2本柱
朝九時。
新しいオフィスには、まだ三つしか机がなかった。
広い部屋に、キーボードを叩く音だけが響いている。
悠はホワイトボードの前に立つと、大きく二本の線を引いた。
上には、
**ホームページ制作**
下には、
**販売管理ソフト『ARCショップオーナー』**
「今日は会社の話をする。」
白石と九条が顔を上げた。
悠は売上表を貼る。
「今、会社を支えているのはホームページ制作だ。」
「ソフトは売れ始めた。でも、まだ未来の柱だ。」
九条はすぐに言った。
「だったらホームページ制作は縮小するべきだ。」
「開発に集中した方がいい。」
白石も頷く。
「私もそう思います。」
悠は首を横に振った。
「いや。」
「会社には柱が二本いる。」
ホワイトボードを指差す。
「ホームページ制作は、今を支える柱。」
「販売管理ソフトは、未来を支える柱。」
「どちらも欠かせない。」
白石は苦笑した。
「でも三人じゃ限界ですよ。」
「だから人を増やす。」
「社員ですか?」
「いや。」
悠は笑った。
「まずはアルバイト。」
その瞬間、頭の中でAIが話しかけてきた。
『現在、学内認知度が急上昇しています。』
『研究補助という名目で募集すれば、採用コストを大幅に削減できます。』
悠は眉をひそめる。
(このポンコツ。)
『ありがとうございます。』
(褒めてない。)
AIは数秒考えるように沈黙した。
『表現を修正します。』
『将来の優秀な社員候補を、早期に発掘できます。』
悠は小さく笑う。
(その言い方なら百点だ。)
『学習しました。』
その日の午後。
情報工学科の掲示板に、一枚の募集用紙が貼られた。
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**ホームページ制作スタッフ募集**
・ホームページ制作補助
・プログラム補助
・デザイン補助
対象:東京大学在学生
「実際の案件を経験できます。」
---
その横には、小さく会社名が書かれていた。
** 株式会社ARC **
翌朝。
オフィスのインターホンが鳴る。
「失礼します。」
一人。
また一人。
昼には五人。
夕方には十人以上の学生が面接に来ていた。
白石は目を丸くする。
「こんなに?」
九条も少し驚いている。
「昨日貼ったばかりだぞ。」
最初の学生が言った。
「教授の講義で知りました。」
次の学生。
「パン屋さんのホームページを見ました。」
また別の学生。
「販売管理ソフトを作った会社ですよね。」
「ぜひ参加したいです。」
悠は静かに三人を見回した。
少し前まで、自分たちは仕事を探していた。
今は、一緒に働きたいという学生が目の前にいる。
白石が小声で言う。
「何だか信じられませんね。」
悠は笑った。
「仕事は、人が連れてくる。」
その日のうちに数名を採用し、一週間後にはホームページ制作チームが動き始めた。
ホームページ制作は学生たちが担当する。
白石がデザインを確認し、
九条がシステムを確認する。
悠はお客様との打ち合わせと、新しい販売管理ソフトの営業に時間を使えるようになった。
会社は少しずつ変わり始めていた。
三人で回していた会社は、
仲間と一緒に動く会社へ。
そして悠は、新しくできた時間で、次の目標を口にした。
「よし。」
「次は、個人店じゃない。」
「法人へ行こう。」
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