第25話 父親と審議会
今までフラフラして、あまり高く飛べなかったけど、もうこの能力しかない!
走っているコロの背中に翼が生え、完全に広げることが出来ると、助走をつけて飛び上がる。やっぱりフラ付いているが、今までで一番高く飛んだ。
「コロ! がんばって!!」
「プ~~~!」
コロは鉄柵にぶつかるが、足と羽を必死にバタつかせ鉄柵を駆け上がるように昇ってくる。
後ろから来た男が手を伸ばした。コロはギリギリで柵を超えるが、鉄柵の突起に足が引っ掛かりバランスを崩して落ちてきた。
「プーー!」
「コロ!!」
僕はコロを抱きしめる。
「何だ、このガキ共!」
「おい! 正門から回り込め」
僕たちは、すぐに逃げようと駆けだした。だけど屋敷の右手から、数人の大人がこっちに向かって走って来る。
別の出入り口から、回り込んできたんだ。
反対方向に逃げようとすると、正門から出てきた人たちが「逃がすな!」「捕らえろ!」と叫びながら、こちらに走って来る。
僕たちは行き場を失い。囲まれてしまった。
腕の中にいたコロの「プゥ?」という鳴声だけが、夜の闇へ溶けていく。
◇◇◇
翌朝――
「ルウト!」
役場で保護され、待合室で座っていた僕を、父さんが迎えに来た。
「何て無茶するんだ。母さんも心配してたんだぞ!」
「ごめんなさい……父さん」
結局あの後、僕たちはゴドリックさんの家の人たちに捕まり、朝になって役場に引き渡される。
色んな人に凄く怒られたけど、僕たちは鉄柵の外で捕まったため、屋敷に侵入したことはバレることはなく、それ以上のお咎めは無かった。
パメラからも「私たちは、コロが心配になって見に来ただけ、ここにコロがいることはグランドが学院で話していたのを聞いたから」そうやって口裏を合わせましょう。と言われた。
正門の鍵が開いていたのは疑問に思われたようだけど、子供が空けるのは無理だと考えられ、真相は有耶無耶になる。
ただし、コロは当然取り上げられてしまった。
「他の子の親御さんは、もう迎えに来たようだね。私たちも帰ろうかルウト」
アルとパメラの親はすでに来て、一緒に帰っていった。アルはお父さんに拳骨をもらっていて涙目になっていた。
アルには凄く迷惑をかけてしまったので、後で謝ろうと思う。
「でも、父さん役場の仕事はどうするの?」
「心配しなくていい、今日はお休みをもらったから」
僕たちは役場を出て、一緒に歩き出す。今回のことで父さんにも相当迷惑をかけてしまった。ゴドリックさんは役場に苦情を入れたんじゃ……。
父さんの立場を悪くしてしまい怒ってないだろうかと、父さんの顔を見上げると、父さんは僕を見てやさしく微笑んだ。
街の中心部である商業地を抜け、住宅街を南下すると、見慣れた田園風景が視界に入ってくる。
小川が流れ、そこから水を引いている水田の畦道を通って、ポツポツと点在する家々が目に入ってきた。ここまで来ると自宅はもうすぐだ。
無言で歩いていると、父さんが口を開く。
「すまなかったな、父さんがコロのことを何とかしていれば、お前がこんなことをする必要も無かったのに、父さんの力不足のせいだ」
「父さん……父さんは何も悪くないよ。僕の方こそ勝手なことしてゴメンなさい」
僕が謝ると、父さんは「もういいんだ」と首を横に振る。
父さんは役場で責任のある役職だと聞いていた。今回の事は仕事に影響があるはずなのに、そのことは絶対に言おうとしない。
「そうだルウト、まだ話してなかったが、この前クレティアス学院の学院長に会ってきたんだ」
「え? 学院長に?」
「ああ、学院長が“審議会”っていう役場のやり方に異議申し立てが出来る会議を開いてくれて、それが今日の午後から始まるんだ」
「そうなんだ……」
学院長が審議会を開いてくれるのは知っていたけど、今日行われるのは知らなかった。だとしたら、昨日問題を起こしたのは良くなかったかもしれない。
「コロ……帰ってくるかな?」
「学院長を信じよう……きっと大丈夫」
僕と父さんは、希望を抱きながら母さんが待つ家へと帰った。
◇◇◇
トリーヤ・バルドウと同行する司祭のピオは、バリスクの街に入り一路、役場を目指している。
彼らは街に着いても、すぐには中に入らず周辺の調査を行っていた。
森や山、川などにいる生物の生息域が変わってきている。環境の変化を確認することは、彼らがバリスクまで来た理由の一つだ。
ある程度の調査を終え、五千の兵は街の外へ残し、護衛などを数名連れて今に至る。ただ少数とはいえ、教会の修道服を着た集団が歩いていれば、否が応にも目立ってしまう。
トリーヤは役場に着くと、受付の女性に声を掛けた。
「すみません。聖十字教会のトリーヤ・バルドウと申します。行政長はいらっしゃいますか?」
受付の女性は美形なトリーヤに一瞬見とれたが、慌てて質問に答える。
「ぎょ、行政長は今、“審議会”に出席しています」
「審議会?」
「はい、州議会議員であるスノウ学院長による要請によるものです」
「スノウ先生が……?」
トリーヤは少し考え込むと、同行していたピオが疑問を口にする。
「珍しいですな……バリスクのような地方の役場で審議会など、あまり聞きませんが……」
「それも、あのスノウ先生が要請したとなると……」
「スノウ……スノウ・フォレストですか?」
「ちょっと気になりますね。何についての審議か調べてみましょう」
◇◇◇
役場の一室、最も大きな会議室で審議会は行われていた。
「この魔獣が危険な存在なのは間違いない。武闘祭の決勝を見ていなかったのか? 対戦相手に酷い傷を負わせていたんだぞ」
ゴドリック・クレーバーは、議会で使われる円卓のテーブルに座る十一人の議会議員の前で立ち上がり、強弁を張っていた。
語気を強める主張に、スノウは辟易している。
「酷い怪我とは大袈裟じゃな、お主の息子は大した怪我はしておらんよ」
「な、何を言うか! その怪我の影響で、息子は今も学校に行くのが困難になっているんだぞ、学院はどう責任を取るつもりなんだ!!」
スノウ学院長は「やれやれ」と髭をいじりながら反論する。
「お主の息子、エリウスは決勝で負けたのが恥ずかしくて、登校を拒否しておるだけじゃ。怪我は関係ない」
「ワシの息子を愚弄するのか!? あの魔獣の危険性を示すのはそれだけではないぞ! ワシの屋敷も破壊して大暴れしていたんだ。狂暴性は明らかだ!」
「ふーむ、それはおかしいのお……」
「何がおかしいんだ!?」
「役場で保護された“魔獣”が、何故お主の家におるんじゃ?」
「そ、それは危険な魔獣だから、防犯設備が行き届いたワシの屋敷で預かることになったんだ。何か問題でもあるのか!」
「防犯設備がある場所なら、役場にもあるし学院にもある。わざわざ個人の屋敷でする必要などないと思うがのぉ」
「そんな事はどうでもいいだろう! もう関係者から話は聞いた、決を取るぞ。魔獣の殺処分に賛成な者は手を上げろ!」
七人の手が上がる。簡易裁判の意味合いが大きいこの審議会において、ゴドリックの派閥は七人いた。十二人の議員の過半数を超えている。
多少強引でも、数で押し切ればいい。そう思っていたゴドリックだが――
会議室の扉が「ガチャ」っと開く、そこには修道着を纏った美麗な男が立っている。突然の出来事に会議室内は一時、騒然となった。
「お取込み中の所、失礼いたします。聖十字教会から来ました、トリーヤ・バルドウと申します」




