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一年の答え

三月最後の経営会議。


ARC本社の会議室には、いつものメンバーが揃っていた。


悠、九条、白石、西園寺。そして二年生になってから加わった橘、佐伯、高橋。


一年前にはいなかった三人が、今では当たり前のように同じテーブルを囲んでいる。


橘が分厚い資料を全員へ配った。


「それでは、年度末の報告を始めます。」


白石が資料を持ち上げる。


「厚くない?」


「一年分ですから。」


悠も中を見る。


売上。


利益。


利用者数。


契約数。


人件費。


設備投資。


ページをめくっても数字ばかりだった。


悠はそっと資料を閉じる。


橘がすぐに気付いた。


「社長。」


「はい。」


「読んでください。」


「橘が説明してくれるんだろ?」


「そういう問題ではありません。」


西園寺が笑った。


「始めましょう。このままだと決算報告より説教の方が長くなります。」


橘は小さくため息をつき、最初のページを開いた。


「まず、ARCBOOKからです。」


会議室の空気が少し変わった。


この一年で生まれ、最も金を使い、最も問題を起こし、そして最も大きくなった事業だった。


「現在の登録者数、五百六十八万人。」


白石が改めて資料を見る。


「五百六十八万人か……。」


一年前には存在すらしていなかったサービスを、今では五百万人以上が利用している。


ブログを書く。


友達の日記を見る。


メッセージを送る。


コミュニティへ参加する。


一日に何度もARCBOOKを開く利用者も珍しくなくなった。


西園寺が言う。


「もうブログだけのサービスじゃないですね。」


悠も頷いた。


「ああ。」


ARCBOOKは、いつの間にか人と人が集まる場所へ変わっていた。



橘は次のページを開いた。


「続いて、ARCショップメーカー。」


ARCが創業初期から育ててきた事業だった。


企業や個人事業主が、自分たちのネットショップを簡単に作れるサービス。


一年前。


大学一年生終了時点で、利用店舗数はすでに一万を超えていた。


「現在の利用店舗数、約二万八千店舗。」


悠が数字を見る。


「一年でそんなに増えたのか。」


「ARCBOOKの知名度上昇も効いています。ARCという会社自体を知る企業が急激に増えましたから。」


現在の月間売上。


**約一億八千万円。**


一度契約した店舗から毎月利用料が積み上がる。


店舗数が増えれば、その分だけ安定した収益も増える。


ARCBOOKがまだ一円も稼げなかった時期も、この事業が生み出す金が会社を支えていた。


悠が少し笑った。


「こいつには、本当に助けられたな。」


橘も頷く。


「ARCの土台です。」



「次に、HP制作事業。」


現在の月間売上。


**約九千万円。**


白石が少し驚いた。


「こっちもそんなに?」


西園寺が答える。


「ARCBOOKが有名になってから、法人からの問い合わせがかなり増えました。」


高橋も頷く。


「大企業との契約も増えています。」


昔はARCの方から企業へ頭を下げて仕事を取りに行った。


今では向こうから問い合わせが来る。


ARCBOOKが成功したことで、既存事業まで成長していた。



そして橘は、少しだけ嬉しそうに次のページを開いた。


「ARCBOOK広告事業です。」


悠が笑う。


「橘が一番好きなところ。」


「当然です。」


白石。


「即答した。」


広告事業開始初月。


売上は一億二千八百万円だった。


最初は十社から始まった広告主も、その後急速に増えた。


しかも、単に企業数が増えただけではない。


実際に広告を出した企業が効果を確認し、予算を増額した。


広告枠を増やしすぎなかったことで、限られた枠を巡って単価も上昇した。


そして現在。


月間広告売上。


**約三億八千万円。**


白石が目を丸くする。


「初月の三倍くらい?」


「はい。」


西園寺が笑う。


「まだ問い合わせは増えてますよ。」


橘が頷く。


「ただし、悠社長の方針で広告枠そのものは大幅には増やしていません。」


悠は答える。


「利用者が主役だからな。」


広告主が増えても、画面を広告だらけにはしない。


利用者が快適に使える範囲を守る。


その結果。


ARCBOOKの広告枠そのものの価値が上がり始めていた。



橘は三つの数字を並べた。


ARCショップメーカー。


月商、一億八千万円。


HP制作事業。


月商、九千万円。


ARCBOOK広告事業。


月商、三億八千万円。


「その他の小規模な売上を含めると、現在のARCの月商は。」


橘が資料を一枚めくる。


**約六億五千万円。**


会議室が静かになった。


白石が数字を二度見る。


「六億五千万……毎月?」


「現在の水準では、そうです。」


悠も少し驚いていた。


「去年の年商、いくらだった?」


橘は即答した。


「約十億円です。」


白石が顔を上げる。


「ちょっと待って。」


「去年一年かけて十億だったのに、今は二か月弱で十億?」


「そういうことになります。」


西園寺が笑った。


「こうして聞くと、とんでもないですね。」


だが、橘は首を振った。


「もっと分かりやすい数字があります。」


電卓を使う必要すらなかった。


現在の月商。


六億五千万円。


それが十二か月続けば。


**七十八億円。**


橘は言った。


「単純計算ですが、ARCは現在、年商七十八億円のペースで走っています。」


今度こそ、誰もすぐには言葉を出さなかった。


去年。


年商十億円。


それだけでも学生が作った会社としては異常だった。


だが今。


その会社は一年も経たずに。


その七倍以上の速度で走っている。



「ただし。」


橘が続けた。


「七十八億円は、あくまで現在の月商を一年続けた場合の数字です。」


悠が頷く。


「今年一年の売上じゃない。」


「はい。」


ARCBOOKが公開されたのは年度途中。


広告事業が始まったのは、さらに後だった。


今の売上が一年間続いていたわけではない。


橘は年度決算のページを開いた。


「今期の年間売上高は。」


**約四十二億円。**


白石が小さく息を吐く。


「去年が十億だから……。」


「約四・二倍です。」


さらに橘は続けた。


「年間営業利益は、約八億五千万円。」


ARCBOOKは巨大な金を使った。


サーバー。


回線。


開発。


採用。


広告。


設備。


何度も増資し、何度も予算を追加した。


だから、現在の利益率と比べれば年間利益は低い。


それでも。


すべての先行投資を含めて。


八億五千万円が残った。


悠は資料を見つめた。


「あれだけ使って、八億残ったのか。」


橘が訂正する。


「八億五千万円です。」


「そこ大事?」


「大事です。」


白石が笑った。



だが、橘にはもう一つ数字があった。


「そして、こちらが現在の収益力です。」


現在月商。


約六億五千万円。


現在の月間営業利益。


**約二億六千万円。**


悠が顔を上げる。


「二億六千万?」


「はい。」


ARCショップメーカーは、利用店舗が積み上がるSaaS事業。


HP制作は、大型法人案件が増えた。


そしてARCBOOK広告は、急速に利益を生み始めている。


一方でサーバー、人件費、開発費、営業費なども増えている。


そのすべてを差し引いて。


毎月。


約二億六千万円。


橘は少し笑った。


「一年前は、会社全体で年商十億円でした。」


「はい。」


「今は、その四分の一近い金額を一か月の利益として残せるところまで来ています。」


悠は何も言わなかった。


改めて数字にされると。


さすがに実感が追いつかなかった。



佐伯が次の報告をする。


「人員についても報告します。」


現在のARC。


正社員、契約社員を合わせて。


**八十七名。**


悠が止まった。


「……そんなにいる?」


白石が笑う。


「だから知らない人いるんだよ。」


「いや、八十七人くらいなら分かる。」


「昨日、経理の人に『初めまして』って言ったよね。」


悠は黙った。


西園寺が笑う。


「社長、負けです。」


「……次。」



最後に高橋が、大手通信会社との資本・業務提携について報告した。


出資額。


**十億円。**


大容量回線。


データセンター。


障害時のバックアップ。


将来的な設備増強への優先対応。


ARCがさらに大きくなるための基盤も整った。


九条が資料を見る。


「これなら、まだ増えても大丈夫。」


橘がすぐに反応する。


「その言い方はやめてください。」


「何で?」


「また設備投資の話に聞こえるからです。」


九条は少し考えた。


「必要になったらする。」


「分かってます!」


会議室に笑い声が響いた。



すべての報告が終わった。


橘が資料を閉じる。


一年前。


年商、約十億円。


ARCショップメーカー利用店舗、一万店超。


まだ小さな会社だった。


そして一年後。


ARCショップメーカー、二万八千店舗。


ARCBOOK、登録者五百六十八万人。


社員、八十七名。


年間売上、四十二億円。


年間営業利益、八億五千万円。


現在月商、六億五千万円。


現在月間営業利益、二億六千万円。


さらに。


大手通信会社から十億円の出資。


悠は資料を眺めた。


「一年で、ずいぶん変わったな。」


西園寺が笑う。


「来年はどうなってるでしょうね。」


白石が言う。


「もう想像できないよ。」


九条。


「新しいシステム作る。」


橘。


「私は怖いです。」


また笑いが起きた。


悠も笑った。


だが、心の中では。


もう次を考えていた。


(相棒。)


『はい。』


(三年生だ。)


『はい。』


(次は何をやろうか?)


AIは少しだけ間を置いた。


『選択肢は、かなり増えました。』


悠は笑った。


(だろうな。)


金がある。


人がいる。


利用者がいる。


信用がある。


そして、全国へ伸びていける通信基盤も手に入れた。


ARCはもう。


小さな学生ベンチャーではない。


四月。


神谷悠、大学三年生。


ARCの新しい一年が始まる。

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