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共通テスト

朝五時。


目覚ましが鳴る前に目が覚めた。


窓の外はまだ暗い。


静かな部屋に、自分の鼓動だけが響いている。


「……眠れなかった。」


『睡眠時間、五時間四十八分。』


「言うな。」


『承知しました。』


珍しく、それ以上は何も言わなかった。



試験会場。


重い空気が流れていた。


誰も笑っていない。


誰も話していない。


参考書を握る手だけが、小さく震えている。


「緊張するな……。」


『はい。』


「お前はしないのか。」


『私はAIです。』


「聞いた俺が悪かった。」


少しだけ笑う。


その笑顔もすぐ消えた。


試験官が問題冊子を配り始める。


教室は静まり返った。


「始め。」


問題冊子を開く。


一問目。


「……。」


手が止まる。


知らない。


二問目。


「え……。」


これも迷う。


胸が締め付けられる。


(嘘だろ。)


(これなんだっけ......。)


周りでは鉛筆の音だけが響いている。


(終わった。)


その瞬間。


『相棒。』


「……。」


『深呼吸してください。』


呼吸が浅くなっていたことに初めて気付く。


ゆっくり息を吸う。


吐く。


『分かる問題から解きましょう。』


『一問に勝負をかける必要はありません。』


「あ……。」


そうだった。


何百回も練習した。


全部解く試験じゃない。


取れる問題を確実に取る試験だ。


俺は一問目を飛ばした。


三問目。


解ける。


鉛筆が動く。


四問目。


解ける。


五問目。


少し迷う。


飛ばす。


六問目。


解ける。


止まっていた時間が、ようやく動き始めた。



試験終了まで残り十分。


「……。」


まだ空欄が三つ。


(間に合わない。)


『残り十分です。』


「分かってる!」


思わず心の中で叫ぶ。


AIは落ち着いた声で続けた。


『見直しは最後です。』


『まず空欄をなくしてください。』


「……!」


俺は問題を見返す。


どうしても分からない。


なら。


二択まで絞る。


鉛筆を握る。


「頼む……!」


最後の一つを塗りつぶした。


その直後。


「そこまで。」


鉛筆を置く。


全身の力が抜けた。



家へ帰ると、机の上には夕食が並んでいた。


母が心配そうに聞く。


「どうだった?」


「……分からない。」


それしか言えなかった。



夜。


インターネットには速報解答が並んでいる。


答え合わせを始める。




×





×


点数を書き込むたびに、心臓が締め付けられる。


「……。」


最後の一問。


昼間、二択で選んだ問題。


恐る恐る答えを見る。


「……!」


当たっていた。


思わず息を吐く。


それでも。


点数はベストな状態じゃない。


主人公は画面を見つめたまま呟く。


「これ……。」


「足切り、大丈夫なのか……。」


AIは少しだけ沈黙した。


『現時点では判断できません。』


「お前でも?」


『東大の第一段階選抜は、今年の受験者全体の結果によって決まります。』


『現時点では、誰にも分かりません。』


主人公は椅子にもたれかかった。


長い沈黙。


「怖いな。」


『はい。』


「もし足切りだったら……。」


『その時は終わりです。』


「はっきり言うな。」


『ですが。』


少しだけ間が空く。


『まだ終わっていません。』


主人公は静かに目を閉じた。


「……ああ。」


「まだ終わってない。」


画面には、


「東京大学 第一段階選抜発表 三日後」


という文字だけが残っていた。

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