ロートス?」
種族名なのか、名前なのか、よく分からないがそう書かれていた。そして驚くのが【能力】の項目だ。見たことの無い能力が表記されている。
[アグリロートス]
【聖S】【樹B】
“聖”なんて文字も初めてみたけど、“S”なんて表記も初めてだ。これが強さを表してるなら、物凄く強いってことじゃないかな?
詳しい情報を見るため“樹”の画像をタップしてみる。
何の動物か分かると思ったが、「???」とハテナマークが羅列されるだけで、内容はまったく分からなかった。
「見ることが出来ないのか……」
今度は文字の情報を見てみようと、【聖S】をタップしてみる。文字が展開されたが、内容が分からない。
【聖なる光 Sランク】
????????????????
またハテナマークだ、強そうな感じはするんだけど……。今度は【樹B】の文字をタップしてみる。【聖S】と違って内容がちゃんと表示された。
【神樹の鳴動 Bランク】
植物全般を操ることが出来る。
植物を操るか……パメラが使った魔法みたいなものかな? これもランク“B”と、かなり高い。コロはどうしてこんな力を……。
僕が考え込んでいると、玄関の方で物音がした。
こんな時間にお客さんだろうか? そう思っていると、母さんが「ルウト!」と大声で呼んできた。
僕はベッドから飛び起き、玄関へ向かう。
玄関には父さんと母さん、それに数名の修道服を着た人たちが立ち話をしているようだ。近くまで行くと、中心にいた修道士さんが僕に笑いかける。
その人は、とても綺麗な顔立ちをした白くて長い髪の男性だ。
よく見ると、男の人は大きめの檻を持っている。見覚えのある檻………雨の日にコロを連れて行った――
「プーーーッ!」
「コロ!!」
間違いなく、コロがそこにいた。




