チート採用
第一期決算を終えた数日後。
ARC本社。
社長室。
西園寺が一冊のファイルを机へ置いた。
「社長。」
「少し、ご相談があります。」
悠は資料から顔を上げる。
「どうした?」
西園寺は苦笑しながら肩をすくめた。
「嬉しい悲鳴です。」
「会社が大きくなりすぎました。」
「大きくなりすぎた?」
「はい。」
西園寺は資料を一枚めくる。
「社員数は順調に増えています。」
「売上も十億円を突破しました。」
「ですが。」
「管理がそろそろ追いつきません。」
悠は静かに資料へ目を落とした。
西園寺は続ける。
「採用。」
「教育。」
「人事評価。」
「これらは現在、私が兼任しています。」
「そろそろ限界です。」
悠は頷いた。
確かに、西園寺へ任せすぎている。
もう一枚。
「次に財務です。」
「売上が十億円規模になり、銀行対応や資金管理も複雑になっています。」
「今は税理士事務所へお願いしていますが。」
「社内にも責任者が必要です。」
さらに一枚。
「法務。」
「契約書の数が急激に増えています。」
「商標。」
「知的財産。」
「取引契約。」
「今後を考えれば、専任担当は必要でしょう。」
その時。
九条がぼそりと呟いた。
「開発も。」
「人育たない。」
「教育。」
「嫌い。」
悠は思わず笑う。
「最後のは分かった。」
「教育係は向いてないな。」
九条は真顔で頷いた。
「向いてない。」
白石も苦笑する。
「教える前に、自分で作っちゃうもんね。」
社長室に小さな笑いが広がる。
だが。
問題は現実だった。
会社は確実に成長している。
だからこそ。
今までのやり方では限界が来ていた。
悠は椅子へ深く腰掛ける。
「分かった。」
「求人を増やそう。」
その瞬間だった。
『非推奨です。』
頭の中へ、いつもの声が響く。
悠は少しだけ目を閉じる。
(どうして?)
『求人は。』
『応募者を待つ方式です。』
『採用まで時間を要します。』
『教育コスト。』
『採用失敗リスク。』
『すべて高くなります。』
(じゃあ、どうする。)
AIは静かに答えた。
『相棒。』
『忘れましたか。』
『私は。』
『未来の人材データベースを保有しています。』
悠の表情が少し変わる。
(……そうか。)
(その手があったか。)
『現在必要なのは。』
『新卒ではありません。』
『即戦力です。』
『会社を次の段階へ進める管理職です。』
悠は心の中で頷く。
(でも。)
(そんな優秀な人材、簡単に来てくれるか?)
AIは即座に答えた。
『現在は。』
『まだ無名です。』
『年収も一般企業水準。』
『しかし十年後。』
『彼らは各業界を代表する人材になります。』
悠は思わず苦笑した。
(……なるほど。)
(未来を知ってるっていうのは。)
(そういう使い方もあるのか。)
『今なら。』
『極めて低コストで採用可能です。』
悠は吹き出しそうになる。
(本人からしたら。)
(たまったもんじゃないな。)
(何もしてないのに突然ヘッドハンティングされるんだから。)
AIは少し考えるような間を置いた。
『合理的です。』
(合理的すぎるんだよ。)
(このチートAI。)
悠は小さく笑った。
だが、すぐに表情を引き締める。
(ただ、一つ約束だ。)
『?』
(今は未来ほどの給料は出せない。)
(でも。)
(会社が大きくなったら。)
(必ず、それに見合う報酬を払う。)
AIは数秒沈黙した。
そして。
『了解しました。』
『報酬設計を更新します。』
『候補者満足度を最大化するプランへ変更。』
悠は笑う。
(そこまでしなくていい。)
(でも。)
(仲間には報いたい。)
AIは静かに答えた。
『理解しました。』
『第一候補を表示します。』
悠の脳内へ、一人のプロフィールが映し出される。
**財務責任者候補。**
現在。
中堅メーカー経理部主任。
未来。
日本を代表する企業のCFO。
続いて。
**人事責任者候補。**
現在。
人材会社勤務。
未来。
数万人規模の組織をまとめる人事責任者。
さらに。
**法務責任者候補。**
現在。
新人弁護士。
未来。
企業法務の第一人者。
悠は静かに息を吐いた。
「面白い。」
西園寺が首を傾げる。
「社長?」
悠は我に返る。
「ああ。」
「少し考え事をしてた。」
そして静かに立ち上がる。
「求人は出さない。」
「こちらから迎えに行こう。」
西園寺は驚きながらも頷いた。
「目星がいるんですか?」
悠は窓の外へ視線を向ける。
「あぁ、そうだな」
会社は。
また一つ。
新しいステージへ進もうとしていた。
読んでいただきありがとうございます!
もし面白いと思ってくれたら、ブクマや評価で応援してもらえると執筆の励みになります!




