第一期決算
春が近づき始めた頃。
ARCの事務所では、朝から社員たちが慌ただしく動き回っていた。
一年前。
「広すぎる。」
そう言われたオフィスは、今ではほとんどの席が埋まっている。
小さかったサーバールームも今はかなり拡張されている。
電話が鳴り続け。
営業担当が商談へ飛び出し。
開発チームは新機能の打ち合わせを続ける。
会社は確実に大きくなっていた。
会議室。
創業メンバーと各部署の責任者が席に着く。
西園寺が資料を手に立ち上がった。
「それでは。」
「第一期決算報告を始めます。」
部屋が静かになる。
西園寺は一枚目の資料を映し出した。
「まず、販売状況です。」
「販売開始から一年足らずですが。」
「黒崎社長の会社による販売件数が、ついにARC営業部を上回りました。」
社員たちから小さなどよめきが起こる。
悠は静かに笑った。
「さすがですね。」
西園寺も笑う。
「ええ。」
「営業力だけなら、最初から向こうの方が上でした。」
「商品が加わったことで、その力が一気に発揮されています。」
「現在も販売数は伸び続けています。」
次の資料へ切り替わる。
「続いて。」
「個別開発事業。」
「そしてSEO支援事業です。」
「どちらも順調に成長しています。」
技術部長が資料を見ながら頷く。
西園寺は続けた。
「特にSEO支援を利用している企業では、アクセス数、売上ともに改善が見られています。」
「ショップを導入して終わりではなく。」
「売れるところまで支援する。」
「その評価が広まりました。」
さらに数字を示す。
「その結果。」
「契約更新率は過去最高を記録。」
「解約率も大きく低下しています。」
社員たちの表情が明るくなる。
西園寺は笑顔で締めくくった。
「お客様満足度の向上が、そのまま会社の成長につながっています。」
悠も小さく頷いた。
「良い流れだ。」
西園寺は最後の資料をゆっくり机へ置いた。
「社長。」
「最後に、第一期の実績をご報告します。」
会議室が再び静まり返る。
「ホームページ制作。」
「年間制作件数――千件を突破。」
社員たちから小さな拍手が起こる。
「ARCショップメーカー。」
「契約企業数――一万社を突破。」
今度は拍手が大きくなった。
一年前。
誰も知らなかったサービス。
それが今では、一万社もの企業に利用されるまでになっていた。
西園寺は最後の資料を掲げる。
「そして。」
「第一期売上は――。」
一拍置く。
「十億円を突破しました。」
その瞬間。
会議室は大きな拍手に包まれた。
「やった!」
「十億円だ!」
「一年でここまで……。」
新しく入社した社員たちは興奮を隠せない。
一方。
創業メンバーは顔を見合わせ、静かに笑っていた。
あの頃は。
広すぎると言われた事務所。
社員は数えるほど。
電話も鳴らず。
机だけが並んでいた。
最初の一件を取るため。
何度も営業へ出た日々。
夜中までプログラムを書き続けた九条。
デザインを何度も描き直した白石。
営業資料を抱えて走り回った西園寺。
その積み重ねが。
今、この数字になっていた。
西園寺は拍手が落ち着くのを待って、静かに頭を下げる。
「以上。」
「ARC第一期決算報告を終わります。」
会議室に再び拍手が響いた。
悠はゆっくり立ち上がる。
社員一人ひとりを見回した。
「みんな。」
「ありがとう。」
その一言だけだった。
長い演説はしない。
それでも、その一言だけで十分だった。
社員たちは再び大きな拍手を送る。
その光景を見ながら、悠は静かに窓の外へ目を向けた。
桜が咲き始めていた。
会社を立ち上げて一年。
長いようで。
本当にあっという間だった。
そして。
東京大学へ入学してから、一年が過ぎた。
気づけば。
俺たちは、二回生になっていた。
まだ一年。
もう一年。
日本一への道は。
ようやく、その第一歩を踏み出したばかりだった。
読んでいただきありがとうございます!
もし面白いと思ってくれたら、ブクマや評価で応援してもらえると執筆の励みになります!




