運命の出会い
「仲間、か……。」
悠は大学のキャンパスを歩いていた。
昨日から、その言葉が頭を離れない。
会社は順調に成長している。
仕事も増え続けている。
だが、一人では限界がある。
ならば答えは一つ。
仲間を探すことだった。
『分析。』
「何だ。」
『必要な人材の条件です。』
『高い技術力。』
『学び続ける能力。』
『信頼できる人格。』
『そして――』
『日本一という目標を笑わない人。』
悠は小さく笑った。
「最後が一番難しいな。」
昼休み。
学食へ向かう途中、学生たちの会話が耳に入る。
「また九条だ。」
「昨日も研究室に泊まってたらしい。」
「授業よりプログラムの方が好きなんだろ。」
「変人だよ。」
九条。
その名前だけが悠の耳に残った。
「ちょっと見に行くか。」
情報工学系の研究室。
ドアは少しだけ開いていた。
中を覗く。
壁一面の専門書。
床には空になったカップ麺。
そして、何台ものパソコン。
古いデスクトップが四台。
LANケーブルで数珠つなぎに接続されている。
中央では、一人の青年が猛烈な勢いでキーボードを叩いていた。
周囲の音など、まったく聞こえていない。
悠は静かにモニターへ目を向ける。
画面いっぱいに並ぶソースコード。
『解析開始。』
AIが静かに読み始める。
数秒後。
『解析完了。』
『複数台のコンピューターへ処理を分散させる実験コードです。』
悠は目を細めた。
(分散処理……?)
『はい。』
『一台で処理しきれない計算を複数台へ振り分けています。』
悠は思わずコードへ視線を戻した。
四台のパソコン。
それぞれが通信しながら、一つの処理を進めている。
『現在は四台構成。』
『理論上は接続台数に比例して処理能力を拡張できます。』
悠の鼓動が少し速くなる。
(……大学二年生が?)
AIは続ける。
『現時点では一部の研究機関や海外企業で研究が始まっている段階です。』
『日本国内では、まだ一般的とは言えません。』
『趣味として実装する内容ではありません。』
悠は思わず息をのんだ。
前世の記憶がよみがえる。
検索エンジン。
クラウド。
動画配信。
AI。
そのすべてが、膨大な計算能力の上に成り立っていた。
そして、その根幹にある技術が――分散処理だった。
(こいつ……。)
(二十年先を見ているのか。)
AIが静かに尋ねる。
『理解できますか。』
悠は苦笑した。
「全部は無理だ。」
「でも。」
「本物か偽物かぐらいは分かる。」
「こいつは、本物だ。」
その時だった。
九条が突然キーボードを止めた。
数秒間、画面を見つめる。
そして。
すべてのコードを選択した。
Delete。
一瞬で消えた。
悠は思わず声を漏らす。
「え……。」
完成しているように見えた。
いや、十分動くはずだった。
九条は小さく呟く。
「遅い。」
「もっと速くなる。」
何事もなかったかのように、一行目から書き直し始める。
その指には、一切の迷いがなかった。
悠はその姿を見つめながら思う。
(完成したから満足する人間じゃない。)
(もっと良くできると分かっているから、迷わず捨てられる人間だ。)
悠は静かにドアをノックした。
返事はない。
もう一度ノックする。
それでも反応はない。
『聞こえていません。』
「だろうな。」
机を軽く叩く。
ようやく青年が顔を上げた。
ぼさぼさの髪。
眠そうな目。
「……誰?」
「神谷悠。」
「一年だ。」
青年は数秒だけ悠を見つめる。
「九条玲司。」
「二年。」
握手はしない。
それだけ言うと、また画面へ戻ってしまった。
悠は少し笑う。
「また来る。」
九条は画面を見たまま答える。
「どうぞ。」
研究室を出る。
静かにドアが閉まる。
春の風が廊下を吹き抜けた。
AIが尋ねる。
『どうしますか。』
悠は迷わず答える。
「決まってる。」
「日本一になるために。」
「最初の仲間に誘う。」
その声には、一切の迷いはなかった。
読んでいただきありがとうございます!
もし面白いと思ってくれたら、ブクマや評価で応援してもらえると執筆の励みになります!




