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22 真相は

「どういうこと?」


 正妃だと思っていたカロリーナは他国と縁談だと言われ近衛兵に連れて行かれた。

 アナスタシアは状況がわからず首を傾げた。



 カイルは再び口元を押さえて、何かを堪えている。


「アナスタシア、私たちはもう少し話をする必要があるようだ」


 上擦ったような声でカイルが言う。


「ええ……」


 アナスタシアも正しく状況を把握したい。



「アンドリュー! ちょっとリュカを頼めるか!」


 アンドリューが駆け寄って、リュカを抱こうと手を伸ばす。


「リュカ様……」

「良いかい? リュカ?」


 カイルがリュカの様子を伺う。


「うん、ぼく、アンドゥーしゅき!」


 リュカはすぐにカイルの身体から手を離し、アンドリューの手を取った。


「アンドゥー、びゅーんってぼくのことたしゅけてくれた。あじがとー、アンドゥーしゅき!」


 リュカがアンドリューの身体にギュッとしがみつく。


「はわわっ……! リュカ様!!」


 アンドリューの瞳は完全にハート型だ。


「……? ひっ……」


 アンドリューがふと寒気を感じてカイルの顔を見る。


「へ……陛下、顔っ、怖い! 怖いですって……」


「ん? パパ?」


 リュカがカイルを見ると、いつも通り穏やかな顔に戻る。


「リュカ? パパのことも好きだよね?」

「うん、パパだいしゅき!」

「よし。アンドリュー、リュカに宮殿内でも案内してやってくれ」

「は、はい」


 カイルは好きに大がついたことで納得したようだ。

 アンドリューはれっきとした護衛騎士なので、アンドリューと一緒ならば安全だろう。

 アナスタシアは仲良く手を繋いで歩く二人を見送った。



「おいで、アナスタシア! 落ち着ける場所で話をしよう」

「あっ、ちょっと……!」


 カイルは強引にアナスタシアの手を引いて宮殿の奥を目指してズンズン歩く。


 どこへ行くのか。


 辿り着いたのは宮殿の最奥の部屋。カイルの部屋だ。

 以前、アナスタシアがリュートリム宮殿で捕えられていたときは、貴賓室で生活しており、カイルの部屋には来たことがなかった。


 カイルが扉を開けて中に入ると、アナスタシアは開いた扉の外から、これが皇帝の部屋かと感慨深く中を眺めた。

 カイルの部屋は一面を大きな本棚が占めており、難しそうな書物が並んでいる。いつも飄々としているカイルが若くして帝位についた時の努力の一部を見た気がした。


「何してる? 早くおいで」


 カイルがグイッと手を引いて、アナスタシアは部屋の中へ入る。そしてすぐにカイルは部屋の扉を閉めて、アナスタシアを抱き寄せた。


「えっ、ちょっ……んっ……」

「はぁ、我慢できない」


 カイルはアナスタシアに啄むように何度も口付ける。


「ちょっと!」


 アナスタシアはカイルの胸を押してなんとか離れた。


「話をする必要があるって言ったじゃない!!」

「あっ、ごめん……つい……」

「ついじゃないわよ!! 大体! さっきからずっとニヤニヤ笑いを堪えるような顔をして……! 馬鹿にしてるの!?」


 アナスタシアは気がついていた。カイルが手で顔を押さえていたのは、笑いを堪えていたからだ。

 アナスタシアは馬鹿にされているかと思い、腹が立った。


「そんなことあるわけないじゃないか! 私はただ、嬉しくて叫び出しそうな思いを堪えていたんだ」

「はあ?」


 カイルが口元を押さえていたのは嬉しくてニヤケそうになる顔を隠すためだったらしい。


「アナスタシア、どう勘違いをしていたのか知らないけどさ、さっきハッキリ言っていただろう? ()()()()をお姉様と共有するなんて無理って……」

「あっ…………」


 あの場合の好きな人に当てはまる人物はカイルしかいない。

 自分自身の気持ちには薄々気がついてはいたが、無意識に口に出してしまっていた。


「ねぇ、前に私のこと、まっぴらだって言ってたけど、好きになってくれたってことで良い?」


 カイルがアナスタシアの腕を引いて、耳元で話す。

 一度意識をしてしまうと、もうだめだ。

 心臓がドキドキと高鳴ってうるさい。顔だけじゃなく全身が赤に染まってしまいそうだ。


「ねぇ、アナスタシア……」


 耳元で低く響く甘い声で囁かれる。


 胸が痛い。だめだ、心臓がもたない。


「そ、それより! 私も聞きたいことがあるの!」

「ふっ……いいよ。座ろうか」


 アナスタシアは話をはぐらかした。

 カイルはソファへ案内し、アナスタシアは腰掛ける。


 見ていたかのようなタイミングで侍従がやってきて二人の前にお茶を用意して退室していった。



「一番聞きたいのはカロリーナ王女との関係?」

「う、うん……」


 アナスタシアは様子を伺うようにカイルの顔をチラチラと覗き込む。


「三年前、アナスタシアがこの宮殿から出て、フラベリオスへ戻ったと聞いたとき、先の戦の賠償にフラベリオス王国()()()()をリュートリム帝国の皇妃にと求めたんだ。そして、やってきたのが、()()()()のカロリーナ王女だった」



     ◇◆◇



 アナスタシアがやっと来たかと思ったら全く別の女がやってきた。


「アナスタシアは先の戦の責任を取り、廃嫡、国外追放となりました。わたくしが代わりに帝国へ嫁ぎます。どうぞよしなに」


 色が白く赤髪にヘーゼルの瞳で、色だけはアナスタシアと同じだが、この女のカイルを見る目線も妾妃たちと変わらない。


「私が望んだのはアナスタシアただ一人だ。別の女など求めていない。国へ帰ってくれ」


 カイルはカロリーナをすぐに追い出したが、カロリーナはアナスタシアの名前を聞いて、アナスタシアよりも自分の方が優れているのに何故アナスタシアを求める、と腹を立てた。

 そして、カロリーナは自分こそ帝国の皇妃に相応しいと定期的にリュートリム宮殿にやってくるようになった。



     ◇◆◇



 アナスタシアが、出産直前に代筆屋で聞いた、フラベリオス王国の第五王女カロリーナが正妃にとやってきたという話は、正しくは──


 皇帝は第六王女アナスタシアを求めたが、勝手に第五王女カロリーナがやってきて、追い返された。というものだった。



「君の姉はしつこかった。何度追い返しても、私よりアナスタシアが良いなんて許せないと言って、再びやってきて……」


 カロリーナは見目もよく、皇帝という身分のカイルにも執着していたのかもしれないが、それ以上にアナスタシアを貶めることにも必死になっていたようだ。



 フラベリオス王宮にいた頃は、カロリーナとアナスタシアの年齢は一つしか違わないからと共に教育を受けることも多かった。

 アナスタシアが良い成績を残した日は、決まってカロリーナから虐待を受けた。稽古と称して、複数人から虐待されたときもそうだった。

 他の兄姉たちよりも明らかに目の色を変えてアナスタシアを虐めていた。

 アナスタシアは一番年下で勝てそうな相手なのに、反撃し、やり返してきたりするから余計にカロリーナは必死になってアナスタシアを虐めたのだろう。



「でも、もうここには来られないだろうから、安心してくれ」

「そういうことだったの……」


 アナスタシアはホッと胸を撫で下ろす。


「一体どう間違えたら、カロリーナ王女が私の正妃になるんだ……」


 カイルは不快そうな顔をした。


「二年前くらいにフラベリオスの第五王女が正妃にとこの国へやってきたことを聞いたことがあって、コーディーに……コーデルハルト王子にそのことを聞いたら、お姉様は皇帝から深い寵愛を受けているって言われて……」

「ふーん。コーデルハルト王子ね……。私たちのことを仲違いさせて、アナスタシアをサイオスへ連れて行きやすくしたかったんだろうね」


 コーデルハルトに言われた話はそれだけではない。


「もう一つ……」

「ん?」

「フラベリオスは帝国の手に落ちるから、皇帝が次の国王に指名した者以外のフラベリオス王族は粛清されるって言われて……」

「うーん。それは合っているかな……」

「えっ……!?」


 アナスタシアはギクリとする。


「あー、粛清と言っても処刑するつもりはない。一年前にフラベリオス軍が他国に攻め入った際、かなり反撃され退陣も難しいほど悲惨な状況になったことがあってね。帝国の属国になることを条件として、退陣の手助けに帝国軍を出したんだ」


 フラベリオスは援軍を出しても状況を変えることができず、逆にそのままフラベリオスが侵略される勢いだった。全軍壊滅、国を侵略されるくらいならと、フラベリオス国王はやむを得ず帝国の属国になることを受け入れた。

 そして最近その条約がまとまりつつあるらしい。


「現国王はリュートリムの見張りの下、隠居してもらう。そして次期国王には、以前敗戦の責任を取らされ、廃嫡になった第二王子を推している。今、両国の議会でも話し合いがされているが、おそらく問題なく通るだろう」

「ライアンお兄様が……?」


 第二王子のライアンは第一王子から特に疎まれ、罠に嵌められるように負け戦に出されて、敗戦の責任を取り廃嫡となった。

 アナスタシアとは歳の離れた兄で、アナスタシアの兄姉の中では唯一アナスタシアのことを可愛がってくれた兄だった。だが、アナスタシアが成人する前に廃嫡となり王宮を追い出され、長い間平民として暮らしていた。


 ライアンは今のフラベリオス王国の在り方に疑問を持っており、いつかクーデターを起こそうと、密かに平民だけでなく、多くの貴族を味方に付けていた。

 軍事ばかりに力を入れ、疲弊していく国を見ない、現フラベリオス国王に疑問を持つ者は多かった。

 リュートリムは今回そこに目をつけ、次の王位は第二王子のライアンに白羽の矢を立てた、ということのようだ。


「第二王子のライアン殿以外の、王子と王女はそれぞれフラベリオスまで届かないところへ婿へいくか、嫁いでもらう予定でね。すでに結婚している者たちも、我が国の同盟国に引き取ってもらう予定をしている」


 皆、処刑されるよりはマシとそれを受け入れているようだ。


「アナスタシアを虐げてきたような奴らは本当は全員処刑してやりたかったが、やはり帝国のトップが私情で動くわけにはいかなくてね」


 カイルは今回の王位に誰をつかせるかについては、徹底的に調査を行い。そこでアナスタシアが兄姉から虐げられていた事実を知ったらしい。


 カイルは申し訳なさそうにするが、フラベリオス王族を抜けただけで十分清々していたアナスタシアは、自身の兄弟の処刑など求めていなかった。

 今回、アナスタシアはライアンと共にフラベリオス王族に戻ったわけだが、他の兄姉たちはバラバラとなり、手の届かないところまで飛ばされると聞いて十分だと思った。


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