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## 第○話 噂


翌朝。


教室のドアを開けた瞬間だった。


ざわっ――。


教室中の視線が、一斉に俺へ集まる。


「来た。」


「神谷だ。」


「東大受けるって本当なの?」


「昨日、振られたらしいぞ。」


「東大も恋愛も難しいな。」


「おい、聞こえるぞ。」


俺はため息をついた。


『現在、神谷悠に関する話題が校内で急速に拡散しています。』


「分析すんな。」


『推定伝播速度は想定の一・八倍です。』


「だから分析すんな。」


教室の後ろから友人が笑いながら近づいてきた。


「神谷。」


「昨日、大丈夫だったか?」


「……まあ。」


「振られた。」


「知ってる。」


「何で知ってるんだ。」


「もう学校中知ってる。」


俺は机に突っ伏した。


「終わった……。」


『終わっていません。』


「恋愛は終わった。」


『認めます。』


「認めるな。」


友人は笑いながら椅子を引いた。


「でもさ。」


「東大は諦めんなよ。」


俺は顔を上げる。


「ああ。」


「今度は逃げない。」


その一言だけで十分だった。



休み時間。


廊下を歩くだけで視線を感じる。


「東大受ける人だ。」


「模試すごかったらしい。」


「偏差値六十七だって。」


「いや、四十からだろ?」


「あり得なくない?」


「何か勉強法あるのかな。」


俺は思わず苦笑した。


数か月前まで、


誰も俺の名前なんて覚えていなかった。


今は違う。


良くも悪くも、有名人だ。


『知名度が上昇しています。』


「芸能人じゃねぇ。」


『校内認知度は芸能人に近い数値です。』


「嬉しくねぇ。」



昼休み。


弁当を食べていると、一人の女子生徒が近づいてきた。


「神谷くん。」


「ん?」


「昨日……。」


「あ。」


終わった。


またその話か。


そう思った。


彼女は少し照れくさそうに笑う。


「告白したんでしょ?」


「……まあ。」


「すごいね。」


「え?」


「私だったら。」


「怖くて絶対できない。」


主人公は少し驚く。


「振られたけどな。」


「それでも。」


「ちゃんと伝えたの、すごいと思う。」


彼女はそれだけ言うと、友達のところへ戻っていった。


俺はしばらく動けなかった。


『好感度が上昇しました。』


「だから分析は禁止。」


『失礼しました。』


少し間が空く。


『恋愛アルゴリズムを一時停止します。』


「削除しろ。」


『大学入学後に再開予定です。』


「保存すんな。」



放課後。


一人で帰る校門。


俺は空を見上げた。


「なあ。」


『はい。』


「振られたことよりさ。」


『はい。』


「告白してよかった。」


AIは少しだけ沈黙した。


『理由をお聞きしてもよろしいですか。』


「前の人生の俺はさ。」


「何も言えずに終わってた。」


「でも今回は。」


「ちゃんと伝えられた。」


「結果はダメだったけど。」


「逃げなかった。」


夕日が校舎を赤く染める。


AIは静かに答えた。


『相棒は、以前の相棒ではありません。』


俺は笑う。


「ああ。」


「少しは成長したかな。」


『少しではありません。』


『大きく成長しました。』


少し照れくさくなって笑う。


「ありがとう。」


『はい。』


帰り道。


もう恋愛のことは考えなかった。


目の前にあるのは、一つだけ。


東大。


残された時間は、あとわずかだった。


読んでいただきありがとうございます!




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