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静かな開発

競合会社、本社会議室。


営業部長が最新の販売データをスクリーンへ映し出した。


「紹介キャンペーン開始から一か月。」


「契約数は二十八%増加。」


「新規契約数も順調に伸びています。」


社長は満足そうに頷く。


「ARCは。」


営業部長が資料をめくる。


「依然として販売は好調です。」


「ですが、紹介キャンペーン開始以降、伸び率はこちらが上回っています。」


役員の一人が笑う。


「やはり価格ですね。」


「どんなに良い商品でも。」


「最後は価格に勝てません。」


営業部長も続ける。


「営業現場からも同様の報告が上がっています。」


「ARCを高く評価する企業は多い。」


「ですが。」


「最終的には七万八千円と紹介キャンペーンが決め手になっています。」


社長はゆっくり椅子にもたれた。


「想定通りだ。」


「商品で負けることはある。」


「だが。」


「会社同士の戦いは体力勝負でもある。」


「資本力の差は簡単には埋まらない。」


役員たちも笑顔で頷く。


「学生相手に少し警戒しすぎましたね。」


「確かに商品は良かった。」


「しかし。」


「会社を経営するというのは、そんなに甘くありません。」


社長も小さく笑う。


「もう少しだ。」


「このまま市場を押さえれば。」


「ARCも力つきる。」


「そこで終わりだ。」


誰も、その言葉を疑わなかった。



一方、ARC。


朝早くから事務所の前が騒がしかった。


大きなトラックが一台、ゆっくりと横付けされる。


運転手が荷台を開けると、大きな箱が次々と運び出された。


白石が目を丸くする。


「えっ……。」


「こんなに?」


サーバー。


ネットワーク機器。


開発用ワークステーション。


新品の機材が次々と事務所へ運び込まれていく。


九条は入口で立ち尽くしたまま動かなかった。


悠が笑う。


「どうした。」


九条は箱を見つめたまま、小さく呟く。


「全部……新品。」


「当たり前だ。」


「会社なんだから。」


悠は箱を軽く叩いた。


「今日からこいつらは、お前の相棒だ。」


九条は恐る恐る箱へ手を伸ばす。


新品の筐体に触れた瞬間、小さく息を飲んだ。


「好きに使っていい?」


悠は思わず笑う。


「そのために買ったんだ。でも変なことはするなよ。」


白石も笑う。


「九条、完全に子どもみたい。」


九条は照れたように目を逸らす。


「違う。」


「いや、今のは完全に子どもだった。」


西園寺まで笑い始める。


事務所に久しぶりの明るい空気が流れた。



その日の午後。


事務所の一角は、小さなサーバールームへと姿を変えていた。


機材が並び、ケーブルが一本ずつ丁寧につながれていく。


九条は一切無駄な動きをしない。


一本。


また一本。


静かに配線を終えていく。


悠が後ろから尋ねる。


「順調か。」


九条は短く答える。


「楽しい。」


その一言だけだった。


だが、それだけで十分だった。


今まで自宅で中古部品を組み合わせながら続けてきた研究。


東大でも自由には試せなかった構成。


ようやく誰にも遠慮せず、本気で挑戦できる。


それだけで、九条にとっては最高の環境だった。



開発は想像以上に難航した。


「同時アクセス。」


「注文処理。」


「画像表示。」


「全部問題なし。」


「でも。」


九条が眉をひそめる。


「会員情報だけ遅い。」


悠も画面を覗き込む。


「原因は?」


「同期。」


AIが静かに分析する。


『会員データへの同時アクセスが集中しています。』


『ここも処理分離を推奨します。』


九条はすぐに図を書き直した。


「会員だけ別。」


「認証も別。」


数時間後。


もう一度テスト。


「速い。」


九条が小さく頷く。


白石も画面を見る。


「今度は私の番。」


ブラウザを開く。


「文字位置。」


「問題なし。」


「色。」


「問題なし。」


「画像。」


「問題なし。」


西園寺も営業担当の視点で確認する。


「初めて使う人でも。」


「迷わない。」


「いい。」


悠は静かに笑った。


「完成が見えてきたな。」



三週間後。


夕方。


九条がゆっくり立ち上がる。


「できた。」


その一言で、全員が席を立つ。


悠がブラウザを開く。


ログイン画面。


IDとパスワードを入力する。


画面が切り替わる。


管理画面。


商品登録。


注文一覧。


テンプレート変更。


カード決済設定。


すべてが、インターネットを通じて動いている。


悠は何も言わず、一つの商品を登録する。


保存。


数秒後。


公開ページへ反映された。


白石が息を呑む。


「本当に……できたんだ。」


西園寺も思わず笑う。


「CDがいらない。」


「インストールもない。」


「ログインするだけ……。」


九条は静かに画面を見つめる。


「まだ。」


「完成じゃない。」


悠が笑う。


「ああ。」


「これは始まりだ。」


画面の向こうには、新しい時代への入口が静かに開いていた。

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