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価値を売る

新バージョン公開から三日。


ARC営業部。


「社長。」


西園寺が静かに資料を閉じる。


「そろそろ市場の反応を見に行きましょう。」


悠は笑った。


「ああ。」


「反撃開始だ。」



最初の訪問先は、日用雑貨を扱う中堅企業だった。


会議室。


担当者は二人を見るなり苦笑した。


「正直に言います。」


「御社のソフトには興味があります。」


「ですが、一つだけ理解できません。」


資料をめくる。


「値上げしたんですよね。」


「以前は十九万八千円。」


「今は二十九万八千円。」


「競合は九万八千円。」


「三倍近い価格差です。」


「なぜですか。」


悠は何も言わない。


ここは西園寺の仕事だった。


西園寺は穏やかに頷く。


「はい。」


「価格だけなら、私どもの負けです。」


担当者は少し驚く。


否定されると思っていた。


「ですが。」


西園寺は笑った。


「今日はソフトを売りに来たわけではありません。」


「御社の損失を減らす提案に来ました。」


担当者が首を傾げる。


「損失?」


「一つお聞きしてもよろしいでしょうか。」


「ネットショップは誰が担当されますか。」


「総務です。」


「パソコンは。」


「普通ですね。」


「ホームページ制作経験はありません。」


西園寺は頷いた。


「完成までどれくらいを想定されていますか。」


担当者は少し考えた。


「操作を覚えて。」


「商品を登録して。」


「写真も撮って。」


「二週間くらいでしょうか。」


西園寺はパソコンを開いた。


「では、ご覧ください。」


ARCショップメーカー。


業種一覧。


「日用雑貨。」


担当者がクリックする。


数秒後。


完成されたネットショップが画面いっぱいに表示された。


カテゴリ。


商品一覧。


おすすめ商品。


キャンペーン枠。


すべて配置されている。


担当者が目を丸くした。


「……もう?」


「はい。」


「今日ホームページ担当になった方でも。」


「数分後には商品登録を始められます。」


「社員教育も、ほとんど必要ありません。」


担当者は画面を操作する。


「これは……。」


「誰でも使えますね。」


「それが目的です。」


西園寺は続けた。


「御社は二週間かかるとおっしゃいました。」


「その二週間。」


「担当者は本来の仕事ができません。」


「教育にも時間がかかります。」


「その間。」


「ネットショップは売上を生みません。」


担当者は静かに頷く。


「確かに。」


西園寺は画面を切り替えた。


「春。」


桜を基調としたデザイン。


「夏。」


爽やかな青。


「秋。」


木目を基調とした温かい色。


「冬。」


落ち着いた配色。


「クリスマス。」


「お正月。」


「新生活。」


次々と画面が変わる。


担当者は思わず身を乗り出した。


「全部最初から?」


「はい。」


「ボタン一つです。」


「デザイン会社へ依頼する必要もありません。」


「イベント当日の朝でも変更できます。」


「お客様は、いつ見ても新しいお店だと感じます。」


担当者はゆっくり頷いた。


「更新しやすいですね。」


「更新しやすい店は。」


西園寺は静かに言う。


「売れます。」


「逆に更新されない店は。」


「お客様も来なくなります。」


担当者は苦笑した。


「耳が痛いですね。」


西園寺は最後の画面を開いた。


「さらに。」


「カード決済です。」


担当者は驚いた。


「もう対応したんですか。」


「はい。」


「今は振込が主流です。」


「ですが。」


「振込へ行く前に。」


「買うのをやめるお客様は少なくありません。」


担当者も深く頷く。


「ありますね。」


「カード決済なら。」


「欲しい。」


「買う。」


「支払う。」


「数十秒です。」


「購入率は確実に上がります。」


担当者はしばらく画面を見つめていた。


そして静かに笑う。


「ようやく分かりました。」


「御社は。」


「ソフトを売っているんじゃない。」


「売上を売っているんですね。」


西園寺も笑った。


「ありがとうございます。」


担当者は契約書を手に取った。


「お願いします。」


「それと。」


「同業の会社を二社紹介します。」


「きっと喜ぶと思います。」


西園寺は深く頭を下げた。


「ありがとうございます。」



そこからだった。


紹介。


紹介。


また紹介。


「値上げしたんですか?」


「はい。」


「ですが。」


「こちらをご覧ください。」


テンプレート。


カード決済。


導入サポート。


説明が終わる頃には。


担当者の表情は変わっていた。


「お願いします。」


契約。


また契約。


営業部のホワイトボードが次々と埋まっていく。


営業部員も、西園寺の提案方法を覚え始めた。


「価格ではなく。」


「時間を売る。」


「売上を売る。」


その考え方が、営業部全体へ広がっていく。


一週間後。


営業部。


白石が受話器を置いた。


「また紹介だよ。」


「今日だけで四件目。」


九条も販売数を見ながら呟く。


「値上げ前より。」


「売れてる。」


悠は静かに笑った。


「安い商品に勝ったんじゃない。」


「比較されない商品になったんだ。」


AIが静かに分析する。


『販売件数。』


『競合参入前を上回りました。』


『紹介による契約率も上昇しています。』


『第一段階の反撃は成功です。』


悠は小さく頷いた。


(ここまでは予定通りだ。)



一方。


競合会社。


営業部長が慌てた様子で会議室へ入る。


「社長。」


「ARCです。」


社長は落ち着いたまま資料を読む。


「値下げしたか。」


「いえ。」


「では。」


「価格は据え置きです。」


営業部長は首を横に振った。


「違います。」


「値上げしています。」


社長の手が止まる。


「……何?」


「二十九万八千円です。」


会議室が静まり返った。


「値上げして。」


「売れているのか。」


営業部長は苦しそうに頷く。


「販売数は回復。」


「現在も増加中です。」


「紹介契約まで発生しています。」


社長の表情から笑みが消えた。


「理由を調べろ。」


「すべてだ。」


初めて。


会議室に緊張が走った。


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