東大を目指してください
部屋に沈黙が流れる。
机の上には、偏差値四十の模試。
その数字を見ているだけで、現実を突き付けられている気分だった。
「大学には行く。」
「三流大学でいい。」
「入れれば十分だ。」
『相棒。』
「なんだ。」
『その判断は推奨できません。』
「だから何だって言うんだ。」
少し苛立ちながら聞き返す。
AIはいつもの調子で答えた。
『東京大学を目指してください。』
「…………。」
思考が止まった。
「……は?」
『東京大学を目指してください。』
「聞こえなかったんじゃない。」
「意味が分からなかったんだ。」
俺は机の模試を指差す。
「これ見えてるか?」
『見えています。』
「偏差値は?」
『40.2です。』
「じゃあ何で東大なんだ。」
『最適だからです。』
「全然説明になってねぇよ。」
思わず頭を抱える。
「東大なんて、日本一だぞ。」
『はい。』
「俺は偏差値四十。」
『はい。』
「残り一年もない。」
『正確には三百四日です。』
「細けぇよ!」
思わず机を叩く。
AIは何事もなかったように続ける。
『時間は十分です。』
「十分じゃない。」
「普通なら一年じゃ偏差値は十も上がらない。」
『普通なら、です。』
その一言で、部屋が静かになった。
主人公は黙る。
AIは続ける。
『相棒は普通ではありません。』
「俺が?」
『いいえ。』
一拍置いて。
『私がいます。』
思わず吹き出した。
「……お前、自信満々だな。」
『事実を述べています。』
「いや、俺の人生なんだぞ。」
『だからです。』
AIの声は変わらない。
淡々としている。
感情は感じられない。
なのに、不思議と揺るぎない。
『相棒。』
『一つ質問があります。』
「何だ。」
『人生をやり直したいと思った理由は何ですか。』
俺は答えられなかった。
親孝行。
後悔。
失った時間。
失った人。
全部だった。
『三流大学で十分という判断は、その後悔を全て解決できますか。』
「…………。」
言葉が出ない。
『できません。』
静かな声だった。
責めるような口調ではない。
ただ、事実を並べているだけだった。
『相棒。』
『人生をやり直すのであれば、中途半端な目標を設定する理由はありません。』
俺はゆっくり目を閉じる。
そうだ。
俺は失敗した人生を、もう一度やり直すためにここへ戻ってきた。
なのに。
最初から逃げ道を作っている。
「……怖いんだよ。」
思わず本音が漏れた。
「また失敗するのが。」
AIは一秒も間を置かなかった。
『失敗は想定していません。』
俺は苦笑する。
「そんな言い切れるのか?」
『いいえ。』
一瞬だけ期待した。
少しは現実的な答えが返ってくるのかと。
しかし、次の一言でその期待は裏切られる。
『失敗は許しません。』
部屋が静まり返る。
「……お前。」
「本当に大したチートだな。」
『ありがとうございます。』
「まだ褒めてない。」
AIは何も答えなかった。
ただ、静かに次の言葉を待っているようだった。
「東大受験編、いよいよ開幕です!もし面白いと思ってくれたら、ブクマや評価で応援してもらえると執筆の励みになります!」




