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最初の三万円

完成したホームページを見ながら、悠は満足そうに頷いた。


「よし。」


「次はどうする?」


『営業です。』


即答だった。


悠は苦笑する。


「……やっぱりそれか。」


『ホームページは完成しても、お客様は現れません。』


『相棒が会いに行く必要があります。』


「分かってる。」


悠はノートパソコンを閉じ、駅前へ向かった。


最初に入ったのは、小さなラーメン屋だった。


「こんにちは。」


「ホームページを作りませんか?」


店主は首を傾げた。


「ホームページ?」


「うちはそんなのいらないよ。」


十分もかからずに店を出た。


二軒目。


「結構です。」


三軒目。


「必要ない。」


四軒目。


「興味ないね。」


五軒目。


「また今度。」


断られ続けた。


夕方になっても成果はゼロ。


悠は近くの公園のベンチへ腰を下ろした。


「全滅か。」


『想定範囲内です。』


「慰めになってない。」


少し沈黙が流れる。


悠はため息をついた。


「何が悪い?」


AIはすぐには答えなかった。


数秒後、静かに話し始める。


『相棒は、自分が売りたいものを説明しています。』


「ホームページのことか。」


『はい。』


『しかし、お客様はホームページを買いたいわけではありません。』


悠は腕を組んだ。


「じゃあ、何を売ればいい?」


『まず、お客様が困っていることを聞いてください。』


『答えは、その後です。』


悠は小さく笑った。


「営業ってのは難しいな。」


『人と話す仕事です。』


『だからです。』


翌日。


悠はもう一度駅前へ向かった。


十一軒目。


小さな定食屋だった。


「こんにちは。」


店主が顔を上げる。


「どうした?」


悠は昨日とは違う言葉を選んだ。


「最近、お昼のお客さんって増えてますか?」


店主は少し驚いた顔をした。


「いや……。」


「昔より減ったかな。」


「近くにチェーン店ができてからね。」


悠は頷く。


「そうですよね。」


「もし初めて来る人が、お店の場所や営業時間、ランチの内容を簡単に見られたら、少し変わると思いませんか?」


店主は考え込んだ。


「そんなことできるの?」


「ホームページでできます。」


店主は悠の顔を見た。


「君が作るの?」


「はい。」


「いくら?」


悠は一瞬だけ黙った。


(いくらが妥当なんだ。)


『相場は三万円から五万円です。』


AIの声が聞こえる。


悠はゆっくり答えた。


「三万円で。」


店主は少し考えたあと、笑った。


「それなら頼んでみようかな。」


悠は一瞬、言葉を失った。


「……ありがとうございます。」


店を出たあとも、しばらく歩き続ける。


駅前の人混みの中で立ち止まった。


「決まった。」


『はい。』


「本当に決まった。」


『相棒が、自分の力で得た最初の仕事です。』


悠は静かに頷いた。


「そうだな。」


それから一週間。


営業時間を確認し、料理を撮影し、店主と何度も打ち合わせを重ねた。


派手な演出は入れない。


初めて来る客が迷わないことだけを考えた。


完成したホームページを見た店主は、何度も画面をスクロールした。


「すごいな……。」


「うちの店じゃないみたいだ。」


悠は少し照れながら笑う。


「ありがとうございます。」


店主は封筒を差し出した。


「約束の三万円。」


悠は両手で受け取る。


封筒は思ったより重かった。


「これが……。」


『最初の売上です。』


悠は首を横に振る。


「違う。」


AIは少し黙る。


『違いますか?』


「これは、お金じゃない。」


「最初の信用だ。」


AIは数秒間、沈黙した。


『……修正します。』


『最初の信用です。』


店主は笑いながら言った。


「そうだ。」


「知り合いにも紹介していいか?」


悠は顔を上げる。


「もちろんです。」


「美容室をやってる友達がいてね。」


「一度紹介してみるよ。」


店を出たあと、悠は空を見上げた。


「紹介か。」


『営業の成果です。』


「営業しなくても仕事が来るってことか。」


『違います。』


『営業したからこそ、次の仕事へつながりました。』


悠は笑う。


「なるほど。」


封筒を軽く握り直した。


仕事は、一件しかない。


だが。


未来は、一件から始まる。


読んでいただきありがとうございます!

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