次の一手
競合会社が交流機能の開発へ全力を注ぎ始めた頃。
ARC本社。
会議室。
悠はホワイトボードの前に立っていた。
白石。
九条。
西園寺。
橘。
佐伯。
高橋。
いつものメンバーが揃っている。
悠は全員を見る。
「競合が動き始めた。」
西園寺。
「やっぱり。」
「交流機能を?」
「ああ。」
「最優先で開発してるらしい。」
白石が少し不安そうに聞く。
「どれくらい?」
「一か月。」
「早っ。」
九条。
「普通。」
白石。
「九条君基準じゃなくて。」
「普通。」
「本当に?」
「たぶん。」
悠。
「そこはどうでもいい。」
少しだけ笑いが起きた。
悠はホワイトボードへ向き直る。
「問題は一か月後。」
「向こうにも。」
「つながり。」
「メッセージ。」
「更新一覧。」
「似たような機能が全部揃うってことだ。」
西園寺。
「だったら。」
「こっちも。」
「何か追加するんですか?」
悠。
「ああ。」
ホワイトボードへ一つの言葉を書く。
**コミュニティ**
白石。
「前に後回しにしたやつ。」
「そう。」
九条。
「やる?」
「やる。」
「いつ?」
悠は笑った。
「今。」
九条。
「了解。」
白石。
「早いって。」
◇
西園寺がホワイトボードを見る。
「でもコミュニティって具体的には何をするんです?」
悠は少し考える。
「今のARCBOOKは知ってる人と繋がる。」
「学校の友達。」
「会社の同僚。」
「昔の知り合い。」
「そういう人たちだ。」
西園寺。
「はい。」
「でも。」
悠は一本の線を引く。
**知っている人**
そして。
その隣。
**知らない人**
「次は。」
「知らない人と繋がる。」
白石。
「知らない人?」
「ああ。」
「例えば。」
「白石。」
「好きなものは?」
「デザイン。」
「じゃあ。」
「全国にデザインが好きな人間が一万人いるとする。」
「うん。」
「今までその一万人はお互いを知らない。」
白石。
「まあ。」
「普通は会わないよね。」
「でも。」
悠はその人たちを丸で囲む。
**デザイン好き**
「ARCBOOKの中なら一か所に集められる。」
白石が少し考える。
「あ……。」
悠は続ける。
「映画。」
「音楽。」
「野球。」
「ゲーム。」
「料理。」
「旅行。」
「大学。」
「資格。」
「何でもいい。」
「同じものが好きな人が集まる場所を作る。」
西園寺。
「そこで話せる?」
「ああ。」
「情報を交換する。」
「質問する。」
「おすすめを教える。」
「仲良くなったら。」
「そこから。」
「新しくつながる。」
白石。
「つまり。」
「友達がいなくてもARCBOOKの中で友達を作れる。」
悠は笑った。
「そういうこと。」
◇
会議室が少し静かになる。
西園寺がホワイトボードを見る。
**知っている人。**
から。
**知らない人。**
へ。
「これ。」
「かなりすごいことになりそう」
悠。
「ああ。」
「今までは現実の人間関係をARCBOOKに持ってきただけだ。」
「でも。」
「コミュニティが入れば。」
「ARCBOOKの中から新しい人間関係が生まれる。」
白石。
「ARCBOOKの中だけの友達。」
「ああ。」
西園寺。
「じゃあ。」
「もっと離れにくくなる。」
悠は頷いた。
「その通り。」
九条はもう仕様を書き始めていた。
「作成。」
「参加。」
「退会。」
「管理者。」
「掲示板。」
高橋がすぐに口を挟む。
「管理者権限は慎重に決めましょう。」
「利用者同士のトラブルも確実に増えます。」
佐伯。
「問い合わせ対応も。」
「増員が必要ですね。」
橘。
「……。」
全員が橘を見る。
橘。
「何ですか。」
悠。
「いや。」
「予算。」
橘が疲れた顔で悠を見ながら。
「先に言っておきます。」
「無限には出ません。」
悠。
「まだ何も言ってない。」
「社長は。」
「言う前の顔で分かります。」
西園寺が吹き出した。
◇
一方。
競合会社。
開発室。
「メッセージ動きました!」
「負荷試験!」
「まだです!」
「つながり機能は?」
「八割!」
「更新一覧。」
「明日テストに入ります!」
技術者たちが必死にARCBOOKを追っていた。
一か月。
それだけを目標に走っていた。
ARCBOOKと同じ場所へたどり着くために。
◇
ARC本社。
九条がホワイトボードいっぱいに仕様を書き終える。
悠。
「どれくらい?」
九条。
「三週間。」
白石。
「向こうより早い。」
九条。
「こっちは基礎あるから。」
悠は頷いた。
「じゃあ。」
「三週間。」
「頼む。」
九条。
「うん。」
西園寺が競合の資料を見る。
「向こうが交流機能を完成させる頃には。」
白石。
「こっちはコミュニティ。」
悠。
「ああ。」
「向こうもすぐ真似するだろう。」
西園寺。
「また追いかけっこですね。」
悠は首を振った。
「違う。」
「ここから少しずつ追いかけるだけじゃ追いつけなくなる。」
西園寺。
「どういう意味です?」
悠は答えなかった。
競合はARCBOOKの機能を見て同じものを作る。
その間にARCBOOKは次へ進む。
そして。
新しい機能の中で新しい人間関係がまた生まれる。
機能ならコピーできる。
だが。
そこで過ごした時間までコピーすることはできない。
悠は九条を見る。
「始めよう。」
九条。
「うん。」
競合がARCBOOKに追いつくための一か月。
ARCBOOKにとってはさらに先へ進むための。
一か月だった。
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