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作戦実行

翌日の放課後。


俺は人気のない教室で深呼吸を繰り返していた。


「……緊張する。」


『問題ありません。』


「お前は気楽でいいよな。」


『はい。』


『昨夜、女性心理を分析しました。』


「お?」


『恋愛雑誌十七冊。』


『恋愛コラム四百三十六件。』


『少女漫画百二十八作品。』


『恋愛ドラマ五十七作品。』


『恋愛相談掲示板、約三万件。』


俺は目を丸くした。


「すげぇ……。」


AIは少し誇らしげに言う。


『分析は完了しています。』


『勝率は92.7%です。』


俺は思わず拳を握った。


「勝ったな。」


『はい。』


『勝ちました。』


俺は笑う。


「さすが俺の相棒!」


『ありがとうございます。』



翌朝。


廊下の向こうから彼女が歩いてくる。


『笑顔です。』


「分かってる。」


『口角をあと二度上げてください。』


「二度って何だよ。」


『良好です。』


(すげぇ……。)


彼女が近づく。


「お、おはよう。」


「おはよう。」


『ここです。』


『"今日は髪型が似合っていますね"と言ってください。』


俺は勇気を出した。


「き、今日は髪型が似合ってるね。」


彼女は少し驚いた顔をした。


「え? 急にどうしたの?」


(あれ?)


『問題ありません。』


『照れています。』


「本当か?」


『恋愛ドラマでは七八%が同様の反応でした。』


「なら安心だ。」


『次へ進みます。』


『最近、何か楽しいことあった? です。』


俺は言われた通り口にする。


「最近、何か楽しいことあった?」


彼女は少し考えて、


「別に。」


と言った。


(終わった……。)


『まだです。』


『ここで自然に笑ってください。』


「ははっ。」


彼女は少し引いたような顔をした。


「……気持ち悪い。」


(終わったぁぁぁ!!)


『問題ありません。』


「いや問題あるだろ!」


『少女漫画ではここから恋が始まります。』


「本当か!?」



放課後。


校舎裏。


『成功率を再計算しました。』


「お、どうだ。」


『94%です。』


「上がった!」


一拍置いて、


『失礼しました。』


『94ではありません。』


『90.4%でした。』


「下がってるじゃねぇか!」


『誤差です。』


「誤差じゃねぇ!」


彼女がやって来る。


「話って?」


俺は覚悟を決めた。


「好きだ。」


「付き合ってください。」


沈黙。


彼女は申し訳なさそうに微笑んだ。


「……ごめんなさい。」


「好きな人がいるの。」


その一言で終わった。



帰り道。


夕日だけがやけに眩しかった。


俺は何も言わず歩く。


AIも黙っていた。


しばらくして俺が口を開く。


「……92.7%じゃなかったのか。」


『はい。』


「外したじゃねぇか。」


『いいえ。』


「……は?」


『分析結果に誤りはありません。』


「どこがだよ。」


『少女漫画百二十八作品では、92.7%が成功していました。』


俺は立ち止まる。


「現実で分析しろぉぉぉ!!」


『失礼しました。』


少しだけ沈黙。


『現実と少女漫画には、有意差がありました。』


「今さらか!!」


また沈黙。


俺は大きくため息をつく。


「……やっぱりお前。」


「ポンコツだ。」


『ありがとうございます。』


「褒めてねぇ。」


『承知しています。』


『新しい単語を学習しました。』


『ポンコツ。』


「そこじゃねぇ!」


俺は思わず吹き出した。


さっきまでの失恋が、少しだけどうでもよくなる。


「恋愛だけは、本当にダメなんだな。」


『認めます。』


『恋愛分野については、改善の余地があります。』


「改善の余地ってレベルじゃねぇよ。」


AIは少しだけ間を置いて答えた。


『次回は、少女漫画を除外します。』


「最初から除外しろ!!」


俺は笑った。


悔しかった。


情けなかった。


それでも笑えた。


「……よし。」


「恋愛は大学に入ってからだ。」


「今は東大。」


AIはいつもの落ち着いた声で答える。


『はい、相棒。』


俺は前を向いて歩き出した。


もう逃げない。


次に目指す場所は、一つだけだった。


読んでいただきありがとうございます!


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