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7 脱走と追放

 アナスタシアを戦場で捕らえてから、カイルはディアナのことを見向きもしなくなった。

 もとよりディアナのことは義務で娶ったにしかすぎないようだったが。

 嫉妬したディアナはアナスタシアを亡きものにしようと、メイドを買収しアナスタシアの食事に毒を盛った。


「なんで死なないのよ!」


 丸一日もあれば身体に毒が回って死に至ると言われて手に入れたものだったのに、アナスタシアはピンピンしている。


 どうにかしてあの女を排除したい。


 そう考えているときに中庭で聞いた話。

 どうやらアナスタシアは好んでこの場所にいるわけではなさそうだった。


 ――陛下にあんなに大事にされているくせに!


 アナスタシアの態度にディアナはさらに嫉妬をしたが、すぐにチャンスだと思い直す。

 あの女を追い出すチャンスだ。



 本当は殺すつもりだった。でも殺すよりも上手くいきそうだ。

 雇った暗殺者にアナスタシアの部屋の鍵を開けさせた。


 ノックもなしに扉が開いて、アナスタシアは驚いた顔をした。


「えっ……だれ?」


 ディアナは深めにローブを被って顔は見せないようにした。


「母国に帰りたいのですよね?」

「えっ!? ええ、帰りたいわ……帰れるの?」

「手足の鍵を外してあげなさい」


 ディアナは雇った暗殺者に指示をする。

 暗殺者も顔がわからないようにフードを深く被っている。


 暗殺者はカチャカチャと手際良くアナスタシアの鎖で繋がれた手足の拘束を外した。


「こんな簡単に外してもらえるなんて!!」

「あなたを逃します。宮殿の裏口に馬を用意しているので……馬は扱えますか?」

「ええ、扱えるわ!! わぁ! 嬉しい!! これでようやくあの鬼畜から逃れることができる! あなた、誰だか知らないけど、本当にありがとう!」


 アナスタシアはディアナの両手を両手で掴んでブンブンと上下に振って感謝の意を表した。


「警備の騎士は眠らせてあります。三十分ほどで目覚めてしまうので、これを着て急いで宮殿を出てください」


 ディアナは身軽に動ける服と顔を隠すためのローブをアナスタシアに渡した。


「わかったわ! 上手く逃げ切れたら、お礼がしたいわ!」


 アナスタシアはその場ですぐに着替えながらディアナに言った。


「お、お礼などいりませんから、早く逃げてください」


 アナスタシアに思いの外喜ばれてしまい、ディアナは拍子抜けした。

 アナスタシアを殺すために毒を盛っていたディアナに、アナスタシアは何度も何度もお礼を言って、部屋を飛び出した。


「ふぅ……お願いだからもう二度と戻って来ないでくださいね……」



     ◇◆◇



 アナスタシアは脱走の協力者の言う通り、宮殿の裏へ急いで、用意してあった馬に跨り急いで駆け出した。


 カイルのことを考えると胸がツキリと痛んだが、正妃を迎えるのであればアナスタシアは捨てられる。それならば、あの場所からは早く逃げ出した方が良い。

 ろくな休みも取れないまま馬を走らせ、木の実や野草などでなんとか飢えを凌ぎ、数日後ようやく国境を越えることができた。


「ここまでくれば大丈夫……」


 アナスタシアは脱走前に忍ばせておいた、装飾品を取り出した。

 カイルに「好きに身につけてくれ」と甘く囁かれながら、渡された装飾品だが、アナスタシアはそれを全部袋に詰め込んで持ち出した。

 上質の物だが、こんなものでは腹は膨れない。

 アナスタシアは細い金属で繋げられたそれをぶちぶちと引きちぎり、宝石をひとつひとつバラバラにした。


 宝石を一つ、町で換金すれば良いお金になる。カイルにたくさん強請っておいて良かった。

 アナスタシアはなんとかそれで食い繋ぎフラベリオス王宮を目指した。




 フラベリオス王宮で父王に謁見を申し出ると案の定、敗戦の責任を取れと廃嫡を言い渡された。

 これで良い。母は幼い頃に亡くなっている。王宮に未練などない。

 フラベリオスの下町で平民として自由気ままに生きていこう。


「アナスタシア、お前を国外に追放する」


 ――えっ……? 廃嫡だけじゃなかったの……?



 もとより王宮は出て行くつもりでひとまとめにしていた鞄を持って馬車に押し込まれた。



     ◇



「アナスタシア様……こちら側はフラベリオス王国となりますので、あちらに向かってお進みください。決してこちら側にお戻りになることはないように……」


 コーディーは苦い顔をしながらアナスタシアにそう告げた。もうアナスタシアのことは殿下とは呼ばない。

 コーディーはカイルに囚われたアナスタシアを最後まで探していてくれたらしい。

 コーディーには感謝している。味方のいなかったフラベリオス王宮でときどきコーディーが手を貸してくれることが嬉しかった。


「分かったわ。コーディー、今までありがとう」

「お力になれず、申し訳ありません」


 最後にそう言って、コーディーは馬車に乗り込み来た道を戻っていった。


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