第13話 相性と決意
目的を果たした僕たちは山を下りることにした。大丈夫だとは思うけど、灰色熊のように危ない動物が出てくる可能性もある。
安全を考えて、コロの能力の検証は家の近くで行うことにした。
「それにしても、あんな危ない昆虫を捕まえに行くのに、全然準備が足りてないのよ。アルに任せると碌なことにならないんだから!」
「何だよ! うまくいったんだからいいだろ!」
「私がいたからでしょ! 昔から考えなしなのよ、あんたは!」
「俺が罠を仕掛けたからヘラクレスも現れたんだ。お前文句言い過ぎなんだよ」
「大体、今までブレイド・ヘラクレスを捕まえたこと無いんでしょ。魔獣に近い強さなのに、どうやって捕まえる気だったのよ!」
「この丈夫な網と、コロがいれば大丈夫だと思ったんだよ!」
「全然、大丈夫じゃないじゃない!!」
僕の家に着くまで、二人の口喧嘩はずっと続いていた。でも仲がいいことの裏返しだと思うから放っておくことにする。
僕の横をトコトコ歩くコロも「プー」と鳴いているんで、きっと「しょうがないよね」と呆れているんだと思う。
家に着いた後、庭先でヘラクレスの能力を検証することにした。だけど僕は少し悩んでいた。
「どうしたの? ルウト」
「うん、ちょっと考えてたんだ。ヘラクレスの能力は【刃D】と【硬E】の二種類があるんだけど……」
「それが何か問題あるの?」
「コロには三種類の能力しか割り振ることが出来ないんだ。基礎能力の【速F】【力E】は組み込みたいけど、そうすると【刃D】か【硬E】のどちらかしか入れられないと思って」
「確かにそうだな……せっかく手に入れた能力なのに勿体ないよな」
「取り合えず、【刃D】と【硬E】の能力を試してみましょうよ。より使える能力を選ぶしかないと思うわ」
「うん、そうだね」
僕は画面にある【硬E】の文字を動かそうとした。
「あれ?」
「どうした?」
【硬E】の文字を動かすと、【刃D】の文字も一緒に付いて来る。二つの文字が連なって、まったく離れようとしない。
「【刃D】と【硬E】の文字がくっついて離れないんだ」
「文字が? どういうことだ」
「ルウトの能力は分からないことが多すぎるわね。そのガラスの板も魔法なのかどうかも分からないし、それにヘラクレスの能力が【刃】と【硬】だけなのも変よ。だってヘラクレスは空だって飛んでたし、力だって強かったわ」
「うーん……多分だけど、一部の能力しか獲得できないんだと思う。その動物の一番、特徴的な部分だけとか――」
その瞬間、僕あることに気づく。
ひょっとして割り振ることが出来るのは能力ごとじゃなくて、動物ごとなんじゃ……。三体の動物の能力を取り込むことが出来る獣。
だから“合成獣”なのか! 僕は自分が気づいた事をアルとパメラに話した。
「ルウト、きっとそうだよ! スゲー発見だって」
「だとしたら、能力を複数持ってる動物を捕食すれば、それだけコロを強く出来るってことじゃないかしら?」
「パメラ、お前やけにコロを強くすることに積極的だな。何かあるのか?」
確かにアルが言う通り、特別学級のパメラがそんなに僕に勝ってもらいたがるなんて、少し不思議に感じていた。
「フン、別に。ただ私の嫌いな女がエリウスの応援をしてるみたいだから、何としてもルウトとコロに勝ってもらわないとね」
何のことかは分からなかったけど、邪悪な笑みを浮かべてるパメラに、それ以上は聞けなかった。
何にせよ、本当に動物ごとに割り振れるのか試してみよう。
「コロ、いくよ」
「プーッ!」
僕はガラスの板、コロの画像の下にある【刃D】【硬E】の文字を、画面の右上に移動させる。コロの体が徐々に変化していった。
ビキビキと音が鳴り出し、コロの頭に角が生え出す。それは“剣”のように鋭い形で、頭から背中にかけても、甲冑のような外皮が再現された。
金色に輝くその見た目は、まさにブレイド・ヘラクレスのようだ。
「ズゲー、かっこいいな、ルウト!」
「うん!」
アルの言葉に、思わず頷いてしまう。それぐらい、今までの変化の中で一番かっこ良かった。パメラは見た目には興味がないみたいだけど……。
「それで、他の能力と組み合わせるとどうなるの?」
「うん、やってみる」
【速F】【硬F】【力E】は、今日すでに使ってしまったので、残っている【火F】【飛F】の文字を画像の右側に移動させる。
コロの体からは羽が生えてくるが……。
「あれ? 思ってたのと違う」
その羽はヘラクレスの甲殻の上から生えた、鳥の翼だ。僕は背中の甲殻を広げて出てくる、昆虫の羽を想像していただけに意外な感じがした。
パタパタと羽ばたくが、飛べないみたいだ。
「ふーん、あくまで取り込んだ動物の体が再現されるのね。ルウト、火を噴けるかどうかも試してみて」
「分かったよ。コロ、火を噴いてみて」
コロは大きく息を吸い込み力一杯、火を噴いてくれた。ただ火はすぐに弱くなり、コロは「ケポ、ケポ」と苦しそうに咳をする。
羽が生えたことと、火を噴けたことで四つ以上の能力が使えることは確定した。だけどコロの様子が少しおかしい。
「コロが調子悪そうなんだけど……やっぱり能力が多すぎるのかな?」
「ちょっと待って」
パメラはそう言ってコロを観察し始めた。「コホ、コホ」と咳をしているコロを見て、何かに気づいたようだけど……。
「ひょっとしたら……」
「なに?」
「組み合わせに相性があるのかもしれない」
「相性? 相性って何だよ!?」
アルが怪訝そうな表情でパメラに聞く。
「ヘラクレスは昆虫よ。火を噴く昆虫なんて聞いたことが無い、つまり“火”と“昆虫”は相性が悪いってこと、それに……」
パメラはおもむろにコロを抱き上げ、僕の元へと運んできた。
「ちょっと持ってみなさい、ルウト」
パメラに言われるまま、渡されたコロを抱き上げる。
「あ! 重い」
「そう、コロは単に体を変化させてるんじゃない。重さを含め、質量が変わってるの。この弱々しい羽じゃ重い体を飛ばせないのよ」
「そうなんだ……」
「原理はよく分からないけど、それだけコロは特別な存在なのかもしれない」
「じゃあ、決勝で戦う時は……」
「相性を考えて組み合わせる必要があるわ。でも、それがうまくいけば決勝でエリウスにも勝てるはずよ!」
僕は抱き上げたコロの顔を見ていた。ヘラクレスの角が生えてるので凛々しい印象を受けるが、コロの力を百パーセント引き出せるかは僕にかかってる。
「一緒にがんばろうね、コロ!」
「プーッ」と鳴いてじゃれてくるコロを撫でながら、「全力を尽くすからね」と心の中で呟いて、決勝に臨む決意をした。




