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最初のパートナー

夕暮れ。


東大から戻った悠たちは、ARCの事務所へ足を踏み入れた。


社員たちは今日も慌ただしく電話対応に追われている。


「社長、お帰りなさい。」


西園寺が一枚の紙を持って近づいてきた。


「黒崎社長からメールが届いています。」


悠はパソコンの前へ座り、メールを開いた。


件名。


『販売・導入・開発パートナー契約について』


本文は簡潔だった。


神谷社長


ご提案いただいた契約内容について、社内で慎重に検討いたしました。


営業部門、技術部門ともに異論はありません。


御社と共に新しい市場を築いていきたいと考えております。


つきましては、正式契約を締結したく存じます。


ご都合のよろしい日時をご連絡ください。


株式会社光システム


代表取締役 黒崎 誠司


悠は小さく笑った。


「早いな。」


西園寺も頷く。


「黒崎社長、本気ですね。」


「こちらも待たせる理由はありません。」


悠はすぐに返信を打ち始めた。


翌週。


黒崎たちはARCの事務所を訪れていた。


電話はひっきりなしに鳴り続け。


社員たちは忙しくキーボードを叩いている。


黒崎は周囲を見渡し、小さく笑った。


「活気がありますね。」


西園寺も笑う。


「ありがたいことに、毎日が戦争です。」


「嬉しい悲鳴ですね。」


「ええ。」


「忙しいということは、お客様に必要とされているということですから。」


そこへ白石が書類を持ってやって来た。


「社長、契約書の最終版です。」


黒崎は白石を見る。


「初めまして。」


「黒崎です。」


「白石美咲です。」


軽く頭を下げる。


黒崎は少し驚いたように言った。


「新聞ではお名前だけ拝見しました。」


「デザイン担当でしたね。」


白石は少し照れくさそうに笑う。


「はい。」


「あまり目立ちませんけど。」


黒崎は首を横に振った。


「目立たない人ほど。」


「会社には欠かせないものですよ。」


「ありがとうございます。」


白石の表情が少し明るくなった。


その横では、技術部長が九条へ声を掛けていた。


「九条君。」


「例のパートナー向け管理機能ですが——」


「作った。」


技術部長が固まる。


「……もう?」


「必要だと思った。」


九条はいつものように淡々と言う。


「販売会社ごとの契約管理。」


「導入企業一覧。」


「サポート履歴。」


「全部入れた。」


技術部長は思わず笑った。


「相変わらず仕事が早いですね。」


「まだ足りない。」


九条はパソコンへ向き直る。


「現場で使ってから改善する。」


技術部長は苦笑した。


「なるほど。」


「その考え方は見習いたい。」


黒崎は、そのやり取りを静かに見ていた。


営業だけではない。


技術だけでもない。


この会社は、それぞれが自然に役割を理解し、動いている。


強い理由がまた少し分かった気がした。


会議室へ移動し、契約書が机へ並べられる。


西園寺が内容を一つひとつ確認する。


販売。


導入支援。


個別開発。


利益配分。


責任範囲。


保守体制。


すべて確認が終わると、西園寺が微笑んだ。


「問題ありません。」


黒崎も頷く。


「こちらも異議ありません。」


互いに契約書へ署名し、印鑑を押す。


静かな部屋に、印鑑の音だけが響いた。


西園寺が契約書を閉じる。


「これで正式に。」


「ARC初のパートナーの誕生です。」


黒崎は契約書を見つめながら、ゆっくり息を吐いた。


「数か月前まで。」


「市場で潰し合っていた会社同士が。」


「今では同じ契約書へ判を押している。」


「不思議なものですね。」


悠は笑った。


「競争したからこそ。」


「組む価値があるんです。」


黒崎も笑う。


「確かに。」


「最初から仲の良い会社より。」


「一度本気で戦った会社の方が。」


「お互いをよく知っていますからね。」


悠は頷いた。


「黒崎社長。」


「これで契約は終わりました。」


「ですが。」


「今日が本当のスタートです。」


黒崎の表情が引き締まる。


「ええ。」


「ここからですね。」


悠は一枚の資料を机へ置いた。


表紙には大きく書かれていた。


『SEO支援事業構想』


黒崎が思わず笑う。


「契約したばかりなのに。」


「もう次ですか。」


「もちろんです。」


悠も笑う。


「これは。」


「ARCの新しい事業ではありません。」


「黒崎社長。」


「御社の新しい事業です。」


黒崎はその資料を手に取りながら、小さく頷いた。


「面白くなってきましたね。」


悠も静かに微笑む。


「ええ。」


「ここからが、本番です。」


会議室の窓から差し込む夕日が、二つの会社の契約書を静かに照らしていた。

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