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神獣キメラの育成日記 ~転生時のお願いを、神様が誤解しているようです~  作者: ARATA


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第15話 全力と激闘

 “炎”はエリウス先輩の周囲にある風と合わさり、一気に広がった。最初に火の攻撃を試そうと言ったのは、パメラだ。


 先輩の得意な風魔法を、逆に利用できるかもしれないと。


 大きな火柱となった炎は、先輩を飲み込んでいくが……風は急激に強くなり、爆発するように辺りに飛散して炎を吹き飛ばす。巻き起こった風にコロは飛ばされそうになるが、必死に耐えていた。



 「なかなかいい考えだと思うが、俺には通用しない」



 エリウス先輩はそう言うと、今度は左手からゆらゆらと炎を出す。


 風だけでなく色々な魔法が使えるから気をつけるように、とパメラに言われていたけど、先輩の魔法は予想以上だ。


 先輩が放った火魔法と風魔法が、同時にコロへ向かってゆく。


 コロの直前で合わさった二つの魔法は、カッっと光を放ち爆発した。火と煙が視界に飛び込み、破裂音の残響だけが辺りを支配する。


 僕は息を飲み、「コロッ!!」と大声で叫んでいた。


 一瞬の沈黙が会場におちる―― が次の瞬間、コロは黒い煙の中から飛び出してきた。その姿は立派な角を持ち、鎧のような甲殻を(まと)っている。


 金色の輝きを放つ、ブレイド・ヘラクレスの姿だ。


 会場からもどよめきの声が漏れる。僕は爆発する直前、能力の割り振りを即座に変えておいた。【刃D】【硬E】【力E】【速F】の現状考えられる最強の組み合わせだ。



 「何だ、その姿は!?」



 さすがにエリウス先輩も驚いたようだ。コロは剣のような角を相手に向け、強靭な後ろ脚で大地を蹴り、猛然と突進していく。



 「チッ、舐めるなよ!」



 先輩が何度も剣を振ると、その度に“風の刃”が生まれ、コロに襲い掛かる。だが、ヘラクレスの甲殻は風を弾きダメージを受けることが無い。


 距離を詰めると、剣のような角で斬りかかっていく。


 先輩も剣で受けるが、コロの方がパワーが強い。先輩が「くっ!」と言って苦悶の表情を浮かべる。


 俄然(がぜん)、コロの方が押し始めた。これならいけるかも、そう思った瞬間―― 昨日パメラに言われたことを思い出す。



 『この形態は今ある能力の中で一番強いけど、弱点が無い訳じゃないわ』


 『弱点?』


 『前にも言ったけど、昆虫である以上“火”との相性が悪いの。それは火魔法の攻撃にも弱いってこと。そしてエリウスは火魔法が使える』


 『じゃあ、どうしたら……』


 『今までの試合を見る限り、エリウスは風魔法が中心で、火魔法を使う場合も風魔法と合わせた爆発の攻撃しかしてなかったわ。一瞬の爆発であればコロは耐えることが出来ると思う。つまり相手に火が弱点だとバレる前に倒すのよ!』


 『そんなにうまくいくかな……』


 『何、弱気になってんのよ。やるしかないでしょ!』



 パメラに言われたように、短期で決着をつけないと。



 「行け! コロ!!」


 「プーーーーッ!!」



 コロは力の限り地面を蹴り、エリウス先輩に向かって突っ込んでいく。先輩もコロに向かい火と風の魔法を合わせ爆発の魔法を放つ。


 コロの前で三度爆発するが――


 辺りを覆う爆煙を突き破るように、コロが飛び出してくる。予想外の突進に反応が送れたエリウス先輩は、剣で受けるのが精一杯だった。



 「がはっ!」



 衝撃で後ろに飛ばされ、先輩が尻もちをつくと会場から悲鳴に近い声が聞こえてくる。まさかコロがここまで善戦するなんて誰も思ってないんだろう。



 「おのれ……」



 エリウス先輩の表情が、見る見る変わってゆく。



 「おのれ! おのれ! おのれ! おのれっ!!」



 血走った目が僕を(とら)える。さっきまでの紳士的な顔がどこにもない。



 「平民の分際で、普通学級の分際で、何の才能もないゴミクズの分際で!! この俺に恥をかかせるなど、絶対に許さん!」



 怒りに任せて、突っ込んでくる。風を(まと)わせた剣で力押ししてくるつもりだ。


 頭に血が昇ってるみたいだけど、僕はチャンスだと思った。エリウス先輩は本来頭も良くて、冷静に考えれば今のコロの弱点が“火”だと気づくはず。


 周りが見えなくなり、風の刃を乱打している今、決着を着けるべきだ。



 「コロ!」


 「ププーッ!」



 鎧のような甲殻が風の刃を弾く中、コロは真っ直ぐにエリウス先輩に向かっていく。先輩が振り下ろした剣と、コロが振り上げた角の剣が交錯する。


 バッチンっと甲高い音がした時、力負けした先輩が再び尻もちをつき、地面に座り込んでしまった。誰の目にも勝負が決したのは明らかだ。


 先輩は放心したような表情になり、会場も静まり返る。



 「……フ、フフ……ハハ、ハハハ……」



 笑い出した先輩の表情が、狂気に満ちていた。



 「この俺が……負ける!? バカな……ありえない、ありえない、ありえない、えない、えない、えない、ありえないっ!!」



 先輩は剣を振り上げ、コロではなく()()()()向かってくる。



 「何もあんな訳の分からん魔獣を倒す必要などない! 使役者であるお前を倒せば俺の勝ちが決まる、ハーーハハッ!!」



 猛然と向かって来るエリウス先輩を見て、僕は足がすくんだ。従魔師と戦う場合、使役者を攻撃しても、それは反則ではない。


 ただ、魔獣に背を向け、使役者に狙いを定めるのは誇りある先輩はしないと思っていた。コロに勝てないと(みずか)ら認めるようなものだからだ。


 負ける……これは想定される可能性を失念した、僕の責任だ。


 先輩の剣を受ける覚悟をした、その時――



 「プゥゥゥウウウーーッ!!」



 エリウス先輩の後方からコロが物凄い速度で駆けてきた。後ろ足で地面をおもいっきり蹴り、勢いで前方に向かって高速回転する。


 コロの必殺技、丸くなった弾丸だ。


 だが、今までと違うのは剣として使われる“角”が加わったこと。高速で回転する斬撃となって先輩に襲い掛かった。



 「うわぁぁぁああああーーーーー!!」



 振り返った先輩が、咄嗟(とっさ)に剣で受けようとする。斬撃の弾丸が当たった瞬間、剣は粉々に砕け散った。


 そして、先輩の右肩からお腹にかけて、そのまま切り裂いてしまう。


 鮮血が(ほとばし)り、斬られた先輩自身も何が起きたのか分からず、視線が(ちゅう)彷徨(さまよ)う。観客席からは女生徒の悲鳴が上がった。


 コロは空中で丸くなるのをやめ、パッと手足を広げて(かろ)やかに着地する。


 コロは「やったよ~」と自慢げな表情だ。それに対し、先輩はヘナヘナと座り込み、今日三度目の尻もちをつく。


 自分の右肩を恐る恐る触り、手に血が付いているのを見ると「ヒッ」と情けない声を上げて、そのまま失神してしまった。



 「しょ、勝負あり! 勝者、ルウト・コルダー!!」



 会場には拍手も歓声も無く。医療班が慌ててエリウス先輩に駆け寄るのを、心配そうに見つめるだけだった。


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