二強
2002年。
秋。
ARCBOOKを研究し続けていた。
一つの会社が新しいブログサービスを公開した。
悠たちも当然確認した。
◇
ARC本社。
会議室。
大型モニターに。
新しいサービスが映っている。
悠。
白石。
九条。
西園寺。
佐伯。
橘。
全員が黙って画面を見ていた。
これまでの競合とは明らかに違った。
余計な機能はない。
画面はシンプル。
日記を書く。
写真を載せる。
コメントする。
お気に入りに入れる。
人気の記事を探す。
初めて使う人間でも。
迷わない。
白石が画面を操作する。
「……使いやすい。」
西園寺が白石を見る。
「それ褒めてます?」
「褒めてない。」
白石は別の画面を開く。
「でも。」
「使いやすい。」
九条も画面を見る。
「軽い。」
悠。
「九条まで褒めるなよ。」
「事実。」
「……そうだな。」
悠もしばらく触ってみる。
似ている。
ARCBOOKに。
かなり似ている。
だが。
単純なコピーではない。
デザインは違う。
名称も違う。
操作方法も。
少しずつ違う。
それでも。
なぜ。
この機能が必要なのか。
なぜ。
ここに置かれているのか。
それを。
理解して作っている。
悠は少し笑った。
「やるな。」
白石が勢いよく振り返る。
「社長!」
「何?」
「ずるい!」
「……何が?」
白石は画面を指差す。
「これ!」
「ほとんど。」
「私たちの真似じゃない!」
「まあ。」
「かなり研究されてるな。」
「訴えられないんですか?」
橘が資料を見る。
「難しいですね。」
白石。
「ええ……。」
「商標。」
「著作権。」
「契約。」
「確認しましたが。」
橘は淡々と続ける。
「かなり慎重に避けています。」
「ARCBOOKと考え方は似ています。」
「しかし法的には別のサービスです。」
白石は不満そうに画面を見る。
「ずるい……。」
悠は少し笑った。
「それが市場競争だ。」
「でも、ずるい。」
「分かった分かった。」
西園寺が苦笑する。
「相手もプロってことですね。」
悠は頷いた。
「ああ。」
今回ばかりは笑って放っておける相手ではなかった。
◇
そして。
相手の強さはサービスだけではなかった。
公開から一か月。
登録者。
三十万人。
二か月。
七十万人。
三か月。
百二十万人。
急速に。
利用者を増やしていった。
理由の一つは。
圧倒的な宣伝だった。
テレビCM。
新聞。
雑誌。
ラジオ。
駅。
電車。
街頭広告。
そして。
人気芸能人。
どこを見ても競合サービスの名前が目に入る。
ARC本社。
西園寺が一枚の資料を机へ置いた。
「広告費。」
「分かりました。」
悠。
「いくら?」
「推定ですが。」
西園寺が数字を指差す。
**十億円規模。**
白石。
「……十億?」
悠も少し驚いた。
ARCBOOK。
公開時の広告予算。
三億円。
その三倍以上。
「どこから。」
「そんな金が出た?」
佐伯が別の資料を出す。
「資金調達です。」
「投資?」
「はい。」
「金融機関。」
「事業会社からもかなりの額を集めています。」
悠は資料を見る。
ARCBOOKが百万人という数字でブログ市場の存在を証明した。
その市場を見て金が集まり。
その金でARCBOOKを追ってくる。
「なるほどな。」
西園寺。
「何がです?」
「俺たちが市場を作って。」
「向こうがその市場を使って金を集めた。」
「感心してる場合ですか?」
「いや。」
「上手いなと思って。」
「敵ですよ?」
「敵でも上手いものは上手いだろ。」
西園寺はため息をついた。
◇
季節は冬へ。
ARCBOOKも成長を続けた。
だが。
競合も止まらない。
他にも多くのブログサービスが存在していた。
しかし。
利用者数。
知名度。
記事数。
話題性。
どれを見ても。
ARCBOOKとその競合だけが大きく抜け始めていた。
雑誌にはこんな見出しまで載った。
**ブログ二強時代。**
ARC本社。
白石が雑誌を机へ置く。
ARCBOOK。
その隣に競合サービス。
「……気に入らない。」
悠。
「何が?」
「並んでる。」
「仕方ないだろ。」
「ARCBOOKの方が先なのに。」
「それが市場競争――」
白石が。
睨む。
悠は。
言葉を止めた。
「……何でもない。」
◇
そして年が明けた。
2003年。
ARC本社。
役員会議。
西園寺が資料を配る。
いつもの軽い表情ではない。
悠は数字を見る。
ARCBOOK。
総登録者数。
一位。
記事数。
一位。
利用者数。
一位。
まだARCBOOKが上だった。
だが。
一つだけ。
逆転している数字があった。
**月間新規登録者数。**
白石が気付く。
「……え。」
九条も数字を見る。
「負けてる。」
会議室から笑いが消えた。
西園寺が口を開く。
「先月。」
「新規登録者数で。」
「初めて。」
「向こうに抜かれました。」
白石。
「広告のせいじゃないんですか?」
「もちろん。」
「広告の影響は大きいです。」
西園寺は次の資料を出す。
「でも。」
「それだけじゃない。」
佐伯。
「継続率も。」
「高いです。」
九条。
「システムの安定性も悪くない。」
白石が九条を見る。
「九条君まで。」
「事実。」
橘も資料を見る。
「資金面でも。」
「まだ余裕があります。」
「追加出資の話も進んでいるようです。」
誰もすぐには口を開かなかった。
これまでの競合とは違う。
サービスがいい。
運営もいい。
資金もある。
そして利用者も増えている。
本物だった。
西園寺が悠を見る。
「社長。」
「どうします?」
全員の視線が悠へ集まった。
悠は資料を見る。
(相棒。)
『はい。』
(どう見る。)
短い沈黙。
AIが答える。
『優秀です。』
悠の眉がわずかに上がる。
(お前がそこまで言うか。)
『はい。』
『ブログサービスとして非常によくできています。』
悠はもう一度競合の数字を見る。
(じゃあ。)
(どうする。)
AIはARCBOOKのデータを確認する。
登録者数。
投稿数。
コメント。
お気に入り。
継続率。
利用者同士の接触。
そして。
答えた。
『問題ありません。』
(何?)
『こちらも。』
少し間。
『次のフェーズへ移行する準備が。』
『整っています。』
悠の口元が。
ゆっくり。
上がった。
「……そうか。」
西園寺が悠を見る。
「社長?」
白石も不思議そうに悠を見る。
さっきまで競合の数字を見ていた男が突然笑った。
「何です?」
「何か思いついたんですか?」
悠は競合の資料を静かに閉じた。
そして。
皆を見る。
「こっちも。」
「ようやく準備が整った。」
西園寺。
「……準備?」
悠は笑った。
「次のステージへ行くぞ。」
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