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プロローグ 日本一

四月。


東大の桜は、今年も静かに新しい物語を迎えていた。


赤門の前には、真新しいスーツに身を包んだ新入生と、その家族の姿が溢れている。


記念写真を撮る者。


緊張した表情でパンフレットを開く者。


友人と笑い合う者。


誰もが、それぞれの「今日」を胸に、この場所へやって来ていた。


そんな人混みの中を、一人の青年がゆっくりと歩く。


神谷悠、十八歳。


胸元には東大の入学証。


しかし、その瞳は十八歳のそれではなかった。


八十年近い人生を歩み、一度すべてを失い、そしてもう一度十七歳へと戻った男。


長い高校生活を終え、今、新たな舞台へ立っていた。


『高校編、完了。』


頭の中に、いつもの機械的な声が響く。


悠は小さく笑う。


「お前、その言い方だとゲームみたいだな。」


『事実です。高校生活は終了しました。』


「まぁ、間違っちゃいないけど。」


『精神年齢換算では約八十歳です。』


「……それは数えなくていい。」


『了解しました。』


一拍置いて、


『ただし、事実です。』


「だから言うな。」


思わず苦笑が漏れる。


高校時代なら、このやり取りだけでも周囲から怪しい目で見られていただろう。


だが今は誰も気にしない。


皆、自分の未来で頭がいっぱいなのだ。


赤門を見上げる。


テレビや雑誌で何度も見た場所。


かつては「雲の上」のように思えたその門を、今、自分の足でくぐろうとしている。


人生をやり直してから今日まで。


努力しなかった日は一日もなかった。


勉強。


ホームページ制作。


プログラミング。


睡眠時間を削り、自分の未来を積み重ねてきた。


その結果が、この場所だ。


悠は静かに門をくぐった。


満開の桜が風に揺れ、花びらが肩へ舞い落ちる。


『分析。』


「なんだ。」


『目標の一つを達成しました。』


「そうだな。」


高校編の目標は、人生をやり直すこと。


後悔を繰り返さないこと。


未来を変えること。


その第一歩は、確かに終わった。


しかし――。


それは、ゴールではない。


ようやくスタートラインに立っただけだ。


入学式会場へ向かう新入生の流れに身を任せながら、悠はゆっくりと歩く。


講堂には期待と緊張が入り混じった空気が漂っていた。


総長の祝辞。


来賓の挨拶。


新入生代表の宣誓。


誰もが真剣な表情で耳を傾けている。


悠も静かに聞いていた。


だが、その内容よりも考えていたことがある。


(……ここから先、何を目指す。)


高校では答えは明確だった。


大学受験。


未来のやり直し。


それだけだった。


しかし、その目標は今日で終わる。


式典が終わり、人の流れに合わせて外へ出る。


桜並木を歩きながら、悠は空を見上げた。


春の青空が広がっている。


『次の目標を設定します。』


AIが静かに言う。


悠は少しだけ笑った。


「いや。」


「もう決めてある。」


『……分析します。』


数秒の沈黙。


『成功確率。』


『極めて低い。』


「知ってる。」


『資金不足。』


「うん。」


『人材不足。』


「その通り。」


『競合多数。』


「それも分かってる。」


『失敗率、非常に高い。』


悠は足を止めた。


桜の花びらが風に舞い、足元へ落ちる。


「それでもやる。」


迷いはなかった。


AIが静かに告げる。


『目標を表示します。』


悠の視界に、一行の文字が浮かぶ。


**『日本一のIT企業を創る。』**


世界一ではない。


最初から世界を相手にするつもりもない。


まずは日本。


この国で誰もが知る会社を創る。


技術で人の生活を変える会社を。


そして、日本をもう一度世界へ押し上げる会社を。


悠は小さく息を吐いた。


「日本一でいい。」


「でも、日本一だけは、本気で獲る。」


AIは静かに答える。


『分析完了。』


『第二の人生ではありません。』


一拍置いて、


『第二の挑戦を開始します。』


悠は笑った。


「ああ。」


「ここからが、本番だ。」


その瞬間――。


「新入生のみなさーん! テニスサークルでーす!」


「プログラミング研究会! 興味ある人どうぞ!」


「軽音部です! 初心者大歓迎!」


静寂は一瞬で破られた。


キャンパス中に響く勧誘の声。


色とりどりのビラ。


笑顔で話しかけてくる先輩たち。


高校とはまるで違う、自由な空気。


 悠は思わず笑う。


「……賑やかだな。」


『分析。』


『大学生活が始まりました。』


桜吹雪の中、悠はゆっくりとキャンパスを見渡した。


「さて。」


「大学生活、始めるか。」


新しい春の風が、静かに彼の背中を押した。


読んでいただきありがとうございます!

いよいよ大学IT起業編スタートです。

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