第14話 想いと決勝
学年別武闘祭・決勝当日――
クレティアス学院の闘技場には多くの観客が集まっていた。
今日は全学年の決勝が行われることもあるが、何より注目を集めていたのは低学年、一~二回生の部だ。
「いや~、ほどんどの教師が来でおるな」
ザンバラ髪をした生物学担当のアモンズが、大きな体を丸めるように座り、感心するように辺りを見回していた。
見た目も特徴的だが、何よりその訛りの強さは彼の個性だ。
「校長先生や教頭先生も来てるぐらいですからね。例年とは明らかに違う雰囲気です」
社会学担当のスーザン・ポンペイはパーマのかかったプラウンの髪の女性で、クレティアス学院に来て三十年以上も経つベテランだ。
彼女は丸い眼鏡を何度もかけ直し、落ち着かない様子で選手が入場してくるのを、今か今かと待っていた。
「アモンズ先生。今日決勝で戦うルウト・コルダーの従魔は、何と言う“魔獣”なんですか? 私は見たことがないものですから……」
「いや、恥ずがすながらオラも分がらんのだよ」
「ええ!? アモンズ先生に分からない生き物なんているんですか?」
スーザンが驚き、目を見開いて聞くと、アモンズは恥ずかしそうにポリポリと頭をかいていた。
「前回の戦い見であったんばって、体型変化させだ上、火まで噴いでいますた。いや、めぢゃぐぢゃだよ。オラの知ってら“魔獣”の中にはいねす、当然普通の動物でもね……。では聖獣がど言わぃれば、それも違うしな」
「そんな生き物をルウト・コルダーはどこで見つけたんでしょうか?」
「オラもそれが謎だ。武闘祭終わったっきゃ、彼さ直接聞いでみようど思ってらんだよ。いや~楽すみで仕方ねな、ハハハ」
◇◇◇
観客席の一画。貴賓席に向かう男の姿があった。でっぷりとした体形で髪は薄く、執事や警護の者をを連れながら人ごみを掻き分けていく。
街の権力者であるゴドリック・クレーバーは息子の決勝戦を見るために足を運んでいた。
「パパ、こっちだよ。もうすぐ始まっちゃう!」
「おお、グランド。もう来ていたのか」
グランドの横に座るゴドリックだったが、両方でっぷりした体格で顔もよく似ているため、周囲の観客も二人が親子だということはすぐに分かった。
「グランド、エリウスは大丈夫か? 相手が話題になっとるようだが」
「パパ、楽勝だよ。相手は普通学級の奴だよ! 運よくここまで上がって来ただけで、兄貴に勝てる訳ないよ」
「そうか、それならいいが……」
グランドの言葉にゴドリックは胸を撫でおろす。自分の息子が普通学級の生徒に負けるはずがない。彼はそう考えていた。
◇◇◇
二ナ・エバンスは闘技場の最前列の席に座っている。自分が応援しているエリウス・クレーバーの戦いを間近で見るためだ。
仲の良い友人を集め、大勢で嬉々とした声を上げていた。
「いいですか皆さん! 決勝が始まったら、全力でエリウス様を応援しますわよ」
「ハイ、分かりましたわ」
「でも二ナ様、相手は普通学級の平民なのでしょう? 応援などしなくてもエリウス様の勝ちは揺るがないのでは?」
「分かっていませんわね。勝つ事は当然として、どう勝つのかが重要なんです。傷などを一切負わずに、圧倒的差で勝てるように応援するんですわ!」
「なるほど、さすがニナ様!」
二ナやその取り巻きがはしゃいでいる様子を、パメラは後ろの席で、しらけた気持ちで見ていた。
――勝つのはルウトよ。
多くの人々が見守る中、決勝戦の開始時間は刻々と近づいていた。
◇◇◇
決勝戦の直前、僕たちは闘技場の控室にいた。薄暗いレンガ造りの冷たい感じがする部屋だが、一緒にいるアルやコロはやる気に満ちている。
「いよいよだな。本当に決勝まで来るなんて……」
「そうだね、全力でがんばるよ」
僕がそう言うと、アルは何か考え込んでいるようだった。
「本当はな……、普通学級の生徒が武闘祭に参加できるの、ずっと前から知ってだんだ」
「え?」
「俺、頭はあんま良くないし、少し運動神経がいいって言われるぐらいで取柄もないだろ。そんな俺が武闘祭に出れたらって思ってたんだ。将来は家の靴屋を継ぐんじゃなくて、兵士になりたかったんだけど……」
「アル……」
「まあ、要するに俺の夢だった訳よ。こっそり剣の練習したりしたこともあったけど、全然才能なかったしな」
ハハハ、と笑うアルだが、正直そんな思いがあったなんて知らなかった。
「ルウト! お前は俺の夢を叶えてくれてんだ。一回戦に勝っただけでもスゲーと思ったけど、決勝まで来たことを俺は誇りに思う」
「うん」
「全力で行って来い! お前とコロなら出来るさ」
僕はアルに背中を押されてリングに向かう。薄暗い通路を抜けて、光の差す外に出る。大勢の歓声を受け、階段を踏みしめながらリングへ昇った。
僕と一緒に歩いてくるコロもやる気満々みたいだ。
リング中央、目の前にいるのは対戦相手エリウス・クレーバー先輩……長い金髪はオールバックにされ、スラっと背は高く腰には長剣が携えられている。
僕が先輩と向かい合うと、先輩は口を開く。
「君のような普通学級の生徒が、ここまで上がって来たことに敬意を表すよ。とても凄いことだ」
エリウス先輩はそう言って笑った。
グランドのお兄さんとは、とても思えないほど格好良くて紳士的だ。
「あ、ありがとうございます」
「お互い全力を尽くそう」
「はい!」
お互い距離を取り、審判の掛け声を待つ。勝てるかどうかなんて分からない。でも精一杯がんばると、僕はアルと約束したんだ。
コロに能力を割り振る。事前にアルやパメラと相談して戦い方は決めてあった。最初はこれで様子を見る。
「両者準備はいいな? それでは、始め!」
審判の号令と共にコロが飛び出し、兎ネズミの跳躍で一気に距離を詰める。コロには【速F】【硬F】【火F】の能力を割り振っていた。
体も軽いため、最もスピードの出る組み合わせだ。
だけどエリウス先輩も慌てることなく、腰にある剣を抜いた。何かを呟くと、先輩の周りや剣身に風が渦巻く。これがエリウス先輩の得意な戦法。
「風よ、彼の者を切り裂け!」
振るわれた剣から風の刃が飛び出し、離れた場所にいたコロに襲い掛かった。コロはその攻撃を軽快にかわしていく。
パメラから先輩が風魔法が得意で、剣と合わせて風の刃で攻撃してくるだろうと予想はしていた。過去の試合でも、このスタイルだったからだ。
コロは目前まで近づき、後ろ足で地面を蹴り上げ、高速回転する丸い弾丸となって先輩に向かっていく。だが――
風の障壁に阻まれ、コロは弾き飛ばされる。
空中で体勢を立て直し、地面に着地した。やっぱり一筋縄ではいかないな……僕が「コロッ!」と大声で叫ぶと、コロも理解したように全力で走り出す。
相手の懐に入り込み、大きく息を吸い込んで火炎を吐き出した。先輩が生み出す風によって、火はより強く燃え上がる。
「どうだ!?」




