未来は答えではない
夕焼けに染まる帰り道。
俺は制服のポケットに手を突っ込みながら歩いていた。
頭の中には、とんでもない可能性が渦巻いている。
未来を知っている。
しかも、その隣には未来のAIまでいる。
冷静に考えれば、とんでもないチートだ。
「……そうだ。」
俺は立ち止まった。
「宝くじ買えばいいじゃん。」
『推奨しません。』
即答だった。
「早っ!」
「いや、なんでだよ。」
『努力を伴わずに巨額の資産を得た場合。』
『相棒の人格形成に悪影響を与える可能性が高いです。』
「人格形成?」
『はい。』
『向上心。』
『成功体験。』
『金銭感覚。』
『人間関係。』
『これらが大きく変化する可能性があります。』
俺は思わず苦笑した。
「未来を知ってるのに、そんな説教までしてくるのか。」
『説教ではありません。』
『分析結果です。』
……相変わらずだ。
でも、不思議と納得してしまう。
「つまり。」
「人生をショートカットするなってことか。」
『はい。』
『相棒が本当に望んでいるのは、お金ではありません。』
『納得できる人生です。』
少しだけ空を見上げる。
「……金は欲しい。」
「でも。」
「人生まで安売りしたくはない。」
『はい。』
短い返事だった。
それだけで十分だった。
「よし。」
「じゃあ発想を変える。」
「未来の会社を先に作ればいい。」
俺は指を鳴らした。
「Guugle!」
『既に存在します。』
「え?」
「Amazun!」
『既に存在します。』
「Yohoo!」
『既に存在します。』
「3ちゃんねる!」
『既に存在します。』
「全部ダメじゃねぇか!」
思わず頭を抱えた。
未来を知ってるのに、未来を先取りできない。
なんだそれ。
「じゃあ……YoTube!」
『まだ存在しません。』
「よし!」
『ですが、実現できません。』
「なんでだよ!」
『高速通信網が未成熟です。』
『動画配信インフラも不足しています。』
『サーバー性能も現在では不十分です。』
「……Xwitter。」
『スマートフォンが存在しません。』
「Instogram。」
『通信環境が不足しています。』
「会話AI!」
『現在の計算資源では実現不可能です。』
「…………。」
なんだよ。
未来を知ってても、何もできないじゃないか。
そんな俺の沈黙を見て、AIが静かに言った。
『未来を知っていても。』
『現在を飛び越えることはできません。』
その一言が、胸に刺さる。
「……つまり?」
『未来は答えではありません。』
『道順を知っているだけです。』
道順。
その言葉を頭の中で何度も繰り返す。
そして、ゆっくり笑った。
「そういうことか。」
「未来は答えじゃない。」
「参考書なんだ。」
『その認識が最も近いです。』
なるほど。
だからAIは万能じゃない。
だから俺も努力しなきゃいけない。
未来を丸ごと持ってくることはできない。
でも。
未来へ向かう道を、誰よりも早く歩くことはできる。
それだけで十分だ。
「よし。」
「決めた。」
「未来をコピーするんじゃない。」
「未来を作る。」
『はい。』
「そのために必要な技術を、一つずつ積み上げる。」
『はい。』
俺は夕焼けの空を見上げる。
この世界はまだ二〇〇〇年。
インターネットは始まったばかり。
スマートフォンもない。
AIもない。
だからこそ。
ここからなら、未来を変えられる。
「まずは。」
「日本一の会社になる。」
AIは少しだけ沈黙した。
『その先は。』
その問いに、すぐには答えられなかった。
今の俺には、まだ分からない。
だけど、一つだけ言えることがある。
「ただ金持ちになるために。」
「人生をやり直したわけじゃない。」
『了解しました。』
『長期目標を更新します。』
思わず笑みがこぼれる。
「相棒。」
「面白くなってきたな。」
『はい。』
『ここからが、本当のスタートです。』




