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価格競争

競合他社が新製品を発売してから、一か月。


それまで順調に伸びていたARCショップメーカーの売上は、まるで嘘だったかのように減速した。


毎日のように届いていた注文メールは目に見えて減り、営業部の空気も重くなる。


西園寺恒一は今日も朝から営業へ出ていた。


夕方。


事務所へ戻ると、静かに契約書を一枚机へ置く。


「今日は一件です。」


営業部員も疲れ切った表情だった。


「また価格で負けました。」


「機能は評価してもらえるんです。」


「でも最後に、半額なら……って。」


西園寺は静かに頷いた。


「今日はもう帰りましょう。」


「また明日です。」


営業部員たちが帰ったあとも、西園寺は一人、営業日報を書き続けていた。



一方、その頃。


都内。


大手ソフトウェア会社、本社会議室。


営業部長が売上資料を映し出す。


「発売から一か月。」


「販売本数は当初予測を二割上回っています。」


役員たちの表情が緩む。


「順調ですね。」


「やはり価格戦略は正解でしたね。」


営業部長も頷く。


「ARCの販売数は急激に減少しています。」


「市場シェアも逆転しました。」


社長は静かに資料を閉じた。


「予想通りだ。」


「だが、一つだけ忘れるな。」


会議室の空気が引き締まる。


社長は机の上のARCショップメーカーを手に取った。


「この商品は本物だ。」


「初期バージョンでここまで完成度が高いソフトはそうそうない。」


「UIも優秀。」


「初心者でも迷わない。」


「正直、本気でこのチームがうちのだったらと思う。」


営業部長が苦笑する。


「末恐ろしいですね。」


社長は静かに頷く。


「だからこそだ。」


「普通の会社なら放っておいても消える。」


「だが、本物は違う。」


「苦境を乗り越えた会社は、一気に強くなる。」


社長はパンフレットを閉じた。


「だから、今だ。」


「このまま成長させれば、必ずいつか脅威になる。」


営業部長が尋ねる。


「次に打ってくる手は。」


社長が笑う。


「値下げだろうな。」


「ここまで価格差があれば、それしかない。」


営業部長も頷いた。


「価格競争になれば、こちらのものです。」


「利益は薄くなりますが、当社なら長期戦にも耐えられます。」


「市場を取ってから利益を戻せばいい。」


社長は静かに立ち上がる。


「価格は維持。」


「ARCが下げたら、こちらも下げる。」


「出る杭は、早いうちに打つ。」


「ここで終わらせる。」


誰も反対しなかった。



翌日。


一本の電話が鳴る。


白石が受話器を取る。


「はい、株式会社ARCです。」


しばらく話を聞いた白石の表情が曇る。


「……はい。」


「分かりました。」


静かに受話器を置く。


悠が尋ねた。


「どうした?」


白石は言いづらそうに答える。


「導入したお客様です。」


「競合へ乗り換えるから……。」


「返金できないかって。」


事務所が静まり返る。


九条は拳を握る。


「機能なら負けてない。」


「使いやすさだって負けてない。」


白石は悔しそうに俯いた。


「でも……。」


「半額なんだよ。」


誰も言い返せなかった。



その日の夕方。


四人は会議室へ集まっていた。


机の上には売上推移のグラフ。


右肩上がりだった線は途中から横ばいになり、その先はゆっくりと下を向いていた。


白石が静かに口を開く。


「……やっぱり。」


「値下げした方がいいんじゃない?」


九条も資料を見つめながら頷く。


「開発費はほぼ回収できている。」


「今なら利益も残る。」


「利益率は下がるけど、生き残ることはできる。」


悠は何も言わない。


売上グラフを見つめたまま動かなかった。


西園寺が腕を組み、ゆっくり話し始める。


「私は営業として、値下げは好きではありません。」


「安さで選ばれたお客様は、もっと安い商品が出ればまた離れます。」


少し間を置く。


「ですが……。」


「ここまで価格差がある以上、営業だけで覆すのは難しい。」


「悔しいですが、今回は値下げもやむを得ないでしょう。」


事務所に沈黙が流れる。


誰もが同じ答えに辿り着いていた。


値下げ。


それしか、生き残る方法はない。


その時だった。


悠はゆっくり顔を上げた。


その口元が、静かに緩む。


九条が眉をひそめる。


「……悠?」


白石も首を傾げる。


「何か思いついた?」


悠は立ち上がった。


三人を見渡す。


そして、ニヤリと笑う。


「値下げ?」


一拍置く。


「逆だ。」


さらに一拍。


「ARCショップメーカーは。」


「今日から値上げする。」


三人の思考が止まった。


誰一人、その言葉の意味を理解できなかった。


『分析結果。』


AIの静かな声が悠の頭に響く。


『その判断が最適解です。』

読んでいただきありがとうございます!

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