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契約成立

翌日。


悠は、西園寺の会社の前に立っていた。


昼休み。


ビルから社員が次々と出てくる。


その中に、西園寺の姿があった。


「神谷さん?」


西園寺は少し驚いたように笑う。


「また営業ですか?」


「今日は違います。」


悠は真っ直ぐ西園寺を見た。


「うちへ来ませんか。」


西園寺は一秒も考えなかった。


「随分急ですね。」


「でもお断りします。」


あまりにも即答だった。


悠は思わず笑う。


「理由を聞いても?」


西園寺は肩をすくめた。


「創業したばかりの会社は九割潰れます。」


「私は家族もいます。」


「給料が止まる会社には入りません。」


現実的だった。


夢より数字。


理想より生活。


西園寺は笑いながら言う。


「営業は数字で飯を食います。」


「夢では食べられません。」


「財布は厚く。」


「理想は熱く。」


「これが私の流儀です。」


悠は静かに頷いた。


「分かりました。」


「また来ます。」


「え?」


「諦めません。」


西園寺は苦笑した。


「変わった社長ですね。」


そう言って二人は別れた。



三日後。


悠は再び会社の前にいた。


西園寺は遠くからその姿を見つけ、頭を抱えた。


「本当に来た……。」


その時だった。


ビルの中から怒鳴り声が響いた。


「西園寺!」


営業部長だった。


「お前、何を勝手なことを言ってる!」


「お客様には正直に納期を伝えました。」


「それの何が悪い。」


「多少盛ってでも契約を取れ!」


「契約さえ取れば後は何とかなる!」


西園寺の表情が変わる。


「それは違います。」


「信用を失えば、二度と買っていただけません。」


「営業は契約を取る仕事じゃない。」


「信頼を積み重ねる仕事です。」


部長は机を叩いた。


「黙れ!」


「お前は数字だけ見てろ!」


西園寺は深く息を吐く。


「……失礼します。」


静かに部屋を出た。


会社を出ると、悠が立っていた。


「聞こえてしまいました。」


西園寺は苦笑する。


「格好悪いところを見せましたね。」


「いえ。」


悠は首を振る。


「格好良かったです。」


西園寺は少し照れくさそうに笑った。


「社長さん。」


「何のために営業をしていると思います?」


悠は逆に聞いた。


「西園寺さんは、何のために営業をしているんですか。」


西園寺は即答した。


「お金です。」


迷いがなかった。


悠は少しだけ目を丸くする。


西園寺は笑う。


「営業なんですから。」


「稼げない営業は失格です。」


少しだけ空を見上げる。


「でも。」


「ありがとうと言われない仕事は、会社が長続きしません。」


「財布は厚くしたい。」


「でも、お客様にも笑っていてほしい。」


「欲張りなんですよ。」


その瞬間。


AIの声が静かに響く。


『分析開始。』


悠は黙ったまま話を聞き続ける。


数秒後。


『分析終了。』


『回答に矛盾はありません。』


『利益と顧客満足を両立する営業思想です。』


悠は思わず口元を緩めた。


西園寺が不思議そうに見る。


「何か?」


「いえ。」


悠は小さく首を振った。


「確信しただけです。」


西園寺は首を傾げた。


「何をです?」


悠は真っ直ぐ西園寺を見る。


「あなたはただの営業マンじゃありません。」


「同時に会社のことも考えています。」


西園寺は初めて言葉を失った。


「会社の利益を考えている。」


「お客様の利益も考えている。」


「会社のお金も大切にできる。」


「そんな人は営業マンじゃない。」


「会社を一緒に作る人です。」


西園寺は苦笑する。


「買い被りですよ。」


「いいえ。」


「うちは基本給は高くありません。」


「ですよね。」


即答だった。


悠は笑う。


「でも歩合は高いです。」


「営業が売上を作る。」


「だったら、一番報われるべきです。」


西園寺の表情が少し変わる。


悠は続けた。


「会社のお金は、会社を成長させるために使います。」


「社員を豊かにするためにも使います。」


「でも、見栄のためには一円も使いません。」


「そこは約束できます。」


AIが静かに告げる。


『事業計画と一致。』


『虚偽はありません。』


西園寺は財布を取り出した。


小銭を数える。


一円玉が落ちた。


すぐに拾う。


「一円を笑う人は、一億円にも笑われます。」


悠は笑った。


「だから、あなたに来てもらいたい。」


その一言だった。


西園寺はしばらく黙っていた。


やがて、小さく笑う。


「社長。」


「あなた。」


「営業を探しているんですよね。」


悠も笑う。


「ええ。」


「でも、それだけじゃない。」


「一緒に会社を作る仲間を探していました。」


長い沈黙が流れた。


西園寺はゆっくりと右手を差し出す。


「一つだけ条件があります。」


「何でしょう。」


「会社が儲かったら。」


「営業には、ちゃんと還元してください。」


悠は力強く頷く。


「約束します。」


西園寺は笑った。


「その契約。」


「成立です。」


二人は固く握手を交わした。


その光景を見つめながら、悠の耳にだけAIの声が響く。


『推奨人材の獲得を確認。』


『ARCの成長予測を更新します。』


悠は心の中で静かに答えた。


(これでARCは更に先へ進める。)


読んでいただきありがとうございます!

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