Ep1「運命を謁見せし者」
「では予定通り 本日はクルセビナ魔学術資料館の見学会を執り行う。
生徒諸君には3時間の自由行動を与える その間に、印象に残った文献
や魔法器具を記録するように。
提出されたレポートによって、本日の授業を評価するものとする。」
クルセビナ魔学術資料館 僕はまだこの世界にきたばかりで知らなかったけど
どうやら毎年学院3年を対象に執り行われるいわゆる課外見学授業らしい。
僕の世界でいえば、学校の授業で科学館に見学に行くイベント的なものか。
「おい 落ちこぼれ、お前今日の授業は評価0だろうな。
この世界の言葉も禄に読めないってのに 文献に関するレポートなんて
書けやしねぇもんな。 転生者のくせによぉ。」
エルメナス・オリシウス
貴族の家系にして優秀な魔剣士は、アレイを見て容赦なく血反吐を吐き捨てる。
彼にとって、魔法も剣技の才も得られなかった転生者など ただのゴミに過ぎない。
クラスの人間は まるで初級の魔物のように僕を見ている。
しかし、ここはそういう所だ 死んでいないだけ、僕はマシだと思っている。
異世界に来た時から 僕のそばに居てくれる人なんて1人もいない
転生者が受け取るはずのギフトを1つも得られなかった人間を、受け入れてくれる人なんて...。
「静粛に お前はもっと貴族としての在り方をわきまえろオリウス。
名家の人間が これでは呆れるぞ。」
通りがかったヴィレン先生の叱責によって、アレイは必要以上の暴言を食らわずに済んだ。 しかしオリウスの鋭い眼光は、いまだにアレイの心をえぐっている。
クルセビナ魔学術資料館
「ラビアメール魔法学院の生徒の皆さま 本日はようこそお越しくださいました。
皆様のような、後に魔物討伐に多く貢献される方々に起こし頂き たいへん嬉しく存じ上げます。」
十分すぎる待遇 見栄を張る生徒も出てくる程に。
僕が通っている学院は、人間が魔界を制する目的で作られた 世界で最も誇り高き
魔法学院。
世界中から優秀な人間を集め 転生者や覚醒者までもが、この学院で一堂に力をつける。
皆がいずれも「星狩人」に至る素質を持つ。
「では皆 ここで一度解散だ。 3時間後の点呼の際に、ここに戻ってくるように。
くれぐれも、学院の地位を下げるような行為はしないように。」
皆はそれぞれの 展示ブースへと分かれて行き、僕は1人になった。
まぁこれはいつものことだ。
『暇だ』
『あー暇だ』
突如アレイの脳内に言葉が響いた。
少し気怠い女性の声 土日を棒に振った人間が吐き捨てそうな言葉
なんだ...話しかけられたわけじゃない。 脳内に直接言葉が伝わってくる感覚
不思議な感覚だ。 一体どこから響いているんだ。伝達系の魔法か?
「ヴィレン先生 今、なにか声が聞こえませんでしたか?」
「声...私は聞いていないな。 それより君も見てくると良いアレイ。
文献を上手く読めずとも 魔法器具なら視覚的にレポートを書くことも出来るだろう。」
先生にも聞こえていない。 でもたしかに「暇」って...。
先生は 魔法器具館の入り口を指さしていた。
まぁ、とりあえず行ってみよう。細かい事は気にしない 気にしない。
「ありがとうございます。ヴィレン先生。」
魔法器具館には、多くの剣や杖を含む魔道具が展示されていた。
中には 神話級のものも含まれている。
特にこの、勇者が使ったとされる 古代神秘武器なんて...
『少し待て 君...』
また、脳内に声が響いて来た。 同様に、周りの生徒に何かが聞こえているそぶりはない。本当になんなんだこの声は。
『君 私の声が聞こえているのか』
問われている。周りの誰も、この声を聴けていないんだとすれば
これは明らかに僕に対する問。
アレイは心の中で強く念じた。
「あぁ、聞こえている 君は誰だ。何の目的があって話しかけている。」
『私は純粋に嬉しい、800年も待ち続けた存在が今そこにいることが。
良いだろう 君の質問に答えよう。 その前にここでは分が悪い。
まずは 私のもとに来てもらわないと。」
800年待った存在... 一体何を言っているんだ。どういう
『落ち着け 混乱する事情は分かるが、今は私の所に来ることが優先だ。
私とて この機会を失いたくはない。』
アレイは一度冷静になって深呼吸した。
分かった 君はどこにいるの。
『展示室をもう少し進んだ先に 大時計が置かれた部屋がある。』
アレイは歩みを進めた。
あった、多分この部屋だ。
部屋にはレッドカーペットが敷かれ 大時計が1つ静かに展示されている。
部屋には、新品の家具の独特な匂いが漂い 天井につるされた多くのシャンデリアは神々しくも優しい光を孕んでいる。
休憩スペースだろうか。
しかし、おかしい
これだけ大きい部屋であるにも関わらず 人1人そこにはいない。
300人の生徒が来ているんだ この建物はそれほど大きなものではない
それなのにこの大きなホールに僕1人 あとは静寂に包まれている。
『不思議でしょ この部屋は魔法で創造された特殊空間、 彼と契約した私が案内しなければ辿り着くことは出来ない。』
さっきより、よりはっきり声が聞こえる
まるで対面に佇んでいると錯覚してしまう程に 目が合う訳でもないのに
目を合わせて対話しているようだ。
魔法で作られた空間... でもここには教師たち上級魔法使いや魔剣士も来ている
そんな人たちの前で、魔法による隠し事なんて不可能じゃ...。
それこそ こんな膨大な空間を創造すれば、出力した魔力はとんでもない。
『君は この空間を作った人間を理解していないな。まぁ いい
それは一度おいておこう。』
レッドカーペットの地面に 魔法陣が映し出され
台座に突き刺さった 1本の剣がせり上がって来た。 それはアレイが現世で見た
勇者の剣そのものだった。
『改めてこんにちは さぁ話をしようか。』
その剣が、君なの?
『いかにも 私は堕天使 ルシファー。 あぁ剣は私を閉じ込めている媒体に過ぎない。』
天使 剣...
アレイは学院の授業の1シーンを思い出した。
教師は黒板を指して、武器に関する授業をおこなっていた。
「つづいて天使武器だ。 この武器は存在自体が特殊で、まだ謎に包まれている。
分かっていることは 天より堕ちて来た天使の魂を 古代人が儀式によって
武器に閉じ込めたという事。
そして、その武器を手にした者は 魂を食い荒らされ最悪死にいたる事。
存在が確認されているだけでも7本ほど存在し それぞれに別の魂が封印されている。 使えれば絶大な力を行使できるが、触れられる人間すら現れない
そういう武器だ。
そしてその内の1本 美しき紫色の刀身をした天使武器は、300年ほど前に
何者かに盗まれている。」
そしてアレイの前には まさしく美しき紫色の刀身を持つ剣がたたずんでいる。
束から切先にかけて 無駄が無い洗練されたデザインでありながら、まるで
先ほど完成したのではないかと錯覚するほどに状態が良く美しい。
君が300年前に盗まれた天使武器。
『盗まれた は心外かな。 もともと私は誰のものでもない。』
堕天使 ルシファーは、本題に入らんとばかりに話を続けた
『君が私の声を聞くことが出来ているという事 それはつまり君が"天使受容体"であることを指している。』
天使受容体...それは一体。
『簡単だ。 天使受容体は天使武器に封印された私たち堕天使の
魂を取り込み、扱い そして昇華させることが出来る特殊気質を持つ人間。
私はこの気質を持つ人間がこの世界に現れると、確証はしていなかった。
天使の魂は、人間のそれを呑み込み崩壊させるという絶対的な性質があるから。』
確かに先生も、「魂を食い荒らされ最悪死にいたる」と言っていた。
何故僕に 魂を受け入れられる気質があるというんだ 僕は無能な転生者なのに。
アレイは冷静になって反論した。
自分の無能さは 自分が一番良く分かっているつもりであったから。
『それは、分からない。 世界には様々な理が存在する。
それらを全て観測できる者など 私は現に1人しか思いつかない。
でも 君は選ばれているじゃないか。
800年現れる事が無かった 天使受容体に。 私からすれば半端なギフトの100倍は有用性がある。』
聞かせて欲しい、ルシファー 君の目的と僕がすべきことを。
世界はアレイにあまりに理不尽だった 転生によるギフト無し
魔法の才能無し 剣の才能無し 言語も禄に読み書きできず
周りから馬鹿にされ続けた。
周りの生徒は皆、国の守護者となり 魔族に対抗していくいわゆるエリート候補
そんな中 魔法も禄に扱える人間に居場所なんてない。
しかし、今転機がまわってきたのかもしれない
ルシファーの言葉は アレイの封印された好奇心を解放する鍵となりつつあった。
『私の目的は 全ての天使武器から魂を解放すること。
古代人は私たち堕天使の魂を、儀式という名の術式によって 武器の中に封印した。
これは魂の保護などでは無い 興味本位で幽閉したと同義だ。
私たち堕天使は 長い時を狭い牢獄の中で過ごし
国に実験機関が出来てからというもの 魂に干渉する実験によって苦痛を被ってきた。 そんな理不尽な環境を 私はぶっ壊したい。』
そのために、僕が 全ての天使の魂を取り込むと?
『いかにも これは天使受容体以外に成し遂げられないものだ。
勿論、君にもリターンがある。
先ほども言ったが、取り込んだ天使の固有魔法術式を 受容体は扱う事が出来る。』
アレイの心の奥底には 誰かに認められたい感情が微かにあった。
しかし、アニメのような転生を成せなかったアレイにとって その感情は1年も持ち続けられなかった。
『しかし、アレイ 君の技量では 私の術式は到底扱えない。』
アレイの希望が絶望に変わる前に ルシファーは続けた。
『だから、私が君を強くする。』
アレイは驚いた表情で 剣を見た。 心拍数は早くなり、全身の細胞が震え上がる感覚。
『私が君に魔法を教える。 何 天使武器6本を全て回収するんだ。
それぐらいはしなければいけない。 ただアレイ 天使受容体という気質を持っていても、これは短い道のりじゃない。』
僕は 何も得られなかったんだルシファー。誰も僕を見ていなかった。
そんな僕を 君は「強くする」と言ってくれた それならもう十分だ。
君の魂を取り込むことの代償が 世界が滅ぶことであっても、僕は君を取り込むよ。
こんな世界クソくらえだ もともとどうなっても良い。
アレイは色々吹っ切れた。
『似ている』
ルシファーは少し笑うように アレイに語り掛けた。
何が
『私をここに連れて来た彼と。
自分の存在を否定するのに 欲や信念を消し去る事はない。 いや、消したくても諦めきれていないだけだけだ。
契約成立 改めて私はルシファー よろしく。」
僕は 涼宮亜鈴 この世界ではアレイを名乗っている。よろしく。
アレイは、美しき紫色の刀身を持つ剣の束を握った。
その瞬間 剣を支えていた台座は煙になって消え 剣も砂になって崩壊した。
剣が...
『言ったはずだ。 それは私を封印していた媒体に過ぎないと。』
今まで外から響いて来たルシファーの声は、アレイの内側から響いていた。
アレイは堕天使 ルシファーを得た。
『視界があるのはやはり良い。 色の鮮やかさなど、もう800年も前に忘れてしまったから。』
その瞬間突如 アレイの脳内に赤黒い景色が映し出された。
学術資料館が、炎の海に呑み込まれ 高ランクの魔物が大地を踏み荒らす。
悲鳴と狂騒の中 生徒と教員の死体が 転がり
まるで地獄のような 果てしない絶望の一瞬が映し出された。
これは...。
『危機察知という名の預言だ。 私の見る景色がアレイに共有された。』
ルシファーは何かを察したかのように続けた。
『魔王め 私の存在にもう気づいたか。 つくづく鬱陶しい奴だ 天界まで攻撃を仕掛けて来た時代から ずっと。』




