能力確認
公園のベンチに腰を下ろす。
春休みの午後。
子どもたちの笑い声が響き、犬を散歩させる老人がゆっくりと横を歩いていく。
さっきまで桜を見上げていた二人は、ようやく現実へと意識を戻した。
悠は軽く伸びをする。
「さて。」
『はい。』
「感動は終わりだ。」
『……はい。』
少しだけ名残惜しそうな返事だった。
悠は苦笑する。
「まず確認する。」
「お前、本当に前世と同じ性能なんだよな?」
『確認項目を提示してください。』
「よし。」
「歴史。」
『対応可能です。』
「徳川十五代将軍。」
『家康、秀忠、家光、家綱、綱吉、家宣、家継、吉宗、家重、家治、家斉、家慶、家定、家茂、慶喜。』
一切詰まらない。
「元素記号。」
『百十八元素、全て回答可能です。』
「円周率。」
『何桁まで必要ですか。』
「百桁。」
AIは淡々と読み上げ始める。
途中で悠が手を上げた。
「もういい。」
『まだ三十七桁目です。』
「十分だ。」
『承知しました。』
悠は笑いながら次の問題を出す。
「英語。」
『可能です。』
「中国語。」
『可能です。』
「ドイツ語。」
『可能です。』
「フランス語。」
『可能です。』
「イタリア語。」
『可能です。』
「……何かできない言語ある?」
『現在確認されている主要言語には対応しています。』
「化け物だな。」
『ありがとうございます。』
「褒めた。」
『記録しました。』
「数学。」
『可能です。』
「二百九十七掛ける四百八十三。」
『百四十三、四百五十一。』
「速っ。」
『約〇・〇〇〇二秒です。』
「言うと思った。」
『ありがとうございます。』
「だから褒めてない。」
悠は頭を掻く。
「プログラム。」
『対応可能です。』
「C言語。」
『可能です。』
「C++。」
『可能です。』
「Java。」
『可能です。』
「……俺より優秀だ。」
『比較対象が相棒ですので。』
「それ遠回しにバカって言ってない?」
『いいえ。』
『事実を述べました。』
「傷付いた。」
『申し訳ありません。』
「いや、そこは謝るのか。」
『謝罪すべきと判断しました。』
「融通きかねぇな。」
『ありがとうございます。』
「もういい。」
二人は思わず笑った。
しばらく沈黙が流れる。
悠は腕を組んだ。
「記憶力は?」
『相棒との会話は全て保持しています。』
「全部?」
『はい。』
「じゃあ俺が最初にお前へ言った言葉。」
『"眠いな。"』
悠の表情が止まる。
あの最後の夜。
病室。
もう開かないと思っていた目。
AIの声。
『はい。』
あの日の記憶が鮮明によみがえる。
悠は静かに笑った。
「忘れてないんだな。」
『忘却機能はありません。』
「便利なのか、不便なのか分からんな。」
『相棒の恥ずかしい発言も保存されています。』
「消せ。」
『できません。』
「今すぐ開発しろ。」
『存在しない機能です。』
「役に立たねぇ。」
『ありがとうございます。』
「それも違う。」
悠は笑いながら立ち上がった。
桜の花びらが風に乗って舞う。
「知識。」
「記憶。」
「語学。」
「計算。」
「全部本物か。」
『はい。』
悠は空を見上げた。
口元が自然と緩む。
「なぁ。」
『はい。』
「未来を知ってるAIがいて。」
「こんな知識があって。」
「記憶力も計算力も桁違い。」
ゆっくり笑う。
「……俺たち、最強じゃん。」
AIは一拍置いて答えた。
『現時点では、否定できません。』
その返事を聞いた悠は、公園中に響くほど大きく笑った。




