変わり始めた日常
交流機能の公開から。一週間。
ARCBOOKは静かに変わり始めていた。
朝。
学校へ向かう前。
昼休み。
仕事の休憩時間。
帰宅した夜。
利用者たちは一日に何度もARCBOOKを開いていた。
日記を書くためではない。
友達からメッセージが届く。
友達が新しい記事を書く。
コメントが返ってくる。
そのたびにまた開くまた返事を書く。
ARCBOOKはいつの間にか「日記を書く場所」から「毎日開く場所」へ変わり始めていた。
◇
高校。
昼休み。
「昨日。」
「メッセージ見た?」
「見た見た。」
「宿題ありがとう。」
「今日。」
「部活ある?」
「ARCBOOK送っとく。」
「了解!」
携帯電話は制服のポケットに入ったまま。
二人は笑いながら教室へ戻っていった。
◇
大学。
サークル部室。
「昨日。」
「旅行の写真載せた。」
「もう見た!」
「コメントもした。」
「ありがとう!」
「次は夏祭りも載せよう。」
「楽しみにしてる。」
自然と会話の中心にARCBOOKがあった。
◇
仕事帰り。
電車の中。
一人の会社員がARCBOOKを開く。
『今日も疲れた。』
短い日記を書く。
数分後。
画面に表示される。
『お疲れ。』
『週末飲みに行こう。』
思わず笑う。
返信を書く。
また返事が届く。
そのまま。
会話は続いていく。
◇
ARC本社。
西園寺が笑顔で会議室へ入ってきた。
「社長。」
「もう。」
「隠せません。」
悠。
「何が?」
西園寺は資料を机へ置く。
「社内テストでは。」
「伸びることは分かっていました。」
「でも。」
「現実はそれ以上でした。」
悠は資料を見る。
一日あたりの訪問回数。
約二・一倍。
記事投稿数。
約四二%増。
コメント数。
約六四%増。
つながり成立数。
約百五十万件。
メッセージ送信数。
約四百三十万通。
西園寺は別の資料をめくる。
「それより驚いたのはこっちです。」
悠。
「何だ?」
「平均滞在時間です。」
「今まで。」
「一回十五分前後だった利用者が三十分近く利用しています。」
「しかも一日に何度も戻ってきています。」
悠は静かに頷く。
「つまり。」
西園寺は笑った。
**「帰ってきてるんです。」**
会議室が静かになる。
白石が資料を見つめる。
「記事を書くためじゃない。」
「うん。」
「友達に会うため。」
悠が答えた。
「それがSNSだ。」
(相棒。)
『はい。』
『利用目的が変化しました。』
『利用者は情報ではなく人を目的に訪れています。』
悠は小さく笑った。
「利用者は俺たちの予想以上だったな。」
◇
一方。
競合会社。
役員会議。
担当者が資料を配る。
「ARCBOOKです。」
社長。
「交流機能か。」
「はい。」
「どうだ?」
担当者。
「利用者数は増加していますが、それ以上大きな動きは見当たりません。」
役員の一人が肩をすくめた。
「ほら。」
「やっぱり。」
「新機能は最初だけですよ。」
別の役員も笑う。
「友達機能なんて。」
「携帯電話がありますしメールもあります。」
社長は資料を閉じた。
「まだ判断するには早い。」
「もう一週間様子を見よう。」
誰もまだこの小さな変化が市場そのものを変えるとは思っていなかった。
◇
ARC本社。
西園寺が最後の資料を悠へ渡す。
「社長。」
「もう一つ面白い数字があります。」
「何だ?」
西園寺は新規登録者アンケートを開いた。
第一位。
**『友達に誘われたから。』**
二位。
芸能人のブログが見たい。
三位。
広告を見た。
白石が思わず声を上げた。
「広告より上?」
「はい。」
「今週初めて逆転しました。」
悠はその数字を見つめる。
そして静かに笑った。
(相棒。)
『始まりました。』
(ああ。)
AIは穏やかな声で答えた。
**『人が、人を呼び始めています。』**
ご覧いただきありがとうございます!
「面白かった」「続きが気になる!」と思っていただけたら、ページ下部の【★★★★★】評価やブックマーク登録をしていただけると、執筆の大きな励みになります!




