4、終わらない問題の山
ミズという男は実在するわけではない。何人かいる自分のうちの一人だ。
だが、目の前には男がいる。
姿はいつも朧気で、背丈すら意識したことはない。だが、この男はミズだ…と思う。
「ミズだよな?」
両手が離せないが腹が立つので娘に衝撃がいかないよう、かつおもいっきり蹴る。
「理不尽!?」
「うるさい。さっさとこたえろや。」
「そうだよ!なんでかは知らんがな!」
こういうのをどや顔というのだろうか。腕を組み、既に立ってるから見下ろしているのに少しのぞけり少しでも見下そうとしてくる。
「うぜぇ。」
「ごめんなさい!」
少し睨むとすぐに謝る。
(バカだこいつ。)
謝ったかと思えば、言葉使いが悪いだの、おしとやかにしろだのうるさく言ってくる。うるさいので右から左に聞き流す。
それにしても、ここは何処なのだろう。誰かと話していたのは覚えているが、知り合いにも自分の中にも思い当たるものはいない。
「普通、こういうのって説明するのが出て来るだろ。出てこなきゃ何にも出来ないじゃんか。なんだこの無理ゲー状態。」
とりあえず、お乳をあげおえる。
「せめて、説明書プリーズ・・・」
ポフン――という音はしないが目の前に紙の束が現れ、落ちる。
ミズが持ち上げると表には『説明書』とでかでかと書かれている。
「「・・・・・・マジか」」
二人共に沈黙。娘がうとうとしている。
「とりあえず、読んだら?」
考えても埒があかないので促してみる。
「お、おう。えーと、ヤッホー!突然ですが、あなたの名前分かるぅ?分かんないよね!知ってる!とりあえず、自分の名前を決めてね☆説明はそれからだよ!!テヘッ」
「わかった。キモイ。死ね。」
寒イボがたった。鳥肌がたった。顔が男前な方向に整ってるぶん、余計に似合わなくて気持ち悪く感じる。
「書いてあるとおりに読んだだけだ!!」
「ノリノリ過ぎてきもい。」
四つん這いになって落ち込んでいるが面倒だから放っておく。
「それより、名前を決めろって・・・・・・あたしには名前がちゃんとあるんですけど。」
子供の頃は嫌いだったが、名前の由来を聞いてからはそこそこ気に入っている。今では親からもらった大事な名前として大切にしている。
「・・・・・・・・・あれ?名前?」
自分の名前を思い出せない。ミズは分かる。でも、娘は?
「嘘だろ・・・・・・・・・・・・」
自分と娘の名が思い出せない。
「え?****だろ?」
ミズが何か言うがききとれない。
「・・・・・・つまりはあれか、ボクと娘の名前を思い出せないようにしたとか、取り上げたとか、そういうやつか。」
今まで読んだ小説のいくつかにそんなストーリーがあった。名前を無くしても前を向いて生きていくのをみて、普通はそんな感じなのだろうと思っていたが……
「・・・・・・ムカつくな。いや、どつきまわしてぇ。」
自分は、恨みを持つようだし殺意が湧く。これは自分がおかしいのか登場人物達がおかしいのか…
「マジか?」
「マジだなぁ。ミズがなんて言ったか分からん。多分、何回やっても一緒だろうなぁ。」
「****、****、****、****、****、****-」
「わかったから!うざい!!」
おそらくは自分の名前を呼んだのだろうが、うまく聞き取れない。
「腹立たしいことこの上ないな。こんにゃろう。……娘の名は?」
「は?」
「娘の名前!察しが悪いな!!」
娘が泣き出すので慌ててあやす。ミズは横で頭を抱え唸り始める。
(なによ!?早く答えなさいよ!!)
大声で叫ぶとまた娘が泣くかもしれないので心の中で叫ぶにとどめる。どうせ、自分なのだから思ってることなんて筒抜けだ。だが、ミズはいまだに横で唸っている。
舌打ちを打ち、肘で向う脛を打つ。
「うぐぅっ!?」
「オレを無視するとはいい度胸だな、オイ。」
「え?なんか言ったか?悪い!聞いてなかった。」
「心の中で思ったのに、聞こえないわけあるかボケ。」
「あれ?そういや、心の声が聞こえない…?」
「はあ?」
考えなければならない案件が多くてそろそろパンクしそうだ。




