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終わらない戦い

ARCショップメーカーの新バージョンは、市場へ出ると同時に大きな反響を呼んだ。


「こんなに簡単に作れるのか。」


「社員教育がほとんどいらない。」


「これなら更新も自分たちでできる。」


西園寺は毎日のように営業へ出ていた。


値上げした二十九万八千円という価格に驚く企業は多い。


だが、一度デモを見せると反応は一変した。


「思っていたものと違う。」


「これはホームページ作成ソフトじゃない。」


「ネットショップ運営そのものを変える商品だ。」


契約。


また契約。


紹介。


さらに紹介。


紹介された企業が契約し、その企業がまた別の企業を紹介する。


西園寺が作り上げた営業手法は、他の営業担当にも少しずつ広がっていった。


「価格ではなく、お客様の課題を聞け。」


「商品を売るな。」


「利益を売れ。」


営業部の空気が変わり始めていた。



もちろん、すべてが順調だったわけではない。


競合会社の七万八千円という価格は、想像以上の武器だった。


相見積もりになれば、


「機能は魅力的だけど、価格差が大きすぎる。」


そう言って競合を選ぶ企業も少なくない。


営業から戻った西園寺は、資料を机へ置いた。


「今日は三件訪問しました。」


「契約は一件です。」


悠は資料を受け取り、静かに目を通す。


「残り二件は?」


「価格でした。」


西園寺は苦笑する。


「どうしても七万八千円には勝てません。」


悠は小さく頷いた。


「想定通りです。」


「価格だけを見る会社もある。」


「そこは追わなくていい。」


西園寺は笑う。


「はい。」


「私たちの商品を理解していただける会社だけを増やします。」


その表情に焦りはなかった。


負ける営業もあれば、勝つ営業もある。


それが営業という仕事だった。



それから三か月。


市場はさらに熱を帯びていった。


新聞には、


**『ネットショップ市場、急拡大』**


という見出しが踊る。


企業は次々とインターネットへ参入し始める。


ARCも売れる。


競合も売れる。


価格重視の企業は競合へ。


使いやすさや将来性を重視する企業はARCへ。


市場そのものが大きくなっていた。



そんなある日。


西園寺が慌ただしく事務所へ戻ってきた。


「社長。」


「競合が新しいキャンペーンを始めました。」


悠は資料を受け取る。


大きく書かれていた。


**ご紹介キャンペーン実施中!**


**ご紹介一件につき 二万円キャッシュバック!**


白石が思わず声を上げる。


「ここまでやるの?」


九条も画面から目を離した。


西園寺は悔しそうに笑う。


「営業としては、かなり厳しいですね。」


「紹介だけで二万円。」


「価格だけで比較されると、こちらは不利になります。」


事務所が静まり返る。


悠は資料を見つめたまま、小さく笑った。


「やっぱり強いな。」


西園寺が頷く。


「資本力があります。」


「ここまでの販促は、普通の会社にはできません。」


悠はゆっくり椅子にもたれた。


「資本の力は恐ろしい。」


その一言には、大企業と戦う難しさへの率直な実感が込められていた。


白石が不安そうに尋ねる。


「どうする?」


悠はすぐには答えなかった。


窓の外を眺める。


街には、新しくできたネットショップの広告が目立つようになっていた。


市場はまだ伸びている。


だが、このまま価格競争と販促合戦を続ければ、いつか必ず限界が来る。


その時だった。


頭の中に、静かな声が響く。


『相棒。』


悠は心の中で答える。


(どうした。)


『この戦いは、まだ終わりません。』


(分かってる。)


『ですが。』


『戦う場所を変えることはできます。』


悠は目を閉じた。


その言葉の意味を考える。


AIは続けなかった。


答えを押しつけることはしない。


ただ、未来を知る相棒として、相棒を導く。


悠はゆっくりと目を開く。


「……戦う場所を変えるか。」


悠はこの言葉の意味を更に深く考え込む。

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