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二強

2002年。


秋。


ARCBOOKを研究し続けていた。


一つの会社が新しいブログサービスを公開した。


悠たちも当然確認した。



ARC本社。


会議室。


大型モニターに。


新しいサービスが映っている。


悠。


白石。


九条。


西園寺。


佐伯。


橘。


全員が黙って画面を見ていた。


これまでの競合とは明らかに違った。


余計な機能はない。


画面はシンプル。


日記を書く。


写真を載せる。


コメントする。


お気に入りに入れる。


人気の記事を探す。


初めて使う人間でも。


迷わない。


白石が画面を操作する。


「……使いやすい。」


西園寺が白石を見る。


「それ褒めてます?」


「褒めてない。」


白石は別の画面を開く。


「でも。」


「使いやすい。」


九条も画面を見る。


「軽い。」


悠。


「九条まで褒めるなよ。」


「事実。」


「……そうだな。」


悠もしばらく触ってみる。


似ている。


ARCBOOKに。


かなり似ている。


だが。


単純なコピーではない。


デザインは違う。


名称も違う。


操作方法も。


少しずつ違う。


それでも。


なぜ。


この機能が必要なのか。


なぜ。


ここに置かれているのか。


それを。


理解して作っている。


悠は少し笑った。


「やるな。」


白石が勢いよく振り返る。


「社長!」


「何?」


「ずるい!」


「……何が?」


白石は画面を指差す。


「これ!」


「ほとんど。」


「私たちの真似じゃない!」


「まあ。」


「かなり研究されてるな。」


「訴えられないんですか?」


橘が資料を見る。


「難しいですね。」


白石。


「ええ……。」


「商標。」


「著作権。」


「契約。」


「確認しましたが。」


橘は淡々と続ける。


「かなり慎重に避けています。」


「ARCBOOKと考え方は似ています。」


「しかし法的には別のサービスです。」


白石は不満そうに画面を見る。


「ずるい……。」


悠は少し笑った。


「それが市場競争だ。」


「でも、ずるい。」


「分かった分かった。」


西園寺が苦笑する。


「相手もプロってことですね。」


悠は頷いた。


「ああ。」


今回ばかりは笑って放っておける相手ではなかった。



そして。


相手の強さはサービスだけではなかった。


公開から一か月。


登録者。


三十万人。


二か月。


七十万人。


三か月。


百二十万人。


急速に。


利用者を増やしていった。


理由の一つは。


圧倒的な宣伝だった。


テレビCM。


新聞。


雑誌。


ラジオ。


駅。


電車。


街頭広告。


そして。


人気芸能人。


どこを見ても競合サービスの名前が目に入る。


ARC本社。


西園寺が一枚の資料を机へ置いた。


「広告費。」


「分かりました。」


悠。


「いくら?」


「推定ですが。」


西園寺が数字を指差す。


**十億円規模。**


白石。


「……十億?」


悠も少し驚いた。


ARCBOOK。


公開時の広告予算。


三億円。


その三倍以上。


「どこから。」


「そんな金が出た?」


佐伯が別の資料を出す。


「資金調達です。」


「投資?」


「はい。」


「金融機関。」


「事業会社からもかなりの額を集めています。」


悠は資料を見る。


ARCBOOKが百万人という数字でブログ市場の存在を証明した。


その市場を見て金が集まり。


その金でARCBOOKを追ってくる。


「なるほどな。」


西園寺。


「何がです?」


「俺たちが市場を作って。」


「向こうがその市場を使って金を集めた。」


「感心してる場合ですか?」


「いや。」


「上手いなと思って。」


「敵ですよ?」


「敵でも上手いものは上手いだろ。」


西園寺はため息をついた。



季節は冬へ。


ARCBOOKも成長を続けた。


だが。


競合も止まらない。


他にも多くのブログサービスが存在していた。


しかし。


利用者数。


知名度。


記事数。


話題性。


どれを見ても。


ARCBOOKとその競合だけが大きく抜け始めていた。


雑誌にはこんな見出しまで載った。


**ブログ二強時代。**


ARC本社。


白石が雑誌を机へ置く。


ARCBOOK。


その隣に競合サービス。


「……気に入らない。」


悠。


「何が?」


「並んでる。」


「仕方ないだろ。」


「ARCBOOKの方が先なのに。」


「それが市場競争――」


白石が。


睨む。


悠は。


言葉を止めた。


「……何でもない。」



そして年が明けた。


2003年。


ARC本社。


役員会議。


西園寺が資料を配る。


いつもの軽い表情ではない。


悠は数字を見る。


ARCBOOK。


総登録者数。


一位。


記事数。


一位。


利用者数。


一位。


まだARCBOOKが上だった。


だが。


一つだけ。


逆転している数字があった。


**月間新規登録者数。**


白石が気付く。


「……え。」


九条も数字を見る。


「負けてる。」


会議室から笑いが消えた。


西園寺が口を開く。


「先月。」


「新規登録者数で。」


「初めて。」


「向こうに抜かれました。」


白石。


「広告のせいじゃないんですか?」


「もちろん。」


「広告の影響は大きいです。」


西園寺は次の資料を出す。


「でも。」


「それだけじゃない。」


佐伯。


「継続率も。」


「高いです。」


九条。


「システムの安定性も悪くない。」


白石が九条を見る。


「九条君まで。」


「事実。」


橘も資料を見る。


「資金面でも。」


「まだ余裕があります。」


「追加出資の話も進んでいるようです。」


誰もすぐには口を開かなかった。


これまでの競合とは違う。


サービスがいい。


運営もいい。


資金もある。


そして利用者も増えている。


本物だった。


西園寺が悠を見る。


「社長。」


「どうします?」


全員の視線が悠へ集まった。


悠は資料を見る。


(相棒。)


『はい。』


(どう見る。)


短い沈黙。


AIが答える。


『優秀です。』


悠の眉がわずかに上がる。


(お前がそこまで言うか。)


『はい。』


『ブログサービスとして非常によくできています。』


悠はもう一度競合の数字を見る。


(じゃあ。)


(どうする。)


AIはARCBOOKのデータを確認する。


登録者数。


投稿数。


コメント。


お気に入り。


継続率。


利用者同士の接触。


そして。


答えた。


『問題ありません。』


(何?)


『こちらも。』


少し間。


『次のフェーズへ移行する準備が。』


『整っています。』


悠の口元が。


ゆっくり。


上がった。


「……そうか。」


西園寺が悠を見る。


「社長?」


白石も不思議そうに悠を見る。


さっきまで競合の数字を見ていた男が突然笑った。


「何です?」


「何か思いついたんですか?」


悠は競合の資料を静かに閉じた。


そして。


皆を見る。


「こっちも。」


「ようやく準備が整った。」


西園寺。


「……準備?」


悠は笑った。


「次のステージへ行くぞ。」

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