証明
「返すぞ。」
教室に答案が配られていく。
夏休み明け、最後の全国模試。
教室にはいつも以上に緊張した空気が流れていた。
「神谷。」
先生が一枚の紙を持ったまま止まる。
教室が静かになる。
先生は俺を見た。
「……よくやった。」
それだけ言って答案を渡した。
俺はゆっくり裏返す。
全国偏差値。
70.3
一瞬、何も考えられなかった。
七十。
ついに。
七十を超えた。
『目標値を達成しました。』
頭の中で、AIが静かに告げる。
俺は小さく息を吐いた。
「……ありがとう。」
『どういたしまして。』
◇
教室は静まり返っていた。
「七十……。」
「本当に?」
「四十だったよな?」
「半年で?」
誰も笑わない。
誰も疑わない。
もう奇跡ではない。
実力だった。
先生が教壇へ戻る。
「静かに。」
教室はさらに静かになった。
「努力は才能を超えられる。」
先生はゆっくり教室を見渡す。
「私は教師として何度もそう言ってきた。」
「だが。」
「ここまでの成長を、この短期間で見たのは初めてだ。」
教室の視線が、全部俺に集まる。
先生は続ける。
「神谷。」
「前へ。」
「え?」
「いいから来い。」
俺は教壇の前へ立った。
「何か特別な勉強法でもあるのか。」
教室中が耳を澄ませる。
俺は少しだけ考えた。
AIのことは言えない。
だから。
「毎日。」
「やるだけです。」
教室が静かになる。
「昨日より今日。」
「今日より明日。」
「少しずつ。」
「それだけです。」
先生は俺を見つめた。
そして笑った。
「そうか。」
「それが一番難しいんだ。」
俺は席へ戻る。
友人が肩を叩いた。
「東大。」
「行けるな。」
俺は笑う。
「ああ。」
「やっと。」
「スタートラインだ。」
◇
放課後。
誰もいなくなった教室。
窓から夕日が差し込んでいた。
俺は答案を机の上へ置く。
偏差値七十・三。
前の人生なら。
絶対に見ることのなかった数字。
「なあ。」
『はい。』
「ここまで来たな。」
『はい。』
「あと少しだ。」
AIは少しだけ間を置いた。
『ここからが本番です。』
俺は笑う。
「分かってる。」
「だから。」
答案を鞄へしまう。
「最後まで走る。」
『はい、相棒。』
教室を出る。
季節は、もう秋になろうとしていた。
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