面白い
四限の終了を告げるチャイムが鳴った。
学生たちが教室を出ていく。
悠もノートを閉じ、廊下へ出た。
少し先を九条が歩いている。
今日も一人だった。
「九条。」
九条が振り返る。
「……。」
「今日の夜、時間あるか。」
「ある。」
「新しい仕事の話だ。」
九条は少しだけ考えた。
「面白い?」
悠は笑う。
「たぶんな。」
「行く。」
それだけ言うと、九条は研究室へ向かって歩き出した。
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午後六時。
大学から歩いて二十分ほどのワンルーム。
玄関のドアが開く。
「お疲れ。」
「……。」
九条は靴を脱ぐと、迷わず机へ向かった。
悠はコンビニの袋を机に置く。
「先に飯だ。」
「後。」
「仕事を始めたら食べないだろ。」
九条は否定しなかった。
二人は黙って弁当を食べる。
食べ終わると、悠は一枚の仕様書を差し出した。
「相談じゃない。」
「依頼だ。」
九条は紙を受け取る。
ページをめくる音だけが部屋に響いた。
やがて口を開く。
「……ネットショップ。」
「ああ。」
「楽地。」
「違う。」
悠は首を振った。
「楽地はデパートだ。」
九条は顔を上げる。
「店を出したい会社は、楽地に場所を借りる。」
「でも、それだと客は楽地の客になる。」
悠は机の上に置かれた企業のホームページを指差した。
「俺が作りたいのは、この会社自身の店だ。」
「ホームページを見に来た客が、そのまま商品を買える。」
「楽地に客を集めるんじゃない。」
「会社自身がお客を集められるようにする。」
九条は少し考えた。
「……会社専用の店。」
「ああ。」
「ホームページの中に、その会社だけのネットショップを作る。」
九条は再び仕様書へ目を落とした。
しばらく沈黙が続く。
「じゃあ。」
「一社ごとに全部作るのか。」
「いや。」
悠は即座に否定した。
「最初の一社のためだけに作るな。」
「百社、千社と増えても困らないものを作る。」
「違うのは会社名と商品だけだ。」
「店の仕組みは全部同じでいい。」
「最初から、その前提で設計してくれ。」
九条は仕様書を閉じた。
静かに考え込む。
数秒後、小さく呟いた。
「……面白い。」
午後八時半。
そこから会話はほとんどなくなった。
悠は営業計画を書き直す。
九条は設計図を描き始める。
やがてキーボードの音が部屋を満たした。
午後十時。
十一時。
日付が変わる。
悠はコーヒーを淹れる。
九条は画面から一度も目を離さない。
午前一時。
悠は大きく伸びをした。
「少し遅くなってきたな。」
九条が時計を見る。
「……一時。」
「早いな。」
「早い。」
二人は顔を見合わせ、少しだけ笑った。
まだ話したいことも、作りたいものも山ほどある。
悠は最後に聞いた。
「作れそうか。」
九条は迷わず答えた。
「……面白い。」
その一言で十分だった。
ワンルームの明かりは、その夜も遅くまで消えなかった。




