宣言
「神谷。」
昼休み。
担任に名前を呼ばれた。
「ちょっと職員室まで来い。」
教室が少しざわつく。
「何かやらかした?」
「いや、最近成績上がりすぎだからじゃね?」
「また模試の話だろ。」
俺は何も言わず席を立った。
廊下へ出ると、すれ違う生徒までこちらを見ている。
「ほら、あいつ。」
「神谷だ。」
「偏差値六十七の。」
「一気に上がったやつ。」
「絶対何かやってるだろ。」
声は聞こえていた。
でも、気にならなかった。
八十年も生きれば、人の噂なんて風と変わらない。
俺が気にするべきなのは、他人の評価じゃない。
昨日の自分だ。
職員室へ入る。
担任のほかに、進路指導の教師が二人。
さらに学年主任まで座っていた。
……大げさだな。
「座れ。」
椅子へ腰掛ける。
担任が成績表を机へ置いた。
「神谷。」
「お前、本当に頑張ったな。」
「ありがとうございます。」
「だからこそ、今日は大事な話がある。」
進路指導の教師が口を開く。
「志望校を提出してもらった。」
「はい。」
「第一志望……東京大学。」
部屋が静かになる。
「本気なのか?」
「本気です。」
迷いはなかった。
教師たちは顔を見合わせる。
「偏差値六十七は立派だ。」
「しかし、それでも東大は別格だ。」
「今なら十分、旧帝大や難関国立も狙える。」
「堅実に行けば、ほぼ確実に合格できる。」
「なぜ、そこまで東大にこだわる?」
俺は少し考えた。
理由はいくらでもある。
未来を知っているから。
AIがいるから。
人生をやり直しているから。
でも。
どれも違う。
「逃げたくないからです。」
教師たちが眉をひそめる。
「逃げる?」
「前の俺なら、最初から無理だと決めつけていました。」
「挑戦もしないで、自分には才能がないと言い訳していました。」
「だから今回は。」
俺は教師全員の目を見て言った。
「最後まで挑戦します。」
職員室に沈黙が落ちた。
学年主任が腕を組む。
「落ちるかもしれないぞ。」
「はい。」
「一年を無駄にするかもしれない。」
「はい。」
「それでも受けるのか。」
「受けます。」
一秒も迷わなかった。
その返事を聞いた担任は、小さく笑った。
「……そうか。」
進路指導の教師はため息をつく。
「若いな。」
「ですが。」
担任が静かに言う。
「私は応援します。」
進路指導の教師が驚いて振り返る。
「先生?」
「ここまで努力してきた姿を、一番近くで見てきました。」
「挑戦する権利は、努力した者にあります。」
学年主任はしばらく黙っていたが、やがてゆっくりとうなずいた。
「分かった。」
「そこまで言うなら止めない。」
「ただし。」
「最後までやり切れ。」
「途中で諦めるな。」
俺は深く頭を下げた。
「はい。」
職員室を出る。
廊下の窓から、夕日が差し込んでいた。
「相棒。」
『はい。』
「また周りに無茶だって言われた。」
『はい。』
「でも、不思議と腹が立たなかった。」
『なぜでしょう。』
俺は笑う。
「俺が一番、無茶だって分かってるからだ。」
AIは静かに答えた。
『それでも挑戦しますか。』
俺は立ち止まることなく歩き続けた。
「ああ。」
「挑戦する。」
「お前もいるしな。」
少しだけ間があく。
そして、聞き慣れた声が響いた。
『それでこそ、相棒です。』
ここまで読んでいただき、本当にありがとうございます!
学園で勉強だけだなんて寂しすぎますよね。
わかっております。
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