似てる
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西園寺恒一がARCへ入社してから、一か月。
会社の景色は確実に変わり始めていた。
営業先へ向かう車の助手席。
悠は商談を静かに見守っていた。
西園寺は慌てない。
急がない。
まず相手の話を聞く。
困っていること。
理想。
予算。
導入後のイメージ。
十分に話を聞いてから、初めてARCショップメーカーを紹介する。
「なるほど。」
「それなら、ちょうどいいかもしれませんね。」
担当者は自然と頷いていた。
商談を終え、会社へ戻る。
契約書を机へ置いた西園寺が笑う。
「また一件です。」
悠も笑った。
「ありがとうございます。」
西園寺は首を振る。
「社長。」
「もう私一人では回りません。」
「営業を増やしましょう。」
悠は迷わず頷いた。
「分かりました。」
◇
それから数週間。
営業経験者を数名採用した。
西園寺は自ら教育係になった。
「商品を売らないでください。」
新人たちは首を傾げる。
「営業は商品を売る仕事ではありません。」
「相手の困りごとを見つける仕事です。」
ある新人が落ち込んで戻ってきた。
「契約が取れませんでした。」
西園寺は怒らない。
「何に困っていました?」
「え……。」
「それを聞きましたか?」
新人は黙った。
西園寺は穏やかに笑う。
「次は、そこから始めましょう。」
営業部は少しずつ育っていった。
◇
営業を完全に西園寺へ任せるようになり、悠はようやく社内へ腰を据えられるようになった。
新機能の企画。
お客様からの要望整理。
ホームページ制作チームとの打ち合わせ。
アルバイトたちへの指示。
事務所では数人の学生アルバイトが忙しそうに作業している。
誰も遊んでいない。
会社全体が動いていた。
悠は静かに周囲を見渡す。
(ようやく……。)
(会社らしくなってきた。)
その時だった。
AIが静かに告げる。
『分析を開始します。』
悠は心の中で微笑く。
(頼む。)
『営業部門。』
『開発部門。』
『デザイン部門。』
『ホームページ制作部門。』
『各部門の稼働を確認。』
数秒後。
『組織構築率五十二%。』
(まだ半分か。)
『ですが。』
『成長速度は予測を上回っています。』
『現在のチームであれば、更なる高みを目指せます。』
悠は静かに頷いた。
(ありがとう、相棒。)
◇
契約は順調に増えていった。
一件。
また一件。
電話は鳴り続ける。
ホームページ制作の依頼も減らない。
ARCショップメーカー。
ホームページ制作。
二本柱は確実に会社を成長させていた。
銀行口座の残高も、目に見えて増えていく。
白石が嬉しそうに言う。
「会社っぽくなってきたね。」
九条も珍しく笑う。
「忙しいけど。」
「悪くない。」
悠も笑った。
「まだ始まったばかりだ。」
◇
その日の夕方。
九条が一枚のパンフレットを持ってきた。
「悠。」
「これ。」
悠は受け取る。
ホームページ作成ソフト。
価格。
九万八千円。
悠はページをめくる。
商品管理。
注文管理。
会員管理。
デザイン変更。
どこか見覚えのある機能が並んでいた。
白石の表情が固まる。
「……似てる。」
九条は静かに言う。
「かなり。」
悠は最後のページを見る。
販売会社。
日本でも名の知れたソフトウェア企業だった。
社員数は数百人。
資本金は、ARCとは比べものにならない。
事務所に静かな空気が流れる。
西園寺はパンフレットを閉じた。
「社長。」
「市場を作れば。」
「必ず大きな会社が入ってきます。」
「これは成功した証拠です。」
悠は静かに頷く。
「つまり。」
西園寺も頷いた。
「ここからが、本当の勝負です。」
AIが静かに分析を終える。
『競争フェーズへ移行します。』
『競合企業を確認。』
『資金力。』
『営業力。』
『知名度。』
『すべてARCを上回っています。』
『現時点での勝率。』
『二十二・四%。』
部屋が静まり返る。
悠はパンフレットを机へ置いた。
そして、静かに笑う。
「面白くなってきた。」
誰もまだ知らない。
ARC最大の試練が。
すぐそこまで迫っていることを。




