終わらない戦い
ARCショップメーカーの新バージョンは、市場へ出ると同時に大きな反響を呼んだ。
「こんなに簡単に作れるのか。」
「社員教育がほとんどいらない。」
「これなら更新も自分たちでできる。」
西園寺は毎日のように営業へ出ていた。
値上げした二十九万八千円という価格に驚く企業は多い。
だが、一度デモを見せると反応は一変した。
「思っていたものと違う。」
「これはホームページ作成ソフトじゃない。」
「ネットショップ運営そのものを変える商品だ。」
契約。
また契約。
紹介。
さらに紹介。
紹介された企業が契約し、その企業がまた別の企業を紹介する。
西園寺が作り上げた営業手法は、他の営業担当にも少しずつ広がっていった。
「価格ではなく、お客様の課題を聞け。」
「商品を売るな。」
「利益を売れ。」
営業部の空気が変わり始めていた。
◇
もちろん、すべてが順調だったわけではない。
競合会社の七万八千円という価格は、想像以上の武器だった。
相見積もりになれば、
「機能は魅力的だけど、価格差が大きすぎる。」
そう言って競合を選ぶ企業も少なくない。
営業から戻った西園寺は、資料を机へ置いた。
「今日は三件訪問しました。」
「契約は一件です。」
悠は資料を受け取り、静かに目を通す。
「残り二件は?」
「価格でした。」
西園寺は苦笑する。
「どうしても七万八千円には勝てません。」
悠は小さく頷いた。
「想定通りです。」
「価格だけを見る会社もある。」
「そこは追わなくていい。」
西園寺は笑う。
「はい。」
「私たちの商品を理解していただける会社だけを増やします。」
その表情に焦りはなかった。
負ける営業もあれば、勝つ営業もある。
それが営業という仕事だった。
◇
それから三か月。
市場はさらに熱を帯びていった。
新聞には、
**『ネットショップ市場、急拡大』**
という見出しが踊る。
企業は次々とインターネットへ参入し始める。
ARCも売れる。
競合も売れる。
価格重視の企業は競合へ。
使いやすさや将来性を重視する企業はARCへ。
市場そのものが大きくなっていた。
◇
そんなある日。
西園寺が慌ただしく事務所へ戻ってきた。
「社長。」
「競合が新しいキャンペーンを始めました。」
悠は資料を受け取る。
大きく書かれていた。
**ご紹介キャンペーン実施中!**
**ご紹介一件につき 二万円キャッシュバック!**
白石が思わず声を上げる。
「ここまでやるの?」
九条も画面から目を離した。
西園寺は悔しそうに笑う。
「営業としては、かなり厳しいですね。」
「紹介だけで二万円。」
「価格だけで比較されると、こちらは不利になります。」
事務所が静まり返る。
悠は資料を見つめたまま、小さく笑った。
「やっぱり強いな。」
西園寺が頷く。
「資本力があります。」
「ここまでの販促は、普通の会社にはできません。」
悠はゆっくり椅子にもたれた。
「資本の力は恐ろしい。」
その一言には、大企業と戦う難しさへの率直な実感が込められていた。
白石が不安そうに尋ねる。
「どうする?」
悠はすぐには答えなかった。
窓の外を眺める。
街には、新しくできたネットショップの広告が目立つようになっていた。
市場はまだ伸びている。
だが、このまま価格競争と販促合戦を続ければ、いつか必ず限界が来る。
その時だった。
頭の中に、静かな声が響く。
『相棒。』
悠は心の中で答える。
(どうした。)
『この戦いは、まだ終わりません。』
(分かってる。)
『ですが。』
『戦う場所を変えることはできます。』
悠は目を閉じた。
その言葉の意味を考える。
AIは続けなかった。
答えを押しつけることはしない。
ただ、未来を知る相棒として、相棒を導く。
悠はゆっくりと目を開く。
「……戦う場所を変えるか。」
悠はこの言葉の意味を更に深く考え込む。
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