次のステージ
翌日。
ARC本社。
会議室。
悠。
白石。
九条。
西園寺。
佐伯。
橘。
高橋。
また全員が揃っていた。
昨日競合に月間新規登録者数で初めて抜かれた。
当然競合対策の会議。
誰もがそう思っていた。
悠はホワイトボードの前に立つ。
「昨日、次のステージへ行くって言ったよな。」
西園寺。
「はい。」
「広告。」
「増やすんですか?」
「違う。」
「キャンペーン?」
「違う。」
白石。
「じゃあ何?」
悠はホワイトボードに二つの言葉を書いた。
**ブログ**
そして。
その隣。
**SNS**
全員。
「……?」
西園寺が眉を寄せる。
「えす……?」
「SNS。」
「ソーシャル・ネットワーキング・サービス。」
当然。
誰も。
ピンと来ていない。
悠は笑った。
「まあ。」
「知らなくていい。」
「まだ。」
悠は。
**ブログ**
を指差した。
「今のARCBOOKは。」
「ブログだ。」
「誰かが記事を書く。」
「誰かが読む。」
「コメントする。」
「気に入ったら。」
「お気に入りに入れる。」
全員が頷く。
悠はその下に書いた。
**記事 → 人**
「ブログは。」
「記事が中心だ。」
「面白い記事がある。」
「だから。」
「人が集まる。」
白石。
「うん。」
悠は次にSNSの下へ書いた。
**人 ↔ 人**
「こっちは。」
「人が中心になる。」
西園寺。
「人?」
「ああ。」
「人がいるから。」
「人が集まる。」
少し静かになった。
悠は続ける。
「例えば。」
「白石がARCBOOKを使ってる。」
「うん。」
「西園寺も使ってる。」
「使ってます。」
「でも。」
「今のARCBOOKでは。」
「二人はほとんど繋がってない。」
西園寺。
「白石さんの記事を。」
「お気に入りに入れるくらいですね。」
「そう。」
悠は二人の名前を線で繋いだ。
「これからは。」
「人と人を。」
「直接繋ぐ。」
白石。
「友達みたいに?」
悠が笑う。
「そう。」
そしてホワイトボードへ書いていく。
**つながり**
**プロフィール**
**更新一覧**
**メッセージ**
**コミュニティ**
「友達になる。」
「友達が記事を更新したら。」
「すぐ分かる。」
「ARCBOOKの中で。」
「直接メッセージを送れる。」
「自分のプロフィールを作る。」
「同じ趣味の人たちで。」
「集まる場所も作る。」
白石が文字を見る。
「何となく言いたいことは分かるけど......。」
九条。
「ロジックが違う。」
悠。
「そうだ、似てるようで根本が違う。」
◇
白石がもう一度ホワイトボードを見る。
「でも。」
「今と何が一番違うの?」
悠。
「来る理由。」
「理由?」
悠はARCBOOKの画面を開く。
「今は面白い記事があるからARCBOOKを開く。」
そして。
**人 ↔ 人**
を指差す。
「これからは友達がいるからARCBOOKを開く。」
白石の表情が変わった。
「友達が日記を書いた。」
「メッセージが来た。」
「好きな人がいる。」
「同じ趣味の人と話したい。」
「だからまた来る。」
西園寺。
「……なるほどな。」
悠。
「ああ。」
「ブログは情報が人を集める。」
「SNSは人が人を集める。」
佐伯がゆっくり頷いた。
「なるほど。」
白石もようやく笑った。
「分かった。」
◇
西園寺が。
少し考える。
「でも。」
「だったら最初からやればよかったんじゃないですか?」
悠は首を振った。
「無理だ。」
「なぜ?」
「人がいない。」
「いてもまだ使いこなせない。」
白石。
「あ。」
「友達機能を作っても友達がいない。」
「コミュニティを作っても人がいない。」
「メッセージを作っても送る相手がいない。」
西園寺。
「……人がいたとしても、いきなりは送りづらいな。」
九条。
「すぐ閉じる。」
悠。
「そういうこと。」
少し笑いが起きた。
悠はARCBOOKの数字を表示する。
登録者。
投稿数。
コメント数。
お気に入り。
継続率。
「でも。」
「今はもう人がいる。」
「しかもコメントやお気に入りを通して利用者同士が自然に交流を始めてる。」
白石。
「だから今なんだ。」
悠。
「ああ。」
「ようやく次へ進める。」
◇
悠はホワイトボードへもう一つ書いた。
**人が増えるほど、価値が上がる。**
西園寺。
「これは?」
「例えば。」
悠は言う。
「電話。」
「世界に。」
「自分しか持ってなかったら?」
白石。
「意味ない。」
「二人なら?」
「一人と話せる。」
「百万人なら?」
「たくさんの人と繋がれる。」
悠が頷く。
「SNSも同じだ。」
「人が増えるほど。」
「繋がれる相手が増える。」
「だから。」
「サービスそのものの価値が上がっていく。」
西園寺がARCBOOKの数字を見る。
「つまり。」
「ARCBOOKにはもう何百万人もの人がいる。」
「ああ。」
「そこへ交流機能を載せる。」
白石。
「……強い。」
九条。
「うん。」
悠。
「でも。」
「ここからが一番重要だ。」
全員が悠を見る。
悠は競合の資料を指差した。
「向こうも。」
「必ず真似する。」
白石。
「また?」
「ああ。」
「ここまでARCBOOKを研究してきた会社だ。」
「俺たちが交流機能を付ければすぐに追ってくる。」
西園寺。
「だったら。」
「また追いつかれるんじゃ?」
悠は首を振った。
「今度はそう簡単じゃない。」
◇
悠は白石を見る。
「白石。」
「友達が十人ARCBOOKにいるとする。」
「うん。」
「三か月後。」
「別の会社がARCBOOKと全く同じ交流機能を作った。」
「そっちに移る?」
白石は少し考えた。
「……行かない。」
「なんで?」
「だって。」
「友達ARCBOOKにいるし。」
悠が笑った。
「それだ。」
西園寺の表情が変わる。
「機能は真似できる。」
「デザインも仕組みも時間をかければ似たものを作れる。」
悠はホワイトボードに大きく書いた。
**友達はコピーできない。**
会議室が静かになった。
「交流が始まった瞬間。」
「利用者は機能だけでサービスを選ばなくなる。」
「誰がいるかで選ぶようになる。」
西園寺。
「友達がARCBOOKにいる。」
「だからARCBOOKを使う。」
「ああ。」
白石。
「その友達にもまた友達がいる。」
悠。
「ああ。」
九条。
「増える。」
悠が頷いた。
「だから。」
「ここからは完全にスピード勝負だ。」
さっきまでとは会議室の空気が変わった。
「向こうが三か月後に同じものを作っても。」
「その三か月でARCBOOKの中に何百万という繋がりができていたら。」
「もう同じ条件じゃない。」
西園寺。
「向こうにも同じ機能はある。」
「でも。」
「友達がいない。」
「知り合いもいない。」
「コミュニティにも人がいない。」
悠。
「じゃあ何のためにそっちへ行く?」
誰も答えなかった。
答えは分かっていた。
白石が小さく言う。
「逆に友達がARCBOOKにいたら新しく始める人もARCBOOKに来る。」
「そういうことだ。」
「最初の差が次の差を作る。」
「その差がさらに次の人を呼ぶ。」
西園寺が競合の資料を見る。
「……これ。」
「出遅れたら。」
悠。
「痛い。」
「どれくらいかって?」
悠は少し笑った。
「致命傷になる。」
西園寺は黙った。
◇
九条が立ち上がった。
ホワイトボードを見る。
「仕様。」
悠。
「もうかよ。」
「決める。」
「今から?」
九条が悠を見る。
「スピード勝負なんだろ。」
悠は一瞬黙った。
そして笑った。
「ああ。」
白石も立ち上がる。
「画面。」
「すぐ作る。」
西園寺。
「俺も動きます。」
佐伯。
「運営側も準備します。」
高橋。
「私も規約をすぐ見直します。」
競合はきっとまた追ってくる。
それでいい。
今度は追いつくだけでは足りない。
悠はホワイトボードを見る。
**ブログ――情報が人を集める。**
**SNS――人が人を集める。**
そしてその下。
**友達はコピーできない。**
悠は皆を見る。
「よし。」
「始めよう。」
**ARCBOOKを。**
**SNSにする。**
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